殺し屋
サイレンサーのついたライフルを構えて、ターゲットを狙撃した。
弾はターゲットの頭に当たり、そして倒れた。
今日も完璧に依頼をこなすことが出来た。
どんな感情にも左右されず、依頼された事を百パーセント成功させる。
これが、殺し屋である俺の信念だ。
電話の着信音で目が覚め、電話を取る。
「はい、Yクリーニングです」
「もしもし? T? 私! U!」
「……はい?」
Uとは、俺のお袋の下の名前だ。
「え……お袋か?」
「そうよ!」
「何でここが分かったんだよ?」
「それはまあ……良いじゃないの!」
「良くねえって!」
「それよりT、あんたいけない仕事してるでしょ?」
「……はあ? 何でだよ……してねえって!」
「大丈夫よ、あんたのしてる事は誰にも言わないから、その代わりね……」
「何だ、まさか金か?」
「違うわよ! お金なんて要求しないよ! その代わりね、もう足を洗いなさい」
「……ほお……なるほど……何でここ知ってるか分かんねえけど、俺を止めたいんだな」
「これ以上、手を汚すのはやめて頂戴、お願い」
「悪いが俺は止まるつもりはねえよ、一回の依頼でがっぽり貰えるんだからさ」
「T!」
「もうかけてくんじゃねえぞ!」
電話を切った。
何処で……何処で俺の裏仕事の情報を掴んだんだ?
最近、腕の調子が良くない。
ターゲットを狙撃しようとする度に、あのお袋の声が脳内を駆け巡るのだ。
これ以上……手を汚して良いのか……そのように考えるようになったのだ。
その所為で引き金を引くのに時間がかかる、これは、どんな感情にも左右されないと言う、俺の信念に反する。
何とかして、お袋の声を頭の中から消去しなくてはならない、何とかして……。
「あ! この前の……」
「はい、Tの友人です」
「Tは、足を洗いましたか?」
「ええ、きっぱり裏の世界から手を引いたようです」
「ああ……良かった……本当に良かった……」
「お母様のご協力のお陰です」
「ありがとうございます……どんなお礼をすれば……」
「あ、いえいえ、お礼は結構ですよ、僕はTを、裏の世界から引きずり出したかっただけですから……あ……でも……一つだけお願いをしても良いですか?」
「……は……はい? 何でしょうか?」
「この事は一切、口外しないようお願いします」
「……は……はい……分かりました……ゴホ……ゴホ……」
「大丈夫ですか?」
「は……はい……ゴホ……大丈夫です……ゴホ……ゴホ……」
完璧だ。
これで俺の所に、どんどん依頼が来るであろう。
あいつは俺よりずっとレベルが高い。
あいつがいる限り、俺のような所には殆ど依頼が来ない。
邪魔だった、兎に角邪魔だった。
しかし殺したくは無かった。
あいつを殺す事は、依頼されていないのだから。