第二十八話「識知 誤」
「潔く死んでくれ」……完結になります‼
ここまでお付き合い頂いた読者の皆様、本っっ当にありがとうございました‼
まだ関連する話を書いていくつもりではありますが、誤の話はこれで終わりです。
後書きに、誤の簡単なプロフィールを載せておきますので、良ければご覧ください
『管理人』は死んだ。だが、殺して終わりという訳では無いらしい。
微かに息のあるリジェクトの元へ駈け寄った俺は、彼女を『管理人』の遺体から少し離れた所まで運んだ。
四肢はほとんど無い上、体内の血も殆どが出きっているであろうリジェクトの身体は、異常な程に軽く、冷たかった。
「ここで良いのか、リジェクト?」
「あぁ……ここで良い。ここならホープが……『管理人』が、よく見える」
もはや、息をするので精一杯に見えるリジェクトの隣に、俺は立つ。
すると、『管理人』の遺体が徐々に、光の粒子となって辺りに散り始めた。
「⁉リジェクト、アレは……っ」
「言った通り、奴は殺して終わりという訳ではないんだ。……復活するからな」
「……じゃあ、どうやって倒すんだよ」
「案ずるな。私には、能力の核が見える。復活する寸前にその核を破壊できれば、奴は本当に死ぬ」
「そう……なのか……。分かった。その核の位置をお前が俺に知らせて、俺はそこを、この剣で破壊すれば良いんだな?」
「そうだ。……見えた。奴の核は水月だ。……頼む」
「あぁ。任された」
俺はリジェクトの言葉を聞くと、剣を再び手に取って、『管理人』の元へ走る。
辺りは、まるで蛍が舞っているような、幻想的な風景だ。しかし、俺には、この風景はとてもおぞましく感じる。
浮かぶ粒子が、ここ数日だけじゃなく、数百年前からの犠牲者の命、その物の様な気がして。
「これで、本当に……終わりだ」
辺りに散らばった粒子が徐々に集まり、人の形を形成し始める。
光を放つ人型の、その鳩尾に向け、俺は騎士剣を突き立てる。
瞬間。ついさっきまでの量とは比較にならない程の光の粒子が、辺りに舞う。
『管理人』だったものは、徐々に崩壊していきながらも身体を起こし、自身に突き刺さった騎士剣を見ると、俺の方へ顔を向ける。
光が眩し過ぎて、俺には表情なんて見えないはずなのに、確かに笑っているのを見た。
するとその光は、今度は少し離れたリジェクトの方を向き、口を開き、何かを言った。
声は聞こえなかった。だが何となく、『ありがとう』と、そう言っていた気がした。
そのまま、光は形を失い、騎士剣と共に、空へと昇って行った。
「あれが、リジェクトの言っていた『ホープ』だったんだろうか……」
『管理人』とは確実に違う誰かだったように、そう感じた。
俺はふと、その場にガラス細工が一つ、落ちている事に気が付いた。
赤く着色された、薔薇の花弁のガラス細工。
俺はなんとなく、そのガラス細工を手に取る。
「」
俺はそのまま、リジェクトの元へ向かった。
「……誤。ありがとう。ホープは……やっと逝けたようだ」
「あぁ……そうみたいだな」
憑き物が落ちた様な笑顔で、声も殆どでないながらもそう言ってくるリジェクトに、俺は頷くしかなかった。
「――誤。花子から、伝言を預かっている。『自分は蘇らせるな』……だ、そうだ」
「えっ……な、何で」
「とぼけるな。……分からない、訳では無いだろう?」
「っ……」
心当たりというか、理由は大体想像がつく。だが……‼
「君の為に命を捧げた少女の、最期の頼みだ。……叶えてあげてほしい」
「……わかった」
俺は歯を食いしばり、花子の言葉を了承した。
「成長したな……。君は、これから願いを叶える……。『管理人』が消滅した後も、何かが落ちていたはずだ。それが、願いを叶える為のものだろう……」
「何かって、これが……」
俺はついさっき拾ったガラス細工を取り出し、リジェクトへ見せる。
「それは――それが、落ちていたのか?」
「え、ああ……うん。何か心当たりがある物なのか?」
俺からの問いかけに、リジェクトは口を開き、しかし何も答えずに笑った。
「いや……悪いが言わないでおく。それがどういう物なのかは……私とホープの、二人だけの秘密だからな」
「……そっか」
そうこうしていると、遂にリジェクトの目から、光が失われた。
「それでは、私も、そろそろのようだ……世話になったな。誤」
「いや……俺も花子も、お前には助けられた。お互い様だよ」
「ふっ……そうか。では恩人ではなく、戦友として、礼を言わせてくれ」
「……あぁ」
「ありがとう。識知 誤。私は、君と花子と、三人で共に戦えたことを、誇りに思う」
「俺もだ。……リジェクト、ありがとう」
「ああ。……ではさらばだ。勇敢な少年よ。君のこれからの人生が、どうか……希望に満ちています……よう、に――」
そう言い終えたリジェクトは、とうとう呼吸を止め、目を閉じた。
すると、彼女の身体は、光の粒子として、ホープと同じように、天に昇っていったのだった。
「……さて」
それを見届けた俺は、自分が持っているガラス細工を見つめ、目を閉じる。
「『桜を……春日 桜を、そしてその家族を、蘇らせてくれ』」
そう唱えた瞬間、俺は心臓の辺りが、何かに引っ張られる感覚を覚える。
目を開けて辺りを見回すが、特に何かが変わった様には見えない。
「……」
だが、不思議と絶望感は無く、根拠は無いが『叶った』という確信があった。
俺はその場を後にした。
――翌日。
俺は、体感的には随分久しぶりに、幼馴染に叩き起こされ、登校した。
桜の顔を見た瞬間に、情けなく号泣してしまったが、彼女はそんな俺にn、大いに困惑していた、
彼女の中では、ここ数日も普段と変わらず生活していたらしい。なので余計に混乱したのだという。
その日の帰り道。
「まったく……今日は珍しくすんなり起きたかと思ったらいきなり泣きだすんだもん。流石にビックリ通り越してドン引きだよ」
「何回言うんだよ、もういいだろ?」
「良くない‼ホント、下手したら死ぬんじゃないかって――」
「それは無い」
「くらい……泣いてて」
思わず、桜の言葉を遮ってしまった。
桜はキョトンとした顔で俺を見上げ、また困惑しているが、すぐに何かに気付いた様に俯く。
「そっか……ごめん。不謹慎だったね」
「……いや、俺も悪かった」
失われた命は、基本、元には戻らない。
俺は桜を取り戻したが、その為に、何人もの命を犠牲にした。
いずれ、桜にも話さなくてはいけない。
信じてもらえるかは分からない。不謹慎だと怒られるかもしれない。
それでも、本当の事を。
それが……素性の知れない彼ら彼女らに対する、せめてもの弔いなのだと、そう思う。
「何立ち止まってるのー?置いてくよー?」
いつの間にか前を歩いていた桜が振り返り、俺に大声で言ってくる。
さっきまで俯いていたのに、桜はもう前を向いている。
俺も、前を向かなきゃな。
そうだろ。花子。リジェクト。
「まてよ‼今日は一緒に帰るって言ったろ⁉」
俺は歩いていく。
誰に咎められずとも、決して消えない罪を背負って。
識知 誤。
17歳 男性 身長170cm 60kg
やや裕福な家庭で生まれ育ったが、両親は仕事ばかりで殆ど留守。
幼馴染である「春日 桜」の家族からの方が愛情を感じている。
【異能力:自身が唱えた願いを数秒間限定で叶える。効果時間が切れると脳の極一部が焼け付き、激しい頭痛が起きる】




