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決勝戦

 日米の死闘は日本の勝利で終わる。

 レーダーが使えていたら、お互い同型艦を全部揃えた艦隊戦だったなら、ルールで紹介出来なかった新型戦艦(起工せず)を使えたなら、と様々な不満が残された。

 もっとも日本にしたって

「こちらは謎のこだわりのせいで、超大和型、改大和型はともかく、起工していた第111号艦すら使わせて貰えなかったのだ。

 足枷ハンデがあったのは自分たちだけだと思うな」

 と言いたいだろう。

 全力を出せていないのはアメリカだけではないのだ。

 そんな「大和」の決勝戦の相手は、ドイツ第三帝国の戦艦「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」に決まった。


 ドイツは第一次世界大戦で敗北、軍事に大幅な制限を掛けられた。

 その制限を破棄し、新たに英仏を凌駕する大型艦を揃えるZ計画が立てられる。

 このZ計画は第二次世界大戦がドイツの指導者の予想より早く始まってしまった為、途中で破棄されてしまった。

 よってZ計画で立案された5万トン級戦艦、仮呼称H級は2隻が起工されたが、建造中止となったのだ。

 その起工までは至ったH39型戦艦だが、仮呼称の戦艦Hは「ウルリヒ・フォン・フッテン」、(数字の1と混同しやすいIを飛ばして)戦艦Jは「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」にしよう、とちょび髭の独裁者が言っていたという。


「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」は満載排水量63,596トン、最大速力30ノット、主砲40.6cm47口径連装砲4基8門というスペックである。

 対戦したイギリスの戦艦「ヴァンガード」は満載排水量51,420トン、最大速力30ノット、主砲38.1cm42口径連装砲4基であり、完全な下位互換と言えた。

 両艦艦長から出された希望気象は「荒天・波浪」であった。

 頭の悪い神は、荒天+荒天で半端じゃない時化た海を作ってしまう。

 荒れる北海を縄張りとしているイギリス海軍ですら難儀する海を、穏やかなバルト海で活動しているドイツ海軍の兵士たちは苦しんだ。

 ローベルト・ヴェーバー艦長が荒れた天候を選んだのは、艦の安定性を頼りにした事、そして1対2でも戦艦同士の殴り合いで圧勝したデンマーク海峡海戦の再現を狙った為であった。

 観測射撃があまり良い成績で無かった為、荒れた海の上で中距離戦に持ち込み、光学照準で戦うプランである。

……まあ、確かに最後は光学兵器による直接照準がものを言ったが、凄まじい揺れは両国の戦艦と乗員を苦め続けた。

 この超荒天は、この海域の特徴(自転やら曲率やら)を把握していたイギリス艦の命中率を他国並に下げてしまう。

 高い波はお互い5万トン以上の英独の戦艦でも動揺させた。

 光学照準の担当は、そんな中で細かいものを見過ぎて船酔いを起こし、吐きながら仕事を続けた。

 互角の条件であれば、上位互換の「ゲッツ」が勝つ。

 イギリス戦艦はデンマーク海峡海戦の対「ビスマルク」、WBC二次予選の対「大和」に続き、またもラッキーヒットに近で当たりどころが悪い命中弾によって敗北を喫する。

「ヴァンガード」のアグニュー艦長は

「我々が余りに判定狙いな戦い方ばかりだったから、

 理不尽な超越者が確率をいじった可能性があるな。

 当て逃げも立派な戦術なのに、それを解さない愚かな存在がな」

 と毒を吐いていた。

 このような経緯で、決勝戦は日本対ドイツの枢軸国対決となる。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 決勝戦は、日本が「荒天」、ドイツが「光学照準の性能をフルに発揮出来る快晴」を指定する。

 ドイツは神の頭が悪い事を把握した。

 下手に荒天を申請すると、とんでもない天気にされかねない。

 だったら正攻法で戦える方が良いだろう。

 ドイツは同盟国とはいえ、日本を甘く見ている。

 最大のライバル・イギリスを倒したし、強敵とはいっても技術力で劣る日本には勝てるだろう、そんな侮りもどこかにあった。

 結果、「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」という、日本にとって縁起の良い状態が実現する。


「大和」は満載排水量72,800トンと、「ゲッツ」より更に重い。

 波が暴れる日本海で活動する日本艦は、イギリスより更に凌波性能を高めていた。

 日本にはよく台風が来る。

 この台風の中で訓練して大損害を被った第四艦隊事件なんてのもあり、荒天に対する経験値は世界のどの国よりも高い。

 艦形もサイズも荒れた海に強い上に、乗組員もそんな海に慣れていたのだ。

 また、主砲も「大和」は「ゲッツ」より高威力・長射程である。

 照準器の性能はドイツが上だが、この海戦では観測機を飛ばす事が出来た。

 その観測機であるアラドAr 196に優秀な搭乗員を召喚して任務に当たらせている。

 ドイツにおいては艦載機も、セクショナリズ大好きなデブ親父のせいで空軍の所属であり、現実世界の方では中々機体やパイロットを確保するのが難しかった。

 この異世界では全6機に熟練パイロットを思う存分使える。

 ドイツのチート級パイロットが乗ったAr 196は、防弾装備をしているが低速なアメリカのOS2Uキングフィッシャーを空戦で撃墜する戦果を挙げた。

 今回、日独双方は半数を敵艦上空に向かわせて着弾観測、残り半数は敵の観測機の妨害の為に自艦の直掩をさせる。

 この水上機同士の空戦は、日本の運用思想通りに展開した。

 フロートを履いた鈍重な筈の水上機で、戦闘機的な使い方しようという日本がある意味おかしい。

 これは陸軍国で、更に航空機に関してはハゲデブが全部仕切っていたドイツと、広大な海域に点在する島嶼を持ち、貧弱な土木能力しか無かった日本とで、水上機に求めたものが違ったせいである。

 第一次世界大戦の敗北により大艦隊を失って、戦術的には通商破壊を主とせざるを得なかったドイツは、偵察能力の他に船舶の攻撃力を求めた。

 実際に爆雷攻撃で潜水艦を鹵獲した事もある。

 実戦ではエンジンが故障しまくったが、そういうのが無ければ中々の偵察機兼攻撃機といえた。

 一方の日本は、普通なら飛行場を作れば良いのに、それが出来なかったから、水上機に「偵察能力の他に、敵を迎撃する戦闘機としての能力、敵船に損害を与える攻撃機としての能力、伝令を味方艦や味方の島に運ぶ連絡機としての能力」を求めた。

 空軍主体で水上機に力を入れていないドイツと、水上機を島嶼戦の要と看做して変に力を入れまくった日本の差が出てしまう。

……アメリカ的な合理主義からしたら、どんなに高性能にしても、陸上機はおろか空母艦載機にすら勝てないのだから、空母を持って行くか、島に飛行場を作れば良いのだから、力の入れ方を間違っているとなるのだが、この異世界では間違いの方が正解となっている。


 ドイツ人パイロットたちは、複葉機である零式水上観測機を侮ったものの、この零観は時速370kmを出せる為、時速309kmのAr 196よりも速い上に複葉機ならではの空戦性能まで持っていた。

 当たれば20mm機関砲を搭載するAr 196が勝つが、当たらなければどうという事は無い。

 ドイツ人パイロットはチートな腕前だが、日本人の観測機乗りも変態級技量である。

 似たような技術なら、機体性能が上の方が勝つ。

 変態水上機に、まともな水上機が駆逐されると、あとは「大和」の独壇場となった。

 同盟国とはいえ、ドイツは「大和」の46cm砲の性能を知らなかった。

 こちらの砲は届くが、敵弾は届かない安全圏から砲撃を行う。

 最早有賀艦長に油断も驕りも無い。

 ソ連以外は強敵が居なかった地区予選と、二次予選もトルコ戦は気が抜けた舐めプをしていたが、イギリスに足元を掬われてからは気を引き締めている。


 結局、「大和」が勝つべくして勝つ。

 速力以外の全てで「大和」の方が性能が上なのだから、そうもなるだろう。

 かくして第一回世界戦艦選手権(World Battleship Contest)は日本の「大和」の優勝で終わった。


……天のどこかに独裁者の怒りの声が届く。

「今からでも遅くない!

 50.8cm砲を搭載したH44を建造して、二等国の戦艦と再戦するのだ!」

 それに対し、ツッコミが入る。

「計画中止にしたのは総統、貴方なんですが……」

 と。

次話で最終回とします。

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