第二十一話「じゃあね」
「がっ……ぁ……⁉くっ‼」
アタシは能力を発動し、識知の呼吸を封じる。
あの男……忘彼 喪憶のお陰で、ようやく自分の能力の詳細を把握できるなんて、本当、腹が立つ……‼
「戦いなさい、識知‼目的を忘れたの⁉」
「ぐ……うぅ……ううう‼」
識知は呼吸ができず、苦しいはずなのに、泣きながらアタシを見ていた。
『戦いたくない』と、目で訴えていた。
けれど……。次の瞬間、アタシの視界と、能力の手応えは識知を見失った。
初めて識知と出会った時と同じだ。
しかし、あの時と今回とでは、識知のとった行動は違っていた。
「……ごめん、ごめん山田さん。俺は、桜を蘇らせたい。そして……また、桜と毎日を生きたいんだ」
アタシの背後ではなく、正面に立った識知は、涙ながらにそう言ってきた。
ようやく、戦う覚悟を決めてくれたようだ。
「遅いわよ、馬鹿。……でも、アタシに勝てると思わないでね。アタシにだって、叶えたい願いは、あるんだから――ッ⁉」
「……うん。あると思う。……だから、ごめん」
仕切り直しだ。と、アタシが一歩前に足を踏み出した瞬間、識知が右腕をアタシに向けた。
次の瞬間、アタシの身体には、無数の剣が突き刺さっていた。
「たった今、やっと、ちゃんと理解したんだ。俺の能力を」
「が、ふっ……」
識知が何かを言っているのは分かるが、アタシの脳は、その言葉の意味を理解するより前に、身体中を駆け巡る痛みから意識を守るため、全ての感覚をシャットアウトした。
「山田さん……」
俺の攻撃を受け、盛大に血を流しその場に倒れそうになる山田の身体を支え、腕で抱きながら、ゆっくりとその場に寝かせる。
どうせ死んでしまうとしても、せめて最期は、看取ってやりたいから。
「……識、知。アンタズルいわよ。何、今の」
「俺の能力だよ。てっきり、一時的に全部の攻撃を回避できる能力、だと思ってたんだ」
「何言ってるか、わかん、ないわよ……」
山田の身体から、血は流れ続けている。
俺の腕の中で、山田の体温はドンドン下がっていく。
「っ……‼」
無意識に流れ出る涙が山田に滴り落ちると、山田は目を見開き、俺の胸倉を左手で掴み、吐血しながら言った。
「アンタ……ぜっ、たいに、生き残りなさいよ……‼アタシの死を、無駄に……しないでよ⁉」
俺の瞳に穴を空けんばかりに見ながら言ってくる山田に、俺は頷く。
「うん。約束する。俺は必ず生き残って……願いを叶える」
「だったら、もう後は、私が居なくっても、大丈夫……ね」
「うん。……うんっ‼」
山田を抱える腕から伝わってくる体温はもう冷え切っていて、鼓動も、もうほとんど無い。胸倉を掴んでいた山田の腕からは力が抜け、落ちかけたのを、俺は右手でキャッチする。
「最、期に。お願い……」
「何?」
目から光は失われる。恐らく、もう山田には、俺の姿は見えていない。
「花子って、呼ん、で……?」
「っ……花子」
「――。じゃあね、誤」
彼女が言い終えたと、ほぼ同時。
山田の身体はぐたりと脱力し、目を閉じた。
……花子は、死んだ。
山田 花子
17歳 女性 身長159cm 50kg
平凡な家庭に生まれ育ったが、些細な出来事から、幼少期から長きに渡り、虐めの対象になった。
心の奥底で、自身を救い出し、守ってくれる人物を夢見ていた。
【異能力:自身の視界に居る人間一人を対象に指定した場合に発動可能。対象の行動を一つだけ封じる。自身が解除するか、対象を見失うまでは、効果は続く】




