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第四話「死にたくない」

山田と別れた俺は、その足で桜の家へ向かった。


あの日から一度も行っていなかったが、迷うはずもなくたどり着いた。


桜の家は封鎖されていた。……当然か。殺人事件が起こったんだもんな。


未だに警察関係者が頻繁に出入りしていて、現場はほぼそのままだった。


「そっか——。まだ二日くらいしか、経ってないんだな」


その様子を見て思わず呟き、目を閉じて深呼吸する。


……俺は、何の為に戦おうとしている?


「決まってる。桜にもう一度、出会うためだ」


覚悟は決まった。


家へ帰り、念の為に動きやすい服装へ着替えてから、時間を確認しつつ山田の言っていた事を思い返す。


「決闘は定期的に開かれて、それには全参加者が等しく、拒否権無しに参加させられる。そして…」


「そして?」


言い淀んだ山田を不思議に思い、言われた事をメモに書きながら質問する。


「そして恐らく、ランダムに選ばれた参加者同士で、殺し合いをさせるの」


「それ、は……」


「重ねて言うけど、拒否権は無いわ。何度か反抗した人たちも居たけど、例外無く殺された」


山田の言葉を思い返そうとしている内に眠ってしまっていたらしく、スマホのアラームで目が覚めた。


「午前〇時……五十五分か」


通知の通りであれば、もうすぐ俺は、闘技場と呼ばれる場所へ転送されるらしい。


『転送』。そう、転送だ。勿論初の経験だ。だがワクワクもしなければ怖くもない。


怖いのは、俺が人を殺すのを躊躇ってしまうかもしれない事だ。


「覚悟は決めただろ……?」


ふぅ。と、短く息を吐く。


瞬きを繰り返し、スマホで時間を確認する。


五十八分……五十九分——。


目を開けると、そこは見知らぬ廃墟だった。恐らく、俺の住んでいる地域ではないだろう。


家の近所や、知っている建物ではない。


「ようこそ皆様。今宵の闘技場へ」


と、周囲を見渡しながら状況を整理していると、背後から男性の声とも、女性の声ともとれない声が聴こえて来た。


振り返って見てみると、テレビやアニメでしか見たことのない恰好をした人物がいた。


所謂軍服というヤツだ。黒を基調とした上下で、所々には赤色のラインが入っている。


その人物の容姿や声は中性的で、とにかく整った顔をしていた。


「皆様には、今晩も決闘をして頂きます。ルールは前回と同じく、相手の命を奪いさえすれば、手段は問いませ。但し、逃亡や決闘の遅延行為は厳禁とさせて頂きます」


……ふざけた事を妙に芝居がかった身振りと手振りで言っている。


多分だが、奴が『管理人』なんだろう。立ち居振る舞いや服装はややふざけてこそいるが、結構な距離のあるここまで、異様なオーラが漂って来ている。冷や汗と震えが止まらない。


覚悟は決めたはず、なのに——。


「アンタ、大丈夫?」


そんな俺を見兼ねたのか、気遣いを感じる声で誰かが話かけて来た。


その方向を見るとそれは、上下ジャージ姿の山田だった。芋ジャーだ。


「う、うん……。大丈夫、です」


情けない。彼女に声をかけられなければ、俺は足を震わせて、怯えたままでいただろう。


だが、そんな俺の考えを察したのか、山田は優しい声で告げる。


「気にしなくていいよ。アンタの反応は正しいわ。多分」


未だ何かを言い続ける『管理人』を指さし、彼女は続ける。


「アイツを怖がらなかったのは、人殺しを厭わない奴らだけよ」


そう言って『管理人』から視線を外した彼女の目線の先を追うと、まばらだが確実に居る。人間が、何人か。


誰もが退屈そうにしており、内一人は黙々と何かをメモしている。


「アイツらとアンタとアタシ、それからまだ誰も姿を見せてないヤツが一人いる。合計人数は、残り十人ぐらいってとこね」


彼女はそう言った。『残り』と。そして管理人は、『今回も』と言っていた。


今まで何回、決闘という状況になったかは分からない。知りたいとも思わないが。


と。そこまで思考を巡らせた頃、管理人が先ほどまでより一段階声を大きくして告げた。


「今回選ばれた方は…識知しきち あやま様です」


その声が辺りに響き渡った瞬間、俺はスポットライトのような光で照らされた。


「識知——いや、何でも無いわ」


突然のことに面食らいながらも、即座に気を取り直した俺を見て、山田は言おうとした言葉を引っ込め、拳を突き出してくる。


「後悔、無いようにね」


王道バトルモノのライバルキャラのような台詞だが、そうだな。うん。


「うん。俺は、俺の願いを叶えるよ」


彼女の拳に俺の拳を当てると、カチッという景気のいい音が鳴る。


「対するお相手は、こちらの少年です」


管理人が手で指した方向に居る人物にライトが当たり、平凡そうな少年が照らされる。


俺より、やや若いか?


中学生くらいに見える。


浜海はまみ) せい)様でございます」


俯いていた少年がゆっくりと顔を上げ、俺を睨んだ。その顔には見覚えは無いが、表情になら見覚えがある。普段から俺がしている表情…『虚無』だ。


直感した。彼には無いんだ。


生きる理由も、戦う理由も、何もかも。


だが。


「死にたくない、よな」


そんな事情なんか関係なく、死にたくはないんだ。それだけで、この場で戦う理由にはなる。


「それでは決闘……はじめ」

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