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証拠探し

 公開が随分遅れてしまいすみません。


 いよいよ最終章、始まります!




 レムの手紙には、ざっくり言うと真実を話さなくてごめんということと、レムの計画の全貌、雷帝と幸せに、という内容が書かれていた。


(何とも……あっさりしたお別れ)


 もうここへは帰って来ないつもりなのだろう。

 そのような決意が、手紙から読み取れた。



(レムは今幸せなのかな)



 想い人と二人きりの世界で。



 何よりも、彼女がペレを殺すつもりでなかったことに心底ホッとした。ずっと真意が分からなかったが、そういうことだったのかと手紙を読んだ今は全て納得している。

 

 せっかく出来た友達と別れなくてはならないのは悲しいが、彼女が幸せになってくれるのは、本当に嬉しいと心から思う。今まで途方もなく長い間、傷付いてきただろうから。


 そして、彼女は大罪人を死刑に処さなかったことは、自分の罪であり、エゴであると自覚している。死刑を望む人たちを裏切ったことになるのだから。


 だから、自分はその証拠を隠滅する。


 レムからの頼みがなくとも、自分の判断でそうする。罪の片棒を担ぐ。

 リスクがあるにも関わらず、レムは自分に真実を伝えてくれたのだから。


 レムからもらった初めての直筆の手紙を葬るのは忍びないが、仕方ない。


 類は手紙を深めの陶器に入れ、マッチに火をつける。マッチを陶器の中に放り込むと、メラメラと美しいオレンジ色の炎が上がり、白い紙が徐々に黒く変色していく。


 静かに儚く燃ゆるその陶器の中身をぼーっと眺めながら、レムとペレのことに思いを馳せた。


 


 

 

(あ、そうだ。ユリアのところへ行かないといけないんだった)


 手紙が燃え尽き、灰色の燃えカスになったところで、急に思い立つ。


 昨日、ユリアと約束したのだ。もう一度屋敷を訪れると。


 考えたいことは山程あるが、やらなければならないこともまた山程あるのだ。立ち止まってはいられない。


 類の物語はまだ終わっていないのだから。



 コンコン


 突然扉が鳴る。


「はい」

「私よ」


 ヴァリスの声が聞こえた。何の用だろうと考えながら「どうぞ」と言うと、両腕いっぱいに積み重ねられた大量の本を抱えたヴァリスが、扉を足で蹴り上げて入ってきた。


「悪いわね。手が塞がってるの」


 扉を蹴り開けたことに対してなのか、謝罪される。


「いえ。それは?」

「内政に関する資料よ」

「……何故ここに?」


 何となく嫌な予感がして、それは見事に的中する。


「もちろん。あなたに読んでもらうためよ。これ全部ね。勉強好きなあなたなら、出来るわよね?」


(やっぱり……)


 テーブルにどさっと積み上げた資料の山の上に頬杖をつき、不気味なほどの満面の笑みを浮かべたヴァリスを前に、類は真っ青になった。


「いえ、あの……」

「皇后になったら、内政を取り仕切ってもらうから。ヴァルト卿を追放するなら、誰かがその穴を埋めないといけないでしょ?」


 類が言葉を放つ前に、被せるように先に言われてしまった。


 口をパクパクさせながら、何というべきか停止した頭で考える。


「い、今は無理です! テストがあるし、事件の真相を究明しなければ」

「今すぐとは言ってないわ。でもなるべく早く頭に入れて。内政を上手く取り仕切ることが出来なければ、民衆の不満が爆発するわ」

「い、いや、いくらなんでも無理が。全くの素人ですし」

「残った官吏がサポートするわ。でもそれはあくまでサポートなの。実権は何としてもあなたが握るのよ。ヴァルト卿のように、邪な考えを抱く官吏が今後現れないようにね。そのためには、内政を把握していなければお話にならないでしょ? 頑張るのよ」


 それじゃ、と言って、ヴァリスは忙しいのかさっさと部屋を出て行く。


(皇后とは名ばかりで、本当はヴァリス様の奴隷なんじゃ……)


と、疑ってしまう。


 『お話にならないでしょ?』って、全てヴァリスが独断で決めたことなのに、何とも酷だ。


 しかし確かに内政を類が取り仕切ることになれば、今回のような悪巧みは起きにくくなる。


(雷帝は内政に関与しないと言っていたし、そこが弱点なんだよね。ヴァリス様の言うようにすれば、官吏に強く出られることもなくなるのか)


 そこでふと思いつく。


 類が実務のトップになれば、雷帝は自分に頭が上がらなくなるのではないかと。


 今のヴァルト卿のように。


「ふっ」


 少し顔がニヤけてしまったのを慌てて引き締める。誰も見ていないのだから別にいいのだが、何となく。


(ちょっとずつでも、やってみるか。とりあえずテストが終わってから)





 ひとまず資料はテーブルの端に追いやって、ユリアの屋敷へ向かうべく用意をして部屋を出る。


 シルヴァに頼んで、事前に使者を送ってもらう。突然訪問しては失礼だから。


 しばらくして、使者が返事を持って戻ってきた。『いつでもお待ちしております』とのユリアからの返事を持って。


 親衛隊を引き連れて、早速ユリア邸へ向かう。



「くせぇ」

「はい?」

「どうしたの? イェレナ」

「におう」


 ユリア邸へ向かう道の途中、イェレナが眉をひそめて立ち止まる。


「そこだ!!」


 イェレナが突然、飛び道具を草むらに向かって投げる。


「ちょ! 何して……」


「ギャッ」


 草むらから短い叫び声が上がった時にはイェレナはすでにその近くまで走っていた。いつの間にか剣を抜いている。


 草むらに飛び入り、直ぐ様激しい剣戟の音が聞こえる。


 間もなく、音がやみ、イェレナが草むらから出てきた。二人の人間の後ろ襟をひっ掴み、ズルズルと引きずりながら、こちらへ向かってくる。その者たちはどうやら気を失っているようで、だらりと手足を垂らしたまま、されるがままに下半身を地面につけ引きずられている。


「まだあと二人いる」


 イェレナが草むらに向けてくいっと首を傾ける。それを見てレベッカとヒルダが草むらに向かった。


 イェレナと同じように、二人も草むらからズルズルと一人ずつ気絶した人間を引きずってきた。

 見たところ大した外傷はないので、どうやらイェレナは峰打ちしたか、打撃を加えて気絶させたようだ。

  

「なんだコイツらは。見ねぇ面だな」

「隊長のストーカーっスかね?」

「んなワケねーだろ。ストーカーのカッコかよ」


 女に見えるその倒れている四人は、兵士の格好をしている。

 

「尾行されていたようですね。フローラの刺客と考えるのが妥当かと」


 類はレベッカの意見に同意した。


「その可能性が高そうだね。イェレナ、気付いてくれてありがと」

「ハン! テメェのためじゃねぇよ! あたしは尾行されんのが嫌いなんだよ!」

「でもさすがの腕前だね。兵士四人を相手に一瞬で倒しちゃうなんて」


 そこは素直に感心する。


 「褒めても妥協はしねーぞ!!」と叫んで、イェレナは腕を組んでそっぽを向く。


 扱いは難しいが、イェレナの腕前は確かで、頼りになるのは間違いない。これは絶対に希望を聞かなくては後が怖い。


「腕は良くてもその口を何とかしないとモテませんよ」

「ハァッ!? モテが何だと!? テメェもう許さねー!! 全身の骨砕いてやる!!」


 どうやらレベッカが地雷を踏んでしまったらしく、イェレナに追い回される。


「はぁ、元気すねー」 


 シラけた顔でヒルダはその様子を見守る。クリスティーナは相変わらず関心なさそうに爪の薄皮をいじっている。


「で、コレどうしよ?」


 気絶した兵士たちの処置について、ヒルダに聞いてみる。


「持ってくワケにもいかないんでぇ、置いとけばいいんじゃないスかぁ?」


 そのうち目覚ましてどっか行くでしょ、とヒルダは言う。


 ここはシルヴァ邸とユリア邸のちょうど中間地点で、どちらにも運ぶには少し遠く、面倒だ。


「正体を確かめられないかな」


と言ってみたが、ヒルダは尾行をする兵士は、どこの所属の者かの証拠を残さないと言った。拷問して吐かせるにしても、その前に自害する可能性があるという。


 それを聞いて、自分も兵士だが、ひよっこと言われるワケだと納得してしまった。


 類はヒルダの言うとおり、倒れている四人をこの場に放置することにした。




 

 ユリア邸に着くと、女官が待ち構えていたように快く迎えてくれた。


 応接室に親衛隊が通され、類はユリアの部屋へと案内される。

 

 

「ルイ様。お待ちしておりました」


 心なしか、スッキリした顔つきのユリアに、部屋の前で迎えられる。


「体調は如何ですか?」

「おかげさまですっかり。昨日は申し訳ありませんでした」

「いえ。良くなって良かったです」


 さ、どうぞ中へ、と部屋へ通される。



「せっかくお越しいただいて、お茶も用意出来ないことをお許しください」


 席につくと、ユリアが申し訳無さそうに言う。


「いえいえ、とんでもない。お構いなく」


 事件のことがあるのだから当然だと類は納得する。別にゆっくりお茶しに来たわけではないし。



 

 

「ルイ様は、雷帝が初恋なんですね」


 しばらく、女同士の雑談に花が咲く。


「はい。今までは、男の人には恋愛対象として見られていなくて」

「まあ、そんなことないと思います。ルイ様は、きっとおモテになっていたでしょう」

「いえ。本当にそんなことは……。ユリア様は? オスカ様が初恋なのですか?」


 ユリアは恥ずかしそうに頬をピンク色に染める。その素直な反応が何とも可愛らしいと思う。


「……はい。わたくしはいずれ雷帝の后となると思っていましたから、恋愛にうつつを抜かしてはならないと自分を戒めておりましたので。あの事件のあと、全てを失って、タガが外れてしまいました」


 またもやユリアはふふっと笑う。


 それを聞いて、ユリアは可愛らしい見た目に反して、かなりストイックな性格なのだと感心した。


「ルイ様。お幸せになってください」

「ユリア様も」


 いろいろあったけど、私たちはそれぞれの伴侶と、別々の道を歩む同志。


 自然とそんな感覚が芽生えた。


 ふとレムの姿が脳裏に浮かぶ。


 自分の幸せを見つけたレムも同じだ。


 

「そのためにはやらなければならないことが、お互いにありますね」


 ユリアの瞳が真剣味を帯びる。


「はい」


 類もそれに応える。


 ユリアは、事件当日のことを話してくれた。


 その日は朝方雷帝が屋敷を後にして、しばらくすると、女官が手紙を持ってきたという。フローラからの招待状だ。

 そして、数時間後に体調が悪くなったが、そのままフローラ邸へ赴いたそうだ。その後は類も知ってのとおり。


 そして気になることがあると言った。



「書類ケースに仕舞っていたはずのフローラ様からの招待状が、どこを探してもないんです」


 

 類は事件の後、シルヴァと話した時のことを思い出す。招待状の封筒の中身に、経皮毒が仕込まれていた可能性があるのではという話を。


 それをユリアに話す。



「実は……」


 

 ユリアがそれから話した話によると、よく部屋に顔を出していた女官が、事件を境に姿を見せなくなったのだという。


 当時、ユリアは精神的に不安定で、人を寄せ付けなかったのでそこまで気付けなかったのだが、しばらくして、気持ちが落ち着いてきた頃に気付いたらしい。ユリア邸の女官長に聞くと、その者は退職し、その後の足取りは不明だと言われたという。

 後宮は、よほどの事情がない限り、勝手に退職することは出来ないらしい。


 それは怪しい、と類は思った。


 フローラ邸の牢獄に繋がれていた女官の話も思い出す。


 フローラがユリア邸に放ったスパイの話だ。ユリア邸から戻ったその者は、再び姿を消したと言っていた。


 ――話が繋がっている。


 おそらく、ユリアの言う人物と、女官の言っていた人物は同じだ、と直感する。


 単純に考えると、その人物がユリアの留守中に招待状を盗み出して処分し、フローラ邸に戻り、逃がされたもしくは消されたという説が妥当だ。


 つまり、毒はやはり招待状に仕掛けてあった可能性が高い。そうでなくては、リスクを犯してまで処分する理由がない。


 レムからの手紙のように燃やされていたとしたら、証拠はもう灰になっているだろうが。


 それはわざわざ処分しなければならないほど、強力な証拠だったことを意味している。


 しかしモノがない以上、それを証明することは出来ない。


 もどかしい。


 あと一歩で、フローラの悪事を白日の下に晒すことが出来るのに!



 ユリアは、「そういえば、招待状を持ってきたのもその姿を消した女官でした」と言った。


 他の者は、フローラ邸からの使者が来たことも知らなかったという。


 決定的だ。間違いない。


 しかし招待状も、その女官も、すでに姿を消した後なのでどうしようもない。



 その女官との会話を、出来る限り詳細に思い出してもらう。



「何気ない会話ばかりなので、お役に立てるかは分かりませんが」

「構いません」

「……彼女は、いつも淡々としていて、無駄なことを話しませんでした。用事がある時にわたくしに声をかけ、済むとすぐに去っていく。そんな女官でした」

 

 ユリアは思い出すように、視線を下に向ける。


「そんな彼女が、一度だけ、わたくしに同情の目を向けたことがあります。それは、最初に雷帝がこの部屋へ来られた日の朝方のことです。雷帝が去られて、一人残されたわたくしは絶望感を必死に隠していました。それに気付いた女官が、同情の目を向けて言ったのです。『心を殺せば、辛くありません』と。どうやら女官は、わたくしが望まぬ行為を強いられたと思ったようなのです」


 それは、どう解釈すればいいのか。


「おかしな話ですね。毒物を仕掛ける時は淡々としていたのに、その時だけ同情するなんて」

「その女官には、もしかするとそのような経験があったのでは……?」


 何となくそう思って言ってみる。


「……そうなのかもしれません。今となっては確かめられませんが……あ。そういえば。花瓶に花を生けていると、これは娼館によく飾る花なので、別のものの方がいいと言われたことがあります。香についても、上品なものを召すようにと言われました。詳しいのかと聞くと、少し、と。わたくしには、女官がその花や香りを嫌っているように見えました」

「そのひとは、娼館で働いていた?」

「そう考えるのが自然かもしれません。後宮にはそのような出身の者は入れないはずですが、裏口から入り込むことなど、ヴァルト卿の力があればいくらでも可能でしょう」

「娼館でそのひとの痕跡を調べれば、

何か分かるかも! どこの娼館かは……分からないですよね?」


 ユリアは少し考えるような仕草をする。


「そう、ですね……どちらかというと都会の者のような雰囲気はありましたので、そう遠くの出身ではないのかと……正確には分かりませんが」

「十分です! ありがとうございます!」


 何かが動きそうな予感がして、ソワソワしてしまう。


 その後、他に何か気になることはなかったかを聞き、ユリアの部屋を後にした。



 応接室で待っている親衛隊と合流する。扉を閉めて、声を抑えめに話す。



「皆にお願いがあるんだ。この辺りにある娼館を全て訪問してくれないかな」


 ユリアから聞いた女官の特徴を伝え、痕跡を探して欲しいと頼んだ。類は民衆に顔が知られているので、一緒に行くことは出来ない。


「それならクリスの出番っすねー」


 ヒルダが爪をいじっているクリスティーナの肩をポンッと叩く。


「?」


 突然肩を叩かれたクリスティーナが、ふと顔を上げてヒルダを見上げる。


「クリスは人探しの名人なんすよー。他にもいろいろ出来る優秀なコなんす」

「へぇ、そうなんだ」

「……におい、ないと探せない」


 ボソリとクリスティーナが声を発する。


「におい?」

「さがす人のにおい」


(匂いで人探し……なんか犬みたい)


とは思ったが、この状況にはうってつけの特殊能力。


 類は考える。ユリアの言っていた女官の匂い……。そんな物品が残っているだろうか。


 再びユリアの部屋に戻り、相談してみる。


 ユリアは、女官の匂いのついたものはないが、女官が嫌っていた花と、香は分かると言った。


「もしどこの娼館も同じなら、探しようがありませんが……」

「それならしらみ潰しに探すだけです」


 探すのは親衛隊だが。


 類はユリアに礼を言い、再び親衛隊の元に戻った。





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