準決勝以降の改変
「貴方、随分と頭の悪い事してますわね」
戦艦対戦艦、「World Battleship Contest」を楽しんでいる軍神の元に、ふらりと別な超越者が現れた。
この2柱はよく対比される存在である。
戦争と狂奔を司る神と、知恵のある戦いを司る神。
破壊と殺戮を司る神と、闘争という人間のある面や破壊の後の再建も司る神。
殺害し流血を伴う「戦闘行為」と、どうにかして工夫して場合によっては戦わずして勝つ行為とは、古くから分けて考えられていた。
そして、この異なる「戦い」を司る者同士は極めて不仲である。
「なんだ、私の邪魔をしに来たのか?」
頭が悪いと言われた戦神は、不愉快そうに返した。
それに対し、皮肉を言った側の軍神は「否」と言う。
「この大会自体は楽しいものですね。
余興として実に面白い。
ですが貴方、自分でこの戦場を作っておいて、人間たちがその通りに動かないと不満を持っているでしょ?」
これは全く軍神の言う通りである。
戦神は、装甲を持った戦艦同士の殴り合いを期待していた。
だから一次予選ではハンデが無いよう、航空射撃管制をも禁止した。
二次予選ではそれを解禁するも、
・観測機同士で空戦が発生、それはそれで面白いが、最終的に空の戦いで勝った側が有利になる
・不利な側が徹底的にヒット&アウェイに終始し、撃沈に至らず判定戦が多くなった
・夜戦はレーダーを禁じた為、遭遇すらしなくなってしまった
と思惑通りに行かない事が多くなる。
だから、夜戦で絶対に遭遇するように調整するとか、観測機を無限回復させるとか、そういう事も考えていたのだが……
「だからお前は馬鹿だと言うのだぁぁ!」
と軍神に詰られてしまった。
「要は、遠距離砲戦を封じれば良いだけだろ。
馬鹿みたいに常に青空で見通しが良い、凪いだ海とか、そりゃ遠距離で戦うに決まってるじゃないか」
全くその通りで、この異世界の海において荒天は一度も無かったのだ。
戦神は不貞腐れながら
「だから地球とは違う海にして、遠距離砲戦だと当たらないよう調整したのだが」
と反論するものの、
「それは人間をナメ過ぎだ。
人間という生物は、駄目ならその原因を探って、ここまで進化し来たのだ。
更に、今居る場所がどのような場所なのか、しっかり調べるものだぞ」
これも正解である。
イギリス以外の海軍軍人だちも、方位磁針を元に北極星を探し、現在の緯度を計測していた。
日の出日没も記録し、水温や気温等も調べていたのだ。
地球とほぼ同じ自転時間であり、多くの者を騙す事に成功はしていたが、一ヶ国
「普通この緯度だと風がこれくらい強い筈なのに、どうも違う」
と怪しんだ国が出て、神のカラクリがバレるに至る。
観測機を飛ばすようになると、水平線の曲がり方が違って見えるとか言い出した連中はともかく、上空の風の具合がどうも思ったものと違う事で、遅かれ早かれ気づかれていただろう。
此処は人間で例えるならバーチャルな世界。
神が作り出した仮想現実の世界。
だから自然法則に反していても、好き勝手に条件を設定出来た。
そんな作られた世界の中に入れられた者たちが、色々と気づいてしまうのは想定外であっただろう。
「となると、記憶を操作して、士気をまた爆上げして、バーサーカー一歩手前にすれば……」
「だ~か~ら~、そんな不自然な事をしなくても良いでしょ。
普通に濃霧を発生させるとか、荒れた海にするとか、低気圧を発生させるとか、色々あるでしょうに」
軍神がツッコミを入れる。
ちょっと靄がかかるだけで、砲撃精度なんてガタ落ちするのだ。
上空に雲がかかるようになれば、航空機の活動は困難になる。
ましてそれが積乱雲ともなれば大変だ。
艦もスコールに身を隠すなんて戦術が可能になる。
「それは姑息だろう」
「だったら今のまま、何の工夫も無い海で遠距離から撃ち合い、命中弾がどちらが多いかを数えて判定勝ちをする海戦を繰り返すのか?
気象をちょっと地球と同じようにするだけで、もっとスリリングな撃ち合いが見られるのだぞ」
戦神は軍神の事は大嫌いなのだが、言い分に一理あるとは思った。
既に日本とタイが戦った時に、タイ側は夜戦を申し出て日本が受けて立った事がある。
あれと同じやり方にしようか。
だが、それにしても軍神の意見を、良いからといって丸呑みにするのも癪に触る。
こいつは一体どういう思惑で言って来たのか?
だから質問する。
この回答次第では受け入れよう。
「そなたはこの戦いをどう見ているのだ?」
もしも答えが
「別にどうとも思っていないが、そなたが馬鹿だから正しに来た」
的なものだったら、提案は拒否してやろう。
果たして軍神の答えは
「実に面白い。
私も戦争が好きだ。
人間が知略の限りを尽くして戦う姿こそ美しい!
だからこそ、ワンパターンの戦いではなく、様々な困難を克服しながらも、近距離からガンガン撃ち合うのを見たいのだ」
なんてものだった。
天使は
(他人の迷惑を考えないのがまた一柱……)
と頭を抱える。
軍神の附属神たちも
(また始まった……。
野蛮な殺し合いは嫌う癖に、賢い戦いなら裏工作してでもやらせろという悪癖が……)
と呆れている。
とりあえず戦神は、不仲な軍神もこの海戦を楽しみにしていると知り、脳筋仲間が増えた事を素直に歓迎する。
そして提案を素直に呑む。
これで決まった。
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”〜決勝ラウンドへのご案内〜
この度は決勝ラウンドへの進出、誠におめでとう御座います。
準決勝、決勝戦の期日は決まり次第お伝え致します。
貴艦は準決勝ではアメリカ合衆国の戦艦との対戦となります。
次の準決勝からは天候や海面状態の変化、開戦時刻の変更等が取り入れられます。
対戦相手双方の希望が合致した場合、その条件での対戦となりますので、希望条件を提出して下さい。
運営委員会の方で協議の後、天気予報という形式で双方に通達します”
「大和」の有賀艦長に天の声からのメッセージが届く。
いよいよアメリカとの対決か!
戦争だから仕方は無いが、これまでの屈辱はここででも良い、返してやろうか。
あの「大和」最後の出撃となった沖縄戦、可能なら沖縄を砲撃している敵戦艦を沈めてやりたかった。
今度こそ!
と血が沸き立つものを覚えつつも、一個引っかかる文言にも気づく。
(委員会って何だよ)
と天の勝手な行動は複数の意思なのか? と首を傾げていた。
先日共に決勝進出を決めたイギリス戦艦「ヴァンガード」のアグニュー艦長と話をしたのだが、その時に彼は
「この海戦ゲームを取り仕切っている奴は、結構な愚か者かもしれない」
と皮肉を言っていた。
委員会とやらで複数が絡んでいたのなら集合無能になってしまうのは、有賀の祖国の国会とやらで散々見ていた事なので、この世界でもそうなのか、天上界もそうなのかと溜息を吐く。
まあ前日のアグニュー艦長から言われた
「全てを疑ってかかった方が良い。
万事万全の準備をしてから挑みたまえ」
という言葉を胸に、例えこちらに有利であっても「何かある」と想定しようじゃないか。
いくら「大和」が有利だったとはいえ、戦艦同士の正面衝突で勝負を決めるなんて、とても頭が悪いのだし。
(「決勝戦でまた会おう」とか言っていたが、どうなる事やら)
地区予選、二次予選、そして決勝ラウンドとルールを変えて来るような連中に翻弄されている。
あの万事皮肉をもって世を見ているイギリスをもってしても、勝ち残れるかどうか。
まあ、神は信じなくとも、何か設定してくれる以上は申請しておかないと。
艦の上層部と協議した結果、
「夜戦にしたい」
という要求を出す事にした。
夜戦は日本の十八番である。
既にタイの海防戦艦との間で、相互了解して夜戦は行っていた。
アメリカ戦艦と夜戦で戦うとなれば、第三次ソロモン海戦における戦艦『霧島』『比叡』の仇を討てよう。
一方、アメリカ側は靄が掛かった状態を選択した。
長距離砲撃はまだ自信が無い。
日本の巨大戦艦の情報は入っている。
荒れた海では、大きい艦の方が有利になる。
海の計測で、この世界には暗礁とかは全く無い。
だから凪いだ海で、安心して高速を出しながら中距離戦をすれば、鈍重な戦艦にヒット&アウェイで勝てるだろう。
この両者の申請を受けた神々は、海域をこう設定した。
靄が掛かった海での夜戦と……。