再び後宮へ
「お前はしばらく後宮に戻れ」
そう言われて唖然とする。
早速次の日、ルーカスに言われたとおり雷帝に会う用事をヴァリスに取り付けてもらい、上手く事が運び現在雷帝の書斎にいるわけだが、何故かそんな言葉を放たれ立ち尽くす。
(な、何で····?)
仕事をもらおうと意気込んで来たのに、あんまりだ。
類は下唇を噛みしめながら、その言葉の理由を考える。
類が考えつく前に、答えは雷帝の口から聞かされた。
「ペレの気が立っている。どういう行動を取るか分からん。後宮への出入りは禁じているからしばらくはシルヴァの所で仕事しろ。話は通しておく」
原因はペレだった。
ペレが自分に危害を加えるかもしれないということなのか? 確かに様子のおかしいペレは少し怖かった。
しかしそれでも釈然としない。
それで何故自分が兵舎を出て後宮へ行かなければならないのか。
「納得出来ません」
「あ?」
「今の仕事を投げ出せということですか? 出来ません」
「····自分の置かれた状況が分かっていないようだな。なら勝手にしろ」
そこで隣にいるヴァリスが口を挟む。
「ルイ。言うとおりにしなさい」
「で、でも····」
ヴァリスの顔は真剣だ。表情で何かを訴えるように見つめてくる。
「雷帝。ルイは今すぐ後宮へ行かせますわ。オスカを付けてください」
「····オスカ。付いていけ」
「はい」
あれよあれよと書斎から出される。納得していないのにあんまりだと心の中で叫びながら、廊下をヴァリスに引きずられ進む。後ろからオスカが付いてくる。
「ヴァリス様! どうしてですか!? 小間使いとしてですが、認められたのではなかったのですか!? 『偵察隊の仕事に励め』と言われたのに!」
「状況が変わったの。ペレが雷帝を激しくライバル視し始めたからよ。このままあなたがここにいるとややこしい事態になり兼ねないと雷帝が判断したのよ」
「で、でも! そうしたら偵察隊の仕事は出来ないということですよね!? それでは成果を挙げられません!」
「別の仕事を与えるわ。ルイ。よく聞きなさい。あいつは本来、あなたが見てきた大人しい存在じゃない。味方になると強いけど、敵に回すと厄介だから、そのバランスを取るために雷帝も苦労しているの。あなたが目につくところにいると、ペレを刺激するからハッキリ言って邪魔なのよ」
邪魔。
ハッキリとそう言い切られて、力が抜ける。
役に立つどころか、邪魔····?
「あなたが後宮にいる間に、雷帝はペレを説得するつもりよ。だから黙って従いなさい」
類は引きずられながら、項垂れる。
『しっかり確保しておいて』と言われたり、『邪魔』と言われたり。
上の人たちは本当に勝手だ。
雷帝も、ヴァリスも。
類は力が抜けたまま、宮殿を後にした。
「ルイを隠すの?」
後宮の門へ向かっている時、不意に上から声が聞こえた。
ペレの声だ。
横を歩くヴァリスは苦々しい顔をする。オスカは変わらず無表情だ。
「後宮へ行くんだ。なるほどね〜、あそこなら僕に邪魔されずにいつでもルイに会えるもんね。僕を本気で怒らせたいのかな? ユリウスは」
ヴァリスもオスカも何も言わない。ただ、黙って歩を進めている。
「····オスカがいるってことは、全力で僕を抑えるつもりってことだよね。僕は今能力を使えないし。その隙にヴァリスがルイを連れて行くんだね。でもさ、その後僕を説得するつもりだとしても、それに応じると思う? そんなことしておいて味方に付いてもらおうと思うなんて横柄だと思わない? ねぇ、何とか言いなよ」
冷や汗が流れる。またもや重い空気感。
「前から言ってるけど、ルイをくれないならオルムに付くよ。すでに今の状態でルイの魂を奪っても多少の効果はありそうだし。天上界を思うならユリウスにとっての最適解は、僕にルイをくれることだよ。そしたら天上界がオルムの手に落ちないように尽力してあげるよ」
自分がペレの元に行けば、ペレは天上界の側につく。
それが一番役に立つことなのかもしれない。
でも、それはペレの嫁になるということ。
そうすればペレは自分を人間界へ帰してくれるのだろうか。帰してくれたとしても、嫁になるのなら元のように生活は出来ないだろう。
そして他の女たちのように、ペレの子供を生む?
――いやいや、無理無理。想像出来ない。
またもや気分が悪くなって、口をおさえる。
その道はノーだ。
第一、身を犠牲にしてでも元の世界へ帰りたいわけではない。
正々堂々と帰るために、頑張っているのだから。
ヴァリスも、自分を皇后にしたいと思っているなら応じないだろう。
雷帝はどうか。
天上界を守らなければならない立場として、ペレを味方に引き入れることは重要だろう。そのために苦労しているとヴァリスも言っていた。
類を犠牲にすれば、ペレを得られる。
何故そうしないのか。ヴァリスに止められているのだろうか。
「門が見えてきたから、そろそろタイムリミットだね。ルイ、こっちにおいで。悪いようにはしないから」
ペレが上空から近づいてくる。
「ユリウスよりも僕の方が優しいでしょ? ルイのことを大切に思ってるし、強引なことはしないよ」
オスカが立ち止まる。
「先に行ってください」
「助かるわ。任せたわよ」
ヴァリスが類の手を引いて走る。オスカの方を振り返りながら、類も走った。
そのまま後宮の門を通り、中へ入る。
城壁の中でも、後宮だけは入ると腕輪が自動的に発動するようになっているため、ペレは入ることが出来ないのだそうだ。
「もう大丈夫よ」
ヴァリスが息をついて言う。
ここまでして逃げなければならないのか。今までとは違うのか。
「シルヴァ邸へ行きましょ」
戸惑う類を連れ、ヴァリスは再び歩を進めた。
◇◇◇
「この腕輪が厄介だなぁ。こんなことなら了承しなけりゃ良かった」
オスカの目の前で、ペレは自身の右腕についた腕輪を不満そうな表情で撫でる。
「僕がいろいろと我慢してるのはさぁ、ルイが健気に頑張ってるからなんだよ? ヴァリスにいいように利用されてるのも知らずにさ。でもそこもまたカワイイんだよね〜。ルイの単純でお人好しで一生懸命なところも全部、僕は愛してるんだよ。だから横取りは許さない。もしユリウスがルイを盗むなら、ルイの魂を奪った後、天上界をめちゃくちゃに壊してやる。修復不可能なほどに」
極悪な顔をして、ペレはオスカを見る。オスカは表情を動かさず、わずかに口を開く。
「私は雷帝の意思に従うのみだ」
それを聞いたペレは、少し毒気を抜かれたように口をへの字に曲げた。挑発する相手を間違えたというように。
「······あーはいはい。君に何を言っても無駄なんだった」
そしてふいと踵を返し、そのまま宮殿に向かって飛ぶ。
オスカはそれに付いて行く。
書斎で、いつもと同じ姿勢で頬杖をつく雷帝と、そこから少し距離を開けて向かい合うペレはどちらも真顔だった。
「ルイを渡すのが惜しくなったんでしょ? だから後宮に隠したんだよね? それで? 僕に何を言うつもり? オルムとの戦争で味方しろって? 笑わせないでよ」
「勘違いするな。ウロウロされると邪魔だっただけだ」
「はぁ? 騙されると思う? この僕が。ユリウスに。理屈が通ってないんだよ。つくならもっとマシな嘘をついたら?」
ペレは顔を歪める。雷帝ははぁと息をつく。
「腕輪を外さない限り、お前は何も出来ない」
「何も出来ないことはないよ? 人質を取るなりなんなりして脅すことも出来るし、オルムにルイの魂を奪ってもらうことも出来る」
「使い魔は呼び出した瞬間に抹殺するから不可能だ。勝手なことをするならまた檻に閉じ込める」
「······そんなことをしたらユリウスと僕の関係はもう終わりだよ? 二度と味方しない。ねぇ、よく考えてよ、ユリウス。ルイさえ渡してくれれば解決するんだよ? まだどうしても欲しいわけじゃないんでしょ? ならリターンの方が大きいじゃない。逆に言うと、ルイを使って僕を最大限利用出来るってことだよ。ルイをくれるなら僕はホイホイ働くから。お得だよ? 大バーゲン中」
ペレは少し声のトーンを上げる。
「······もしそうしたとしても、オルムがルイの魂を握っていることには変わりない。奪い返しに行くつもりか?」
「そうだね。そのつもり。ユリウスの心を奪えないならオルムにとってルイの魂を持っていることに何の意味もないからね。僕がルイをいただいたから魂も返してもらいに来たって言えばいけるでしょ。実際使い魔にはそう言ったしね。返してくれないけど」
「オルムに借りがあるんだろう? その肩代わりにされるだけだ」
「····ま、それはそうだね。あっさり返してはくれないかも。それなら力ずくで奪い返すしかないね」
「無理だろう。いくらお前でも地界の勢力を掌握しているオルムに簡単には手は出せない。それが出来るなら借りは作らないはずだ」
「分からないよ? やってみないと。愛の力で勝てるかもしれないし」
「お前にルイを渡したら、こちらに味方するフリをして魂を返す交換条件としてオルムに近づいて協力するつもりだろう? こちら側につかないなら腕輪は外さない。腕輪を外さなければお前は地界へ行くことすら出来ない」
「······」
「甘い顔をしているうちに折れろ。好き勝手なことばかり言うなら本気で潰す。腕輪をしたままのお前を殺すことなど簡単だ」
「······」
ペレは話していた時とは打って変わって、極道のような顔をして雷帝を睨む。
一連の舌戦を見ていたオスカは、小さく息をついた。
雷帝はいつもペレに甘い。
それはペレが本気で雷帝を敵に回そうとしていないからだ。
ペレ自身もそれを分かっているだろう。
しかし今日は少し違った。
『本気で潰す』と言っているのを聞いたのは初めてかもしれない。
ペレはしばらく苛立ったように雷帝を睨みつけていたが、やがて踵を返し、扉へ向かった。
「ルイに指一本でも触れたら許さないから」
顔だけを雷帝の方へ向けて鋭い目つきで言い放った一言は、怒気を孕んでいた。
◇◇◇
たまに後宮を訪れる類を一目見ようと、シルヴァ邸の前には、女官や下女たちが溢れかえっていた。建物の窓からも女たちの顔が覗く。
類の人気は、以前後宮にいた時よりも高い。常にいるわけではないので希少な機会として、見逃さないよう以前より女たちは積極的だ。後宮内を移動する際には黄色い声が飛び交う。
『黒の皇子』として町に出る時と同様だ。
「ルイ。またここに戻ってくれて嬉しいわ」
シルヴァは嬉しそうに微笑んで、類を迎えた。
納得出来ていないので複雑ではあったが、雷帝やヴァリスに指示された以上自分にはどうすることも出来ないと、気持ちを切り替えここでの仕事を頑張ろうと思うことにした。
「シルヴァ。ルイをよろしくね」
と言って去ろうとするヴァリスに声をかける。
「あの、ヴァリス様!」
「何?」
「····シンのこと····よろしくお願いします」
「ええ。もちろんよ。ここへ連れて来てもいいわ」
「え!? いいのですか!?」
「ええ。次に来る時に連れて来るわ」
「ありがとうございます! 宜しくお願いします!」
思わず頬が緩んだ。シンと離れなくて済むのは嬉しい。
ヴァリスが去って、シルヴァと共に屋敷に入る。
「あなたたち、ルイを見たいのは分かるけど、ちゃんと仕事しなさい」
廊下で、シルヴァが息をついて女官と下女たちに言う。
女たちはそそくさと散り散りになり、仕事に戻った。
「ここにいる間、この部屋を使いなさい」
以前気絶した時に運ばれた広い部屋を案内された。
「い、いいのですか? 私には広すぎる気が」
「いいのよ。今は女官ではないし、貴方は特別だから。雷帝のご指示があるまでの仮住まいだしね」
「そ、それで、私は何の仕事をすればいいのでしょう?」
「そうね、まだヴァリス様からは何も聞いていないから、とりあえずゆっくりしていて」
「そんな! 何かやらせてください! 落ち着かないので!」
「そう? それならちょっと頼まれてくれる?」
セシリア邸への届け物の仕事を頼まれて、シルヴァは絶対何か知っていると思った。ヴァリスの願望を聞かされているのだろうか。
考えながら、類は荷物を持ってセシリア邸へ向かう。
(正直、気が進まない。てか行きたくない)
苦い記憶を思い出し、類はげんなりする。しかし自分から言い出してもらった仕事なので、しっかりやらなければと思い直す。
「ちょっと押さないでよ! 見えないじゃない!」
「あたしがルイ様のご尊顔を拝むためにどれだけ全力で駆けてきたと思ってんのよ!」
「知らないわよ! いいからどきなさいよ!」
「嫌よ! あんたがどきなさい!」
「うるさいわよ、あんたたち!」
外野が激しく攻防する中、類はセシリアと庭園で対面していた。セシリア邸の敷地内の庭園は、シルヴァ邸のものと全く違い、アマゾンの奥地を模したような変わった雰囲気を醸し出していた。
「マリアのお散歩中だったので、ちょうど良かったです。いらっしゃい、ルイさん」
セシリアは今日はクリーミーなグリーンのドレスを着て、にっこりと微笑む。長い銀髪を下ろし左右に一編みずつ細い三つ編みを施している。
類はその隣を這うモノから目を離すことが出来ない。
シャーッという音と共に、大きく裂けた口元から伸びる細くて長い舌。その先端は二本に分かれていて、軽く2メートルはあるであろう体長はうねったり輪っかを作ったりしながら後ろに伸びている。類のふくらはぎほどの太さはあるその体に巻きつかれたら、容易に骨が折れてしまいそうだ。
もたげた頭の左右についたギョロリと開いた双眼は、悪魔のもののように見える。
蒼白となった表情を隠すことなく、類は預かった荷物を少し離れた所から差し出す。これ以上近づくのは無理だからだ。
「シ、シルヴァ様からです」
「あらぁ、ありがとうございます。これからランチにしようと思ってるのですが、良かったらご一緒にどうです?」
「い、いえ! 用事があるのですぐに帰ります!」
本当はないが、長居はしたくない!
「あらぁ、そうですかぁ? 残念残念」
セシリアが近づいてきて、荷物を渡した後、類が立ち去ろうと後ずさった時、ズゾゾッという音がして、恐ろしいことが起こった。目にも止まらぬ早業で、マリアと呼ばれた大蛇が足に絡みついたので、口から魂が飛び出そうになった類は、寸でのところで何とか一命を取り留める。
「あらあら、マリアはルイさんが気に入ってしまったようですね、うふふ」
『うふふ』じゃない!!
口元に軽く握った手を当てて、妖精のように笑うセシリアの正面で、類は身動きが取れず体を硬直させたまま、セシリアが何とかしてくれるのをひたすら待った。
「ルイ様ったら、とっても可愛らしかったわね」
「ここへ来た人たちの通常の反応よ、あれは。失神しそうになりながらも美しいのはルイ様だけだけど。もはや罪だわ」
「はぁ美しい」
食事の配膳をしながら女官たちが何か言っているのは耳に入ってくるが、今はそれどころではない。
結局マリアがなかなか離れなかったため、あれよあれよと屋敷に連れ込まれ、ランチを共にすることになってしまったのだ。
これが側室の部屋か!? というほど、野生の臭気漂う異様な空間の中で、類はテーブルを隔ててセシリアと向かい合って座っていた。
もはや観葉植物とは言えないほど大量の、大きく育ったアマゾン原産かという野性味溢れる植物たち。天井まで伸びた樹木同士の間を蔓のようなものが吊り橋のように複数垂れ下がっており、ジャングルさながらだ。
ここはセシリアの自室兼マリアの遊び場らしい。
(テーマパークのアトラクションでこんなのあったな)
類は小学生の頃に家族で行ったテーマパークを思い出す。確か食事のエリアもこういう雰囲気だった。
足元で何やら動いた気がしたのでチラリと目を向けた瞬間、「ひゃああっ」と変な声が出て思わず飛び退いてしまった。
太い毛むくじゃらの八本の足に丸々とした胴体のタランチュラが、類の椅子近くでモゾモゾ動いていた。ものすごく毒々しい色をしている。
(もうやだ〜。お願い帰らせて〜)
半べそをかきながら、類は座ることが出来ずテーブル脇に立ち尽くす。偵察隊の任務よりも過酷な仕事かもしれない。
「あぁ、ソフィア。こんなところにいたのね〜。脱走するなんてイケナイ子」
くすっと笑って、セシリアはどこからかカゴを持ちこちらへ歩いてくる。タランチュラをカゴに入れて、類に向かって美しい笑顔で言う。
「大丈夫ですよ〜。悪さはしませんから。この子の毒はとぉっても弱いんです」
(そういう問題じゃない!!)
類は思いっきり突っ込みたかったが、効果がないことは明白なので飲み込んだ。
セシリアは毒を持つ生物を研究する研究者なのだそうだ。
地球上の生物に似た生物ばかりなのは不思議だが、これも人間界の真似なのか元々なのか。
雷帝は特に毒蛇の研究を気に入って、セシリアを側室にしたらしい。研究費を惜しみなく出してくれるそうで、セシリアは快適に後宮にて研究に没頭する生活を送っているのだそうだ。
(研究対象に名前をつけるのは普通なの?)
類は研究に縁がないので分からない。が、セシリアが相当な変わり者であることはほぼ確信している。
いつの間にかテーブルには料理が揃っていた。
タランチュラがいなくなったので、再び椅子に腰掛ける。もう何も近くにいないか、もちろん入念に確認した。
そしてテーブルに並ぶ料理に目をやって、ギョッとする。
クリーム色のスープの上には何やら目玉のようなものが浮いている。明らかに虫だろという見た目の唐揚げ。魚のものではない得体の知れない大きな緑色の鱗がついた、一見美味しそうに見えてしまいそうな肉の塊。他にも所狭しとすごい見た目の料理が並ぶ。
(こ、これは····いわゆるゲテモノ料理というヤツでは)
類はうっと込み上げる吐き気を何とか抑え込む。さすがにせっかく用意してくれた料理を前に、えずくわけにはいかない。
大きく息を吸い込み、青い顔で覚悟を決める。
「まああ、ルイさん、お腹が空いていたんですね〜。たくさん食べていただけて、とっっても嬉しいです」
嬉しそうに言うセシリアの前で、類は無心で料理を口に入れる。用意された水で定期的に胃の中に流し込みながら。
意外にも味は良く、見た目さえ気にしなければ食べられるものばかりなのは幸いだった。
「ご馳走さまでした。美味しかったです」
ひとしきり食べ終わり、手を合わせて、セシリアに向かって頭を下げた。セシリアはコーヒーでもと言ったが、お腹がいっぱいなのでと遠慮した。
「良ければまたご一緒してください。いつでも待ってます」
にこやかにそう言われて、類はほっとした。変わってはいるが、おそらく悪気はなく良い人なんだろうと思う。
セシリア邸を後にして、帰路につく途中考える。
セシリアは、雷帝に全く興味がなさそうな印象だ。もちろんダイレクトに聞いていないので分からないが。研究対象をこよなく愛していて、それ以外のことには特に関心がなさそうに見える。
それにしても、毒蛇の研究に興味を持っただけで側室にするとは、普通の感覚では考えづらい。容姿が好みだったのだろうか。
セシリアとはこれからいろいろと話してみたいと思いながら、類はシルヴァ邸へ向かって歩いた。




