(番外編)イギリス対フランス
イギリス海軍最後の戦艦「ヴァンガード」、満載排水量は51,420トンにもなる。
速力は30ノット、主砲38cm砲が8門。
就役は1946年になってから。
活躍の機会に恵まれないまま、1959年に退役した。
一方フランス海軍の戦艦は「ガスコーニュ」。
フランス海軍が最後に完成させた戦艦は「ジャンバール」。
計画段階で中止となったのは38cm砲を12門も搭載した「アルザス」級。
この「ガスコーニュ」は起工までは至った幻の戦艦であった。
この艦の満載排水量は48,500トン。
防御力は高く、排水量で3,000トンは大きい「ヴァンガード」とも互角に戦える戦艦と言える。
双方ともに30ノット、38cm砲8門というスペックだが、「ガスコーニュ」の場合は四連装砲2基という構成になっていて、連装砲4基の「ヴァンガード」とは性格が異なっている。
砲塔に搭載された砲数が多い程、同数の砲で連装砲や三連装砲に比べて砲塔の数を減らせる為、砲塔自体の重量と、砲塔及び弾薬庫の防御面積を減らせる為、軽量化出来る。
だから3,000トン程軽くても「ガスコーニュ」の防御力は「ヴァンガード」に引けを取らない。
装甲を比較すると
・ヴァンガード:舷側 356mm、主砲前楯 324mm、主砲バーベット部 330mm
・ガスコーニュ:舷側 330mm、主砲前楯 430mm、主砲バーベット部 405mm+20mm
四連装砲塔の弱点、1基破壊されると戦闘力が一気に低下する(「ガスコーニュ」の場合は半減)構造上の欠点をフランスも把握していた為、砲塔部はより強固な守りとなっていた。
なお、同じ四連装砲でもイギリスのものは故障が頻発したのに対し、フランスのものは信頼性が高かったという。
フランス式は連装+連装で四連装としていて、砲室中央部に装甲隔壁があり、片側に直撃を受けても反対側は生き残るようになっていた。
主砲の性能は
・ヴァンガード:879kgの砲弾を最大仰角30度で33,380メートルに撃てる
・ガスコーニュ:884kgの砲弾を最大仰角35度で41,700メートルに撃てる
と「ガスコーニュ」の方が優勢であった。
同じ38cm砲でも「ガスコーニュ」は45口径、「ヴァンガード」は42口径なので射程距離に差が出る。
発射速度も「ヴァンガード」が毎分2発に対し、「ガスコーニュ」が毎分2.2発とやや優勢。
一見すると「ガスコーニュ」有利なように見える。
しかし「ヴァンガード」もまた、未完成の兵器を召喚していた。
イギリス海軍は、命中時に火災を起こす事や、空母艦載機の性能が向上した事で、戦艦から航空兵装を外していた。
その為、地区予選終了後の増援申請において偵察機を要求していない。
天に申請して得たのは新型スーパー・ヘビー・シェル砲弾、通称SHS弾である。
外からは見えづらい部分で攻撃力を増すのは実にイギリス海軍らしい厭らしさとも言えた。
こうしてやや砲の性能に差はあるが、ほぼ同じ性能の2艦が衝突する。
フランスはナポレオンの昔から大砲の国だ。
自信を持って遠距離砲戦を仕掛ける。
「対空戦闘用意!」
ウィリアム・グラッドストーン・アグニュー艦長が冷静に命令を下す。
彼は「ヴァンガード」の初代艦長である。
「ヴァンガード」が退役するまでに複数人の艦長がその任に就いたのだが、第二次世界大戦も経験した彼が最適と看做されたのか、この戦場に召喚されていた。
彼はすぐに少将に昇進したものの、艦長の任から外れた後も同艦に座乗して各地への航海を指揮していた。
歴戦な上に「ヴァンガード」をよく知るアグニュー艦長は、真っ先に弾着観測の為に飛来したフランスのロアール・ニューポール水上機の撃墜を命じる。
この機を潰してしまえば、お互いにレーダーも効かない中、目視射撃となる為条件は同じだ。
強力なボフォース40mm機関砲を73門も搭載している為、時速225kmしか出ない低速な水上機撃墜はしやすかったようだ。
「よし、最大戦速。
仏戦艦野郎との距離は、2万2千ヤード(約2万メートル)まで接近した後は一定を保て」
それは第二次世界大戦における平均的な砲戦距離であった。
その距離での高速戦闘である。
フランス艦が乗って来ない可能性もあった為、アグニューは敵艦に挑発の通信を送る。
『貴艦が追跡するのは女を追いかける時だけか?』
この挑発に激怒した「ガスコーニュ」のシュバリエ艦長とガロア副長は、同航での遠距離砲撃戦に乗ってしまった。
これがアグニューの第一の策であった。
この「ヴァンガード」は高い航洋性を持っている。
北海という波の高い海域で活動するイギリス海軍は、荒れた海での性能において日本海軍に勝るとも劣らない。
フランス海軍も大西洋での作戦を念頭に、凌波性能は良かったが、それでもイギリス艦には劣る。
大体フランス製はカタログスペック程には、実戦で性能を発揮出来ないのであるし……。
そしてより大型の「ヴァンガード」は安定性が抜群だった。
ただでさえ遠距離砲撃は命中するものではない。
遠距離で、かつ高速機動をしながらの砲戦で「ガスコーニュ」は命中弾を得られない。
神が作ったこの海は、荒れる事は無いとはいえ、やはり高速で動きながら舵を切ったりすると揺れる。
こうして敢えて艦が揺れる状態にしながらの砲戦、いや「ヴァンガード」は試し撃ちを数回したのみで専ら「ガスコーニュ」ばかりが撃っている戦闘で、アグニュー艦長は敵艦の状態を確認し終えていた。
「よし、奴等はまだあの事に気づいていないようだ」
そう呟くと、射撃指揮所に例の事をしっかり入力するよう命じ、砲撃を開始させる。
やはり最初は中々命中しないものの、フランス艦よりも早くに主砲弾が敵を挟叉した。
やがてファーストヒットを出す。
フランス艦が命中弾を出せなかったのに対し、遅れて発砲したイギリス艦の方が先に当てた。
「何故だ?
何故あいつらは命中させられ、こちらは当てられないのだ」
シュヴァリエ艦長は吠えるが、彼なりの見当はついていた。
高速機動で波が激しくなった事による動揺と、その条件下での練度であろう。
まあ通常であればその解釈で問題ない。
しかしこの世界では、神の調整によって練度は最高に設定されているのだ。
違う事が理由なのだが、実は極東の某国並に精神論が好きな部分があるフランス人は、それが理由だと思い込んでしまった。
「焦って沈める必要は無い。
こちらの一撃も威力が大きい。
当てていればそれで十分だ。
最悪判定勝ちでも良い」
アグニュー艦長は落ち着き払っている。
この世界に召喚される前、彼は中将にまで昇進していた。
経験の差とも言えるだろう。
当たらないから焦って撃ちまくる「ガスコーニュ」に対し、秘策のある「ヴァンガード」は一弾一弾確認するように砲撃する。
海戦は日が沈むまでの長い時間続けられた。
結果は「ヴァンガード」の判定勝ち。
「ガスコーニュ」のシュバリエ艦長は挑発に乗ってしまった事を悔しがった。
一方のアグニュー艦長は乗員の健闘を称え、戦闘修了後にはしっかり休養を取らせる。
そして次の対戦相手がトルコか日本か分からないが、どちらが来ても良いように作戦を考える。
イギリス海軍は、かつてフランス海軍の戦艦「リシュリュー」相手に舐めプをかまして、戦艦「バーラム」が水線部主装甲を貫通されてしまう打撃を被った事がある。
この時の「リシュリュー」は未完成だったのだが。
アグニューは
(決して油断せず、自分たちの艦が劣っている可能性を考えながら戦わねばならん。
実際「ヴァンガード」の砲は旧式設計なのだし。
大英帝国の誇りにかけて、我々は勝たねばならぬのだ)
そう気を引き締めていた。
恐らく想像がついていると思いますが、ゲームの「World of Warships」のシミュレーション結果を参考にしています。
小説用に相当アレンジして、運用的なご都合展開もありますが、そこはご容赦して下さい。
(ゲームと同じ結論にするのでは、書く意味が無いので)
あと架空艦の艦長はテキトーな名前にします。