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(番外編)トルコ対ギリシャ

「ええか、おどれら!

 トルコのアホダラをぶち回しちゃるけえ、根性入れえや!」(ギリシャ語)

「ギリシャのバカチンなんざぶちくらしちゃらぁ!

 きさんら、てれーっとしよったら、しばくけんな!」(トルコ語)


 ギリシャとトルコは不仲である。

 古代の話は置いて、近代でも因縁深い。

 かつてオスマン帝国支配下にあったギリシャは、独立後も対立していた。

 それで第一次世界大戦時に、ドイツとの同盟国であったオスマン帝国に対しギリシャは連合国側で宣戦布告する。

 第一次世界大戦終了後、戦勝国ギリシャはオスマン帝国の分割にかかる。

 そしてエーゲ海沿岸部のギリシャ人居留区保護と称し、ギリシャはオスマン帝国改めトルコに侵攻する。

 これが希土戦争である。

 この戦争でトルコ共和国の英雄・ケマル・アタトュルクに敗北したギリシャは、第一次世界大戦後のセーブル条約で認められた領土すら失ってしまう。

 以降、国境問題や少数民族問題で両国は犬猿の仲となる。


 ギリシャ海軍は、アメリカ海軍から購入した「ミシシッピ」級戦艦「キリキス」(旧名「アイダホ」)と「レムノス」(旧名「ミシシッピ」)を保有していた。

 しかし、トルコには負けたくない意地で、史実では購入出来なかったフランス製の戦艦「ヴァシレフス・コンスタンチノス」が召喚されたのだ。

 この戦艦「ヴァシレフス・コンスタンチノス」はフランスの「プロヴァンス」級戦艦であり、

・常備排水量:23,230トン

・速力:20ノット

・主砲:45口径34cm連装砲5基

(改装後の最大射程26,600メートル)

・装甲:舷側270mm

 というスペックであった。


 一方トルコ海軍はドイツから「モルトケ」級巡洋戦艦を購入し、トルコ革命後は「ヤウズ」という名前で使用している。

 戦艦「ヤウズ」のスペックは

・常備排水量:22,979トン

・速力:28.4ノット

・主砲:50口径28cm連装砲5基

(射程距離14,900メートル)

・装甲:舷側270mm

 である。


 防御力はほぼ互角、速力は圧倒的に「ヤウズ」が上、打撃力は「コンスタンチノス」の方が上であった。

 この2国、ドイツ相手には勝つ気がない。

 勝てる訳が無かったから、無駄な努力はしなかった。

 もう一ヶ国、それなりの戦艦を出したオーストラリア・ハンガー帝国の「テゲトフ」に対しては、両国との苦戦するものの、「テゲトフ」の砲弾定数の少なさ、三連装砲にも関わらず揚弾機が砲塔1基につき2つしか無いという仕様にも助けられて、両国とも勝利する。

 2位狙いの戦いとなるのだが、とりあえずそんな事はどうでも良い。

 トルコはギリシャを、ギリシャはトルコをぶっ潰したらそれで良かった。


「あんガキャ、ぼてくり回してやっちゃね」(トルコ語)

「カバチタレる余裕も無い程、しごうしちゃるでぇ」(ギリシャ語)

 両艦の乗組員は敵愾心を高め続ける。

 神の見えざる手、要は「楽しみは最後に取っておこう」の為に、最終戦で両艦は激突する。


「いてもうたれや!」(ギリシャ語)

 射程距離に勝る「コンスタンチノス」が先に砲撃開始。

 だが高速の「ヤウズ」には中々当たらない。

 神の奇蹟で、両艦ともに乗組員の練度と士気は最高に調整されている。

 しかし、あくまでもその能力内での事だ。

 例えば長距離砲戦の必須スキル、砲弾で敵艦の前後を挟んで照準を合わせていく「挟叉」という概念を知らない者が、この世界だからと言っていきなり出来る訳ではない。

 光学照準器が、整備不足で使えないという事は防いでいるが、使用可能範囲以上の距離で照準は出来ない。

 先のオーストリア戦艦「テゲトフ」のように揚弾機が三連装砲に対し二機しか無いから二発ずつしか撃てないとか、三発撃つには左右どちらかの揚弾機をもう一回使って装填するという、設計上の欠陥もそのまま引き継いでいる。

 だから「遠距離では中々当たらない」という人間の限界も超えられない。

 士気過剰によって遠距離砲戦を仕掛けた「コンスタンチノス」であったが、ただ砲弾を無駄遣いしているだけとなる。


 距離1万5千メートルを切り、「ヤウズ」も砲撃を開始する。

「死にさらせ!」(トルコ語)

 この号令で28cm砲が発射されるが、こちらも最大射程のせいか、中々当たらない。

 ただ照準器の性能はドイツ製の方が良いようだ。

 先に命中弾を出したのは「ヤウズ」の方である。

 しかしドイツ製1907年型28cm45口径砲は、重量302kgの砲弾を飛ばすのだが、これが威力不足であった。

 巡洋戦艦という艦種は、イギリスの定義では「戦艦の大口径砲を積んだ巡洋艦」なのだが、ドイツの解釈では「戦艦と巡洋艦の中間サイズの艦で、防御力は戦艦並」なのである。

 8千メートルを切って両艦ともに命中弾を出すものの、致命傷には至らない。

 血の気の多い両戦艦では、

「よっしゃ、ほうじゃったら殴り込みじゃぁ!」(ギリシャ語)

「カチコミ掛けちゃるで、ぶつかった後の衝撃に備えったい」(トルコ語)

 と無茶苦茶な命令が出される。

 士気旺盛な乗組員たちも興奮して

「ぶち殺しちゃる!」

 と叫んでいるから、無茶苦茶とも言えないか……。


 とりあえず遠距離砲戦では当たらない。

 これなら真上から降って来る砲弾に水平防御が耐えられず、撃沈する可能性があったのだが、当たらないものは当たらないから仕方が無い。

 そこで中距離砲戦に変わったが、これは舷側装甲が何とか耐えている。

 打撃力の大きい「コンスタンチノス」の砲により、「ヤウズ」の方がダメージを受けてはいるが、その分命中弾は少ない。

 代わりに照準器の性能が上の「ヤウズ」の砲は比較の話ではあるが、当たる方ではある。

 しかし「コンスタンチノス」が受けるダメージは小さい。

 となると、両戦艦ともに近距離戦闘となり、魚雷をぶち込むのが良い。

 その魚雷だって、お互い戦術機動をする相手に中々当たるものではない。

 そうなると、体当たりして横っ腹に穴を開けるか、接舷斬り込みで搭乗員による戦闘で制圧するか、となる。

……こういう判断になってしまった。


(士気を上げ過ぎて、頭が蛮族化してしまった。

 敵愾心が強過ぎるってのもあるし、調整は程々にしないと)

 と、天の声こと天使が考えていると

「うむ、人間同士の殴り合い、それもそれで面白いではないか」

 と神が頭の悪い発言をしている。

(それだったら大砲を積んだ戦艦にやらせる必要無いでしょ!)

 とツッコミを入れたかったが、そうこうしている間にも両戦艦は近づいていっている。

 装甲に弾かれている部分はともかく、命中弾を受けた上部構造物は破壊され、炎上していた。

 それでも戦い続けている。

(ちょっと士気過剰だ。

 普通、ここまでスクラップになって来たなら、どちらかは退くだろう)

 まあ、退いたら退いたで、神の機嫌が悪くなるから、これはこれで致し方無いのかも。


 だが勝敗は意外な形で着く。

 大口径砲を何発も受けた「ヤウズ」は浸水が始まり、足が遅くなる。

 一方の「コンスタンチノス」は低速だ。

 足を止めての撃ち合いに変わり、ダメージはどんどん蓄積していく。

 そんな撃ち合いの中、「ヤウズ」の15cm副砲が、「コンスタンチノス」の危険物に命中した。

 それは30発の機雷である。

 このフランス製戦艦には、機雷投下機能がついていた。

 そこに砲弾が命中し、大爆発を起こす。

 それを見て喜んでいた「ヤウズ」だったが、こちらには「コンスタンチノス」が放った水中発射式の魚雷が命中してしまった。


「おどれら、気張りや!

 先に沈んだら承知せんけえな!」(ギリシャ語)

「水を掻き出しんしゃい!

 アレより先に沈まんよう、踏ん張っちゃ!」(トルコ語)

 という、ダメージコントロール耐久レースへと変わる。

 結局、機雷30発に誘爆という衝撃には耐えられず、「コンスタンチノス」の方が先に沈没した。

 2時間後、修復に失敗した「ヤウズ」も沈没する。

 そして海上では


「わしらの艦沈めくさりおって、ただじゃ済まさんわい」(ギリシャ語)

「負け犬が吠えおるくさ」(トルコ語)

 とお互いを罵り合いながら、漂流する両艦乗組員同士の第二ラウンドが始まっていた。


「うむ、中々面白い戦いであった」

 満足そうな神とは裏腹に、天の声こと天使は、メンタル調整の面倒臭さに頭を抱えるのであった。

あくまでもギリシャ弁とトルコ弁です。

広島語がテキトーだとか、博多語が違う、そんなガラ悪いのは北九州語じゃないのか、というツッコミは受け付けておりません。


あと基本的に起工までいった戦艦は使いますが、設計段階とか計画だけのは使わないです。

せめて搭載砲のスペックとか、前級からの改良点くらいは分かりたいので。


1日、2日の平日は1話ずつ17時更新とします。

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[一言] こげんこつばっかしよっちゃ天使さん身がもたんとばい(トルコ語)
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