最終話 天上の反省会
天上では天使が神に報告を上げている。
「か〜な〜り〜、不満の声が出ています」
アメリカからは「モンタナ」を使わせろ。
ドイツからはH44を使わせろ。
ソ連からは途中換装ではない45cm砲戦艦を使わせろ。
優勝した日本からも50万トン戦艦を出させろ、と。
「出場可能な戦艦の線引きを間違ったんじゃないですか」
そうツッコンだ天使は、また理不尽な神の雷を食う。
どこかで線を引かないと、構想だけの架空艦を現実無視して再現させる事になる。
それはそれで面白いのだが、そうなるとジュール何とかとか、押川何とかが
「それならノーチラス号を!」
「轟天号を!」
なんて思念を送って来ている。
そんな夢の軍艦を使えるものか!
だが、やはり起工までは済ませたという線引きは厳しかったかもしれない。
第二回は計画立案までと条件を緩めようか。
「え?
第二回をするのですか?」
天使は驚き、うんざりし、呆れながら聞いた。
「いや、戦艦じゃなくて巡洋艦や駆逐艦でも良いしなあ。
潜水艦の一騎打ちも面白いかもなあ」
駆逐艦の一騎打ち、戦艦以上にカオスになりそうだ。
駆逐艦の進化は滅茶苦茶である。
黎明期の「ハヴォック」と空母のような「ひゅうが」では別物にしか見えないじゃないか。
そして線引きも、単艦で自分を防御出来る「ひゅうが」と、防衛は僚艦に任せて対潜に専念する「いずも」の間には差があるが、ここにするのか?
いや、そもそも航空機運用能力の有る無しで変わって来るだろうし。
「空母はしないんですね?」
「あんなのは飛行機が本体で、艦はただの箱だろ?
面白くも何とも無いわ」
だとしたら、天使にはどうしても言いたい事がある。
「観測機の使用を認めたのは失敗じゃないのですか?」
天使はまたも、八つ当たりの雷を食う。
神も感じていた事だけに、それを論理立て説明されると腹が立つたのだ。
神からしたら、航空機による爆弾やロケット砲、機雷投下といった洋上艦への攻撃を防げば、あとは着弾観測の使用だけになると考えていた。
まさか、水上機同士の空戦になるという予想は無かったのだ。
水上機は鈍重である。
普通そんなのが戦闘機になるなんて考えられない。
下界では水上機の出番は少なく、偵察とか連絡とかに使われるのが主だった。
爆弾積んで敵国を爆撃とか、船団護衛に使ってる変な奴らもいたが、基本的にそいつらは通常の戦闘機には勝てない。
……下駄履機が普通の戦闘機に一回くらいは勝てるなんて、例外中の例外だと見ていた。
しかしそういう間違った努力が身を結んでしまっている。
誤算も良いとこだ。
そして、結局制空権を握った側が有利に戦いを進める。
そうじゃない、もっと装甲をぶち抜き合う殴り合いが見たかったんだ、と思ったがもう遅い。
次はちゃんと考えようか。
「次なんて本当にあるんですか?
それよりも、次の話よりも大事な事があります。
優勝した『ヤマト』にはどのような栄誉が与えられるんですか?」
天使は、何度有賀たち各国の戦艦艦長から聞かれても答えなかった。
否、天の声をやっていた者も、優勝したらどうなるかを知らされていなかったから、答えようが無かったのだ。
神はそれには自信たっぷりに返す。
「兵器には最高の褒美を与えるぞ」
「それは?」
「それは、
未来永劫語り継がれる栄誉を授けよう」
「…………」
天使は人間たちが可哀想に思った。
頑張って来た結果がそんなのか?
天使は
「主よ、あんまりじゃないですか?」
と人間に代わって抗議をする。
だが、神には神の視点があった。
「兵器なんて、使われてナンボの消耗品だ。
最強という称号を与えても、翌年にはもっと強い兵器が出て来るもの。
まして百年も経てば、そんな物が有った事すら忘れられかねない。
そんな虚しき存在に、即物的な褒美を与えて何の意味があろう?」
天使は更に反論する。
「であれば、優勝国に長寿と繁栄を与えるとかですね」
「時間を超越した神にとって、それは難しいのだ。
どの時代のその国に恩寵を与えるのか?
異なる歴史、分岐する平行世界を作りかねないぞ」
戦死した有賀艦長や、ドイツのヴェーバー艦長に
「敢闘した貴国はこれから繁栄する。
敗戦の痛手など無かったように大国となる」
と言えば、きっと涙を流して喜ぶだろう。
しかし、それは「大和」や「ゲッツ」の戦い無しでも実現する歴史だ。
そして未来永劫それが続くわけではない。
その言葉は褒美としては最高だが、何ら実を伴っていないリップサービスに過ぎないのだ。
神は更に続ける。
「私は戦艦同士の殴り合いが見たかったのだから、栄誉は戦艦に与えられるものだ。
艦長や乗組員は立派だが、それは幾らでも取り替えが可能なものだからなあ。
やはり戦艦にこそ栄光を与える。
それは、歴史の中で消え去っていく空虚なものが、その存在は滅しても誇りとして語り継がれる、有る意味永遠の存在となる栄誉だ。
時を超越した栄光ではないか」
(あれ?
既に日本人の中では『ヤマトこそ最高』っていう意識が出来ていないか?)
天使はそう思ったが、時空を超越した存在の神からの褒美は更に素晴らしいものかもしれない。
実はその名誉が与えられ、その結果が日本人の意思に?
時間軸におかしな干渉でもあったのか?
超越者ではない天使には、それは分からない。
とにかく神は、語り継がれる栄誉こそ、消え行く物に与える褒美として最高のものだと確信を持っていた。
そして神がそう確信している以上、もう揺るがないだろう。
天の声として人間たちに接して来た天使は、その栄誉にはもう反論せず、独自の褒美を与える事にする。
「有賀さん、おめでとう。
『ヤマト』は世界一の戦艦となった」
天の声として語りかける。
「優勝した貴国は、これから繁栄が約束された。
貴方が死んだ時、亡国の瀬戸際にいると思っていただろう?
だが国は滅びない。
むしろもっと強くなる。
貴方たちの戦いは無駄ではなかったのだ」
その天の声を聞いた有賀は、滂沱の涙を流して泣いた。
報われた、理不尽な扱いに耐えた甲斐があった、そう思ったのだろう。
気休めの言葉に過ぎないが、これで良いのだ、天使はそう考える。
超越者である神は、そういう人間の気持ちとか、微塵も気づいていない。
神と人間の中間にいる天使だけが、報いてやれたのだろう。
天使は次いで質問する。
「それで……
次回大会にはディフェンディングチャンピオンとして出場してくれますよね?」
有賀は涙を止めて返事をした。
「絶対に嫌です」と。
あとがき:
どうも、頭の悪い神こと作者です。
連休中の短期連載としてサラッと書いてみました。
本家のWBCが終わって、この構想が頭を過りまして。
……World Battleship Contestの字が並んだ時点で出オチが完了し、以降は蛇足な感もしましたが。
ネタ的には、サラッと日程や対戦カードを変えるあの国とか、地区予選があまりに楽勝と思われ、負けたら終わりに突入した時に弛緩してないかと思ったとか、
「俺たち全然本気じゃないし」
という負け惜しみとかを使いました。
最初、アメリカ代表は戦艦「モンタナ」の予定でした。
しかしあいつ、起工前にキャンセルされてたんですね。
起工まではいってたと思って書き始めたら、自分の記憶が間違ってまして。
まあ「モンタナ」とかソ連の45cm砲戦艦とか、H44とか超大和型戦艦とか、そいつらだけの選手権でも良かったかもしれません。
……そうしたら、優勝の賞品が思い浮かばず。
あと、ゲームでも架空艦は実装していない?
実装されてるのも有る?
とりあえず、完成艦の延長線上にある艦ならシミュレートしやすいな、とか思いました。
第二回は……元ネタの大会的に、3年後?
その時に覚えていて、やる気があったら、今度こそ「モンタナ」とH44を書きます。
(50万トン戦艦はどないしよ?)
それでは8日間ありがとうございました。
……次回作が滞ってるので、何とか書き上げたいとこです。




