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決勝進出に際し

 予選Aブロックでは、イタリア戦艦「ヴィットリオ・ベネト」艦長がボヤきまくっていた。

「こんなの反則過ぎるだろ!」


 まあドイツと当たりたくないから片八百長の恩恵を受けたペナルティかもしれない。

 アメリカ戦艦「イリノイ」は完成した「アイオワ」の同型艦なのでともかく、ソ連戦艦「ソビエツキー・ソユーズ」、ドイツ戦艦「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン」はいずれも起工までで建造されなかった戦艦なのだ。

 こんな戦艦相手に、「ベネト」では歯が立たない。

「ベネト」も良い戦艦だし、何より現実に完成して戦争に投入されただけで未成艦より立派である。

 しかしそんなのは「戦艦同士の殴り合いが見たい」という神の思し召しの前には意味が無い。

「より強力な艦を考えていなかったお前らが悪い」

 と神は嘯いていた。


 38cm砲9門のイタリア艦は、40cm砲以上搭載の未成戦艦たちに敗れるのだが、これは仕方ないのと、自業自得な面がある。

 地区予選通過後の増援申請で「女性兵士」を願ったのは他でもないイタリア人なのだから。


 この増援申請で失敗した国もある。

 ソビエト連邦だ。

 地区予選で「大和」との撃ち合いに敗れた「ソユーズ」では

「やはり計画段階での45cm砲が欲しい」

 となって、主砲の換装が行われたのだ。

 これはソ連において、T-34中戦車が砲撃力不足を改正する為、76mm砲から85mm砲に換装して成功した事例から、上手くいくかと思われた。

 しかし、これがバランスを崩す結果になる。

 日本でも「大和」級開発において46cm砲を45口径とするか50口径とするかの議論があった。

 砲を長砲身化すると、各部もそれに合わせて重くなり、排水量を大きくしてしまう。

 砲だけでも一門あたり35トンの重量増となった為、バランスを考えた結果、45口径とされたのだった。

 T-34が換装出来たのは、それだけのポテンシャルがあった為である。

 日本の軽巡洋艦「最上」型が主砲を15.5cm砲から20cm砲に換装出来たのは、最初からそのつもりで設計されていたからだ。

「ソユーズ」が主砲を換装した結果、砲の旋回速度、砲撃時の振動や爆風問題、弾薬庫内の砲弾数の減少等と色々予期せぬ事態を抱え込んだのだ。


「だから余計な事はしないで良いって言ったでしょう!」

 とクズネツォフ艦長は、粛清も覚悟で文句を言った。

 この換装を勝手に決めたのが同志首相だった存在で、この人って敵のちょび髭伍長同様、結構軍に口出しして失敗する事があったのだ。

 陸軍では優秀な人間がこれを諌めて、それ以降は軍に任せて成功するのだが、海軍におけるこの役回りのクズネツォフが現場指揮官となったのだから歯止めが無い。

 こうして「『大和』でさえ最適化されてあのサイズなのに、『大和』より軽量なのに同サイズの主砲を無理矢理搭載」してバランスを崩した「ソユーズ」は、イタリア以外には不覚を取る事になる。

 ライバルのちょび髭から

「一つ聞いておきたいが、君の葬式は何宗で挙げたら良いのかね、スターリン君」

 とおちょくられる有様であった。


 そのソ連首相から「弾はバラつくし、撃つ度にどこか壊れるし、欠陥品作ってんじゃねえ」と文句を言われたアメリカだが、彼等にしたら

「作った事が無い、図面しか引いた事が無い砲が、神の奇跡で完成したからって、文句言われる筋合いは無い!

 神の工作精度が悪いんだろ!」

 と言ったところだろう。

 そんなアメリカだが、地区予選通過後の増援申請で

「同型艦『アイオワ』級を他5隻、或いは『サウスダコタ』級6隻、駄目なら『エセックス』級26隻」

 を要求して、天の声から

「ふざけんな!」

 と怒られていた。

 天使というか使徒というかは

「こいつら、なんでこんなに大量に造って使い切れないのに、懲りないんだ?」

 と頭を抱えていた。

 大体、神の「戦艦一騎打ちが見たい」という意向を分からんのか?


 そして「イリノイ」はドイツの「ゲッツ」相手に敗れる。

 あらゆる面で上の性能の「イリノイ」の敗因は、計算機に頼り過ぎた事であった。

 Mk.38射撃盤とMk.8射撃レーダーを前提としていたアメリカ艦は、レーダーが使えないのと、惑星の形が違う事で起きた誤差を修正し切れない内にイギリス、次いでドイツと当たってしまった。

 まあこうして負けてから気づき、修正していくのはスロースターターのアメリカらしいとも言える。


 ドイツ戦艦は光学観測装置の性能の良さで勝てたと言える。

 照準に関して、アメリカは異世界がもたらす制限が強過ぎた。

 レーダーや計算が前提なのに、直接照準に近い方が強い異常事態。

 また着弾観測をする戦艦搭載の水上機の性能差でもアメリカは負けた。

 アメリカのOS2Uキングフィッシャー水上機は時速282km、武装は7.62mm機銃が4挺。

 一方ドイツのAr196水上機は時速309km、武装は20mm機関砲2挺、7.92mm機銃が2挺。

 上空での空戦でキングフィッシャーが撃墜されて以降は、ドイツが砲撃に関して一方的に有利となったのだ。

 Ar196は、極東のどっかみたいに戦闘機としても使える性能を付与された機体ではないのだが、最高練度に調整されたドイツ人パイロットと共に召喚された為、敵機を撃墜出来たようだ。

 正直ドイツのパイロットは練度最高になると人外に達する。

 37mm対戦車機関砲で敵機を撃墜するとか、生涯撃墜数が353機とか……。


 そんなこんなで


1位:ドイツ 3勝0敗(予選通過)

2位:アメリカ 2勝1敗(予選通過)

3位:ソ連 1勝2敗

4位:イタリア 0勝3敗


 でAブロックの順位は確定したのである。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「このように決まりました」

 天使というか使徒というか、それが神というか軍神というか戦乱の具象化というか、その存在に報告する。

「…………」

 神は悩んでいた。

 Aブロックは順位がハッキリしたから良い。

 Bブロックは1位が勝率同じなのだ。

 次の準決勝では、どういう組み合わせにしようか?


「ぶっちゃけ、引き分けも認めた主のミスですよね」

 そうツッコミを入れた天使は、理不尽な雷撃でお仕置きされる。

 いくら翌日には補充すると言っても、ルール上1海戦中に弾薬庫の中の砲弾を使い切ったら、そこでその砲は使用出来なくなる。

 思惑通りに人間は動かない。

 弾が無くなったら、体当たり戦とか、接舷して乗り込むとかもあって良い。

 しかし、猛烈に撃ち合っても日暮れの頃に丁度砲弾を撃ち尽くし、夜はレーダーが無い為にお互い接近戦を出来ない。

 夜戦大好きな日本でさえ、

「敵艦がどこに居るのかさっぱり分からない」

 と控えているのだ。


 まあこういう人間どもの戦い方をどう補正するかはさておき、まずは対戦カードを決めたい。

 個人的な好みで決めても良いが、それでは興ざめだ。


「人間たちはこう時、どうしているのか?」

(全知全能とは言わないまでも、それに近いんだから自分で調べれば良いのに……)

 神の問いに天使は心の中でツッコミを入れながら、幾つかのケースを紹介する。

「まあ一番有名なのはペナルティキック、PK戦ですね。

 お互い1対1で、攻守を入れ替えながらゴールを競う」

 ゴールは無いので、これは意味が無い。

 大体1対1なら既に実現している訳だし。

「次に行われているのは、延長戦ですね。

 それでも決着しなければ再延長戦。

 再々延長戦と延々と続けます」

 神はこれは面白いと考える。

 他に妙案が無ければ、これにしようか。

「延長戦の一つですが、サドンデス方式ってのがあります。

 この場合だと、最初に一発命中させた方の勝利とするもの」

 それも面白い。

 あの長距離での撃ち合いだと、延長戦でも決着しない可能性があるから、先に当てた者勝ちは良いだろう。

 だが神はふと思い当たる。

 別にスポーツを見たいんじゃないんだよ。

 他に天使は得失点差、この場合は命中数から被弾数を引いた数で勝敗を決める方法もあると言ったが、やはりスポーツじみたのでは「これじゃないんだよなあ」と思ってしまう。


 結果、戦の神は彼?彼女?性別とか超越してるから分からないのだが、それらしい勝敗の決め方を考えついた。


「両艦を回避不能な状態で真正面から衝突させて、浮いていた方の勝ちとする!

 特別ルールで、浮いている間に敵艦に乗り込んで、その艦を制圧しても勝ちとする!」

「主よ、それはどう考えても『ヤマト』が有利です!」

「そうとは限らん。

 力とは質量×加速度なのだ。

『ヤマト』は質量があるが、『ヴァンガード』の方が加速度はあるだろう?」

(この方は、全知ではあっても頭は悪いよなあ。

 というか、頭悪い事ばかり考え付くよなあ)


 天使は知っている。

 数万トンの戦艦が、抵抗の大きい水の上を最大時速60km程に達する程度では、加速度なんて誤差の範囲でしかない事を。

 そうなれば重くて装甲が分厚い方が勝つだろう。

 結局、目覚めと同時に敵艦が回避不能な距離にいて、しかも何故か舵が効かない状態で衝突した結果、「大和」の勝ちが決まったのである。

「ヴァンガード」の乗員は1590人、一方「大和」の乗員は約2500人。

 乗り込んで制圧したら勝ちと言われても、最初から「ヴァンガード」に勝ち目は無かった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 戦いが済んで、損傷した「ヴァンガード」の乗員を救助した「大和」艦内にて。

「お初にお目にかかる。

 大英帝国海軍、HMS『ヴァンガード』艦長ウィリアム・グラッドストーン・アグニューだ。

 退役した時は海軍中将であった」

「このような場にて挨拶出来て光栄です。

 大日本帝国海軍、戦艦『大和』艦長有賀幸作です。

 戦死時には海軍大佐でしたが、きっと二階級特進して海軍中将になった事でしょう」

 お互い敬礼を交わしながら、軽くマウントを取り合っていた。

 その後、両者溜息を吐く。

「引き分けだとこんな酷い勝負の決められ方をするんだなあ」

「まったくです、こんな世界に呼び出された事自体迷惑ですし」

「気が合うな。

 まあ、どの艦長も同じに思っているのだろうけど。

 で、どうかね?

 折角だから、私の秘蔵のウィスキーでも飲まんか?

 この世界唯一の良い点、飲んでも飲んでも無くならんから、君にも奢ってやりたい」

「いただきましょう」


 かくしてBブロックも順位が確定する。


 準決勝は

 ゲッツ(Aブロック1位) 対 ヴァンガード(Bブロック2位)

 大和(Bブロック1位) 対 イリノイ(Aブロック2位)

 というカードとなった。

 奇しくも、或いは神の見えざる手でも働いたのか、それぞれ大西洋と太平洋における連合国軍対枢軸国軍の対戦となったのである。

おまけ:

どこぞの豚「おい、戦争もファシズムも嫌いだが、こういう一騎打ちになんで俺と愛機を呼ばなかった?

 水上機でドッグファイトやらせたら、アメリカのカーチスの野郎にだって勝てるぜ」

イタリア水兵「やっぱり男呼ぶより女呼んだ方が士気が爆上がりするからなぁ」

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