第二十七話「潔く死んでくれ」
リジェクトと『管理人』が何かを話したかと思うと、また激しく斬り合いを始めた。
「……」
俺は頭痛が収まって来たのを感じつつ、その二人に割り込む事ができずに居た。
素人の俺が加勢したところで、寧ろリジェクトの足を引っ張ってしまうだろうからだ。
だが……何もできないという事も、無いだろう。せめて何か、援護を……‼
そう思っていると、リジェクトと『管理人』が鍔迫り合いになり、『管理人』の持っている剣を、リジェクトが弾き飛ばした。
だが……彼女は頭に血が上っているようで、弾かれた『管理人』の左腕の手首が自身へ向いたのに気付いていなかった。
「っ……⁉」
リジェクトが一歩踏み込み、剣を振るおうとする。
その彼女の背後に、『管理人』が生成した剣が、パッと見でも十本近く迫る。
声掛けじゃ間に合わない……‼
「『かっ跳べ』ぇぇッ‼」
俺は能力を発動し、全力でリジェクトへ向かって、ほぼ地面と平行に跳躍。
彼女を抱きしめ、強制的に真横に移動させて剣の軌道上から外す。
「なっ……誤⁉」
「熱くなり過ぎるな‼『管理人』の動きをよく見ろ‼」
「っ……。すまない、助かった……」
「いや、分かってくれたら良いさ。……立てるか?」
「勿論だ」
不可抗力だが、地面にリジェクトを押し倒す形になってしまった事に、若干の申し訳なさを感じつつも、俺は立ち上がり、リジェクトの手を取って立ち上がらせると、剣の奇襲が外れた『管理人』はこちらを睨んでいた。
「識知 誤。貴様の能力、どうやら相当に厄介なものらしいな」
「ああ。……随分時間が掛かったが、ようやく俺も、自分の能力の詳細が理解できたよ」
「そして貴様は、只でさえ厄介極まりないリジェクトと組んでいる。だが、それでも私には及ばない」
「何……?」
『管理人』は俺とリジェクトを見ると、左手を前に、手を開いた状態で突き出す。
次の瞬間、俺とリジェクトを取り囲む様にして、ドーム状に剣が大量に現れる。
その剣の切っ先は、どれも俺達の方を向いている。
「っ……⁉無限に生成するったって、こんな数を、一瞬で⁉」
「落ち着け誤。今までしなかったこの攻撃をいきなり実行したという事は、奴も相当に追い詰められている、という事とも考えられえる」
リジェクトは冷静に言うが……こんなもの、どう回避すれば良い……⁉
「……誤。私が何とか、一人分だけ剣の包囲に穴を空ける。そこから脱出してくれ。……その後は、君が『管理人』を討て。良いな?」
「……できるなんて言えないぞ」
「できないと言わないなら上乗。行くぞ‼」
「あぁもう。くそっ‼やってやる‼」
リジェクトと小声で会話し、その場でリジェクトの背後に隠れる。
情けないが、仕方ない。
「この期に及んで女性頼りか、識知っ‼」
『管理人』が掌を強く握り、拳を作った。
それを合図に、剣はドームの中心……俺とリジェクト目掛けて全速で迫る。
「おおぉぉ‼」
リジェクトが駆け出し、吠える。
「うああぁぁぁ‼」
その後を追い、俺も駆け出し、リジェクトの背から離れないように、必死で付いていく。
くそ、リジェクト足速え‼
「はあぁっ‼」
リジェクトが迫りくる剣を切り捨て、断裁し、薙ぎ払う。しかし破片や塵になる前の剣の残骸が、彼女の肉を、骨を抉り、血飛沫が上がる。だが彼女は止まらない。
リジェクトの右腕は千切れ跳び、左腕は切断されて地面に転がり、それでも剣を咥え、眼前の剣を破壊した。
そして、剣の包囲を抜けた。
「――誤。後は、任せる……っ」
胴体も少なからず抉れ、脚もギリギリ繋がっているだけの状態で、リジェクトは絞り出すように言うと、咥えていた剣を手放す。
俺は地面へ落ちるより前にそれを掴み取り、『管理人』へ向かって走る。
「ちぃッ……悪あがきを‼」
「これが最後だ『管理人』ッ‼」
「殺してやるぞ、小僧‼」
『管理人』は剣を生成し、左手でそれを掴み、構える。
俺は踏み出した右脚の膝を深く曲げ、跳躍しながら能力を発動。
「『加速しろ』……ぉ‼」
「何っ⁉」
次の瞬間、俺は空中で急加速し『管理人』の左横を通り過ぎる。
その刹那。俺は剣を振り下ろし、奴の左腕を肩から切断し、着地する。
「ギッ……ァ⁉がああぁぁ‼」
滝の様に流れる汗。頭の中を動物が食い荒らすかの様な頭痛で俺は立っていられなくなり、その場に膝を付く。
「……勝った」
『管理人』は両腕を失った。
奴はもう、能力を発動することは叶わない。
「とどめを……。刺さないと」
今にも意識が飛びそうだが、何とか気を保ち立ち上がり、一歩一歩、踏みしめながら奴に近付き、剣を構える。
『管理人』は、痛みでのたうち回っていた。
「痛い……痛い、痛いぃ‼いやだ、嫌だ死にたくない、死にたくないッ‼たっ助けてくれ識知、いや識知様‼わたっ私はこんなところで‼」
涙、血、涎、汗をまき散らしながら俺を見る『管理人』。その様子に、元の面影は無い。
不思議と、何の感慨も湧かなかった。
ただ、目の前の人間がとても、とても哀れに見えた。
「『管理人』……」
「な⁉助けてくれ‼なんでもする‼だからどうか、命だけは――」
多数の命を奪い、あれだけ愉しそうにしていた男の最期は、とても醜いものだった。
俺は呼吸を整え、命乞いを続ける下衆を見据える。
「『管理人』……。潔く死んでくれ」




