他国の状況
『戦艦大和艦長 有賀幸作様
天の声と申します。
先日は世界戦艦選手権の予備選考にお越しいただき誠にありがとうございました。
厳正な選考の結果、戦艦大和は最終選考進出が決定しましたのでお知らせいたします。
つきましては、本戦にあたり天上にご提出いただく書類を本日発送させていただきました。
5日後までに、必要な書類をご用意の上、同封の返信用封筒でご返送くださいますようお願いいたします』
このような書類が艦長室に置かれていて、有賀艦長はアジア予選通過を知る。
まったく、「お越しいただき」とはどういう了見か。
勝手に召喚したのはそっちだろう、と文句が口から出る。
まあ、必要な書類については艦の幹部たちと話し合ってから書こう。
有賀がジッと目を通していたのは、予選通過の書類と同じように置かれていた、他地区の予選結果である。
次の戦いに関係するものであり、先の書類を書く上でも対戦相手の情報は重要だ。
他地区の状況は
■アメリカ・大西洋地区
1位:イギリス王国(予選通過)
2位:アメリカ合衆国(予選通過)
3位:チリ
4位:アルゼンチン
5位:ブラジル
■欧州地区1
1位:イタリア王国(予選通過)
2位:フランス共和国(予選通過)
3位:オランダ王国
4位:スウェーデン王国
5位:スペイン王国
6位:ノルウェー
■欧州地区2
1位:ドイツ第三帝国(予選通過)
2位:トルコ共和国(予選通過)
3位:ギリシャ
4位:オーストリア・ハンガリー帝国
5位:フィンランド
6位:デンマーク王国
これにアジア地区の
1位:大日本帝国(予選通過)
2位:ソビエト連邦(予選通過)
3位:オーストラリア
4位:タイ王国
5位:大清帝国
を合わせた8ヶ国が予選通過となる。
北欧は海防戦艦という小型艦ばかりで辛かっただろう。
そう思っていたが、計画艦も神の思し召しという名の
「面白そうだから設計図から再現させるか」
で出現し、戦ったそうだ。
そうではあっても、基本的に有力な海軍を持つ国が勝ち残っている。
大方の予想通りと言える。
日米英の3大海軍国に、独仏伊とソ連。
8番目はどこになるかと思ったが、どうやら友好国のトルコのようだ。
そう思いながら有賀は結果表を眺める。
「イタリアの方がフランスよりも強いのか?
まあ、フランスは欧州大戦で真っ先にドイツに負けていたし、こんなものか」
その呟きに天の声が反応する。
『その対戦は、実は神を怒らせてしまってな。
失格かつ、人間世界での生産国にペナルティが発動される所だったんですよ』
聞き捨てならない事を言う。
なに? この世界でだらしない対戦をしたら、元居た世界にも影響が出ると言うのか?
天の声曰く、神を喜ばせる戦いをしないと、場合によってはそれも有るそうだ。
後出しで色々言って来るのは卑怯ではないか。
それよりも、フランスとイタリアは何をした?
『欧州地区1の1位と欧州地区2の2位、欧州地区1の2位と欧州地区2の1位が対戦となる。
自分たちの地区にドイツが居ないと分かり、イギリスがアメリカ・大西洋地区に回ったと知ったフランスは、ドイツと戦うべく2位狙いにシフト。
最初から負けるべく、全員を救命ボートに乗せた上で機関停止して、イタリア戦艦に一方的に撃たせたようだ。
どうせ翌日になれば何事も無かったかのように戦艦は復活するのだし。
イタリアもイタリアでドイツと戦う気が無かったようで、1位通過すべく戦ったのだが、何せ信号旗で状況をフランスから知らされていた為、無人の戦艦に乗り込んで自沈させた。
勝ちが分かっているのに、わざわざ戦うのも面倒臭いそうで。
その後、ボートで漂っているフランス戦艦の乗員を全員招き入れると、艦内でパーティをして一日を終えたのだ』
(そりゃ神も怒るだろう)
有賀は納得する。
まあ確かに楽に勝つのが良いのだろうが、それにしても戦争をナメ過ぎているだろ。
「で、どうして失格にならなかったんですか?
失格案件でしょう?」
『神も激怒されていたのですが、理由を聞くとさっき言ったように、フランスはドイツと戦いたいからそうしたそうで。
理由までだらしなかったら失格でしたが、戦意を持った理由であった為、今回は許したという事ですよ』
「まあフランス海軍は、戦わずしてドイツに接収されたから、その時の恨みを晴らしたいのだろう。
あそこは戦艦『リシュリュー』とか言ったかな。
戦えなかった無念を晴らしたいって意思はよく分かる」
考えてみれば、有賀たちにもそれはある。
トラック諸島で「ホテル大和」、同型艦は「武蔵屋旅館」と言われて、出撃機会も無いまま居住性の良さを買われて、ただ停泊していただけ。
冷房があり、飯が上手く、練習として軍楽隊が演奏しているのを見れば、過酷な作業に従事している駆逐艦乗りたちから揶揄されるのも納得だ。
その後の出撃機会では、ただただ空襲をかわすような戦いばかり。
唯一の対艦戦闘でも、相手に戦艦は居なかった。
そして最期は任務を果たせず、戦友の元に辿り着く事すら出来ずに沈没。
真価を発揮出来なかった悔しさは、日本海軍の戦艦乗りなら理解出来るのだ。
ただし「金剛」・「榛名」・「霧島」・「比叡」の乗員は除くが。
そう思ってフランス海軍に同情したのだが、天の声は口籠る。
『戦艦「リシュリュー」ねえ……。
まあ、そう思っていても良いですが……』
「違うのか?
まさか、フランスも未成戦艦を完成させたので戦っているのか?」
『対戦相手の戦力までは明かせませんが』
ソ連ですらそうだったのだ。
他の国全部がそれをやっていてもおかしくない。
新戦艦建造計画があり、事情によって実現しなかった場合は、既存の戦艦でなく未成戦艦が出て来る。
計画が無ければ、一番最後に保有した戦艦のようだ。
「さっき見た書類。
乗り換え申請書を使うぞ。
欧米諸国が未知の新造戦艦なのに、我が国だけ『大和』では納得がいかん!」
『いやあ、あれは新造戦艦が使えないと思った時に、使い慣れた艦の方への乗り換え対象でして……』
要はダウングレードは良いが、アップデートは認められない模様。
『ちなみに、なんですが、乗り換え可能ならどの戦艦にするのですか?』
「五十万トン戦艦」
『却下です! そんな名前も無い空想の戦艦は!』
明治時代に金田中佐が発案した超巨大戦艦で、一説では全長1017メートル、速力42ノット、主砲45口径41サンチ砲200門以上……。
バランスブレイカーなそんな戦艦は認められないようだ。
『実現する可能性すら無い艦はダメですからね。
どう頑張っても建造出来なかったでしょ』
「それはそうなのだが……」
どうにも納得はいかない。
他国は設計段階、造船所で一部起工された程度の艦が許されているというのに。
『まあその「ヤマト」は百年以上後に、そのサイズの戦艦と戦う事になるし……』
「は? 今何と?」
『口が滑りました。
何も聞かなかった事にして下さいね』
どうも日本は未来も苦難に晒されるようだ。
どうして日本ばかり……。
まあ良い。
次の戦いに集中しよう。
「これからは勝ち抜き戦だったな?
欧州地区1と欧州地区2が対戦するなら、こちらはアメリカ・大西洋地区と対戦するな。
1位と2位が対戦するなら、次の相手はアメリカか!
どうして負けたのか分からんが、願っても無い相手。
沖縄の借りを返させて貰おうぞ」
『……あのお……折角張り切っているところすみませんが……』
「何か?
アメリカもまさか、新造戦艦とか?」
『そこは何とも言えませんが、まずは勝ち抜き戦じゃなくなりました』
「はあ?」
『次は一次予選通過した国を四ヶ国ずつに分けて二次予選になります。
これも総当たり戦です』
「何だと?」
『二次予選から二ヶ国が決勝ラウンドに進出します。
準決勝は二次予選の1位と2位がぶつかり、そして決勝戦となります』
「まあ良い。
二次予選でだろうが、アメリカに勝てればそれで十分無念は晴れる」
『そして後ほどブロック分けの結果が渡されますが……、どうも神は日米は決勝ラウンドで当たった方が面白いだろ、とか言っていたので、二次予選では当たらないと思います』
有賀は思わず大声を挙げて神を罵る。
「好き勝手に対戦を弄るんじゃない!
最初に決まった通りに運営しろや!!」
どの世界でも、主催者は対戦カードとか日程を好き勝手に変更するもののようだった。
今日はここまで。
明日17時から再開します。