第二十話「勝負よ」
「……午前、〇時五十五分」
スマホのデジタル時計を見て、一人呟く。
識知も今、恐らくは決闘に備えて準備をしているのだろう。
アタシは動きやすい服……ジャージの上下に着替え、ベッドに横になっている。
リジェクトさんは、まだ戻っていない。
パトカーと追いかけっこをしているらしい。
何してるんだろう、あの人……。
「……」
アタシは識知が好きだ。
けど、アイツは常にアタシやリジェクトさんから、一定の距離を置いている。
恐らく、本人も無意識の内に。
基本的にさん付けで呼ぶし、絶対アタシの好意に気付いてない——いや、目を逸らしている。
何でそうしているのかは、何となく理解できる。好きな人に、一途でありたいのだろう。
……いや、それもあるだろうけれど。
それよりも、人を殺した現実から目を背けない為……逃げない為だろう。
アタシからの好意はどうなる、とは思うけど。
……そろそろか。
アタシは目を閉じる。
——目を開けると、目の前に広がるのは、野球等で度々使われる、ドーム型の球場。
「……」
そして、私と向かい合って立っているのは……。
「識知——⁉」
アタシの、想い人だった。
「山田、さん……」
アタシは、思わずその場を見渡す。
奴は……『管理人』は、球場の中心、地上から目測で十メートル程の空中で、剣を組み合わせた椅子に腰かけて嗤っていた。
「ようこそ皆様。今宵の闘技場へ」
『管理人』の口から、もう何度目かの、決闘の挨拶が並べられる。
でも……ちょっと待ちなさいよ。
「管理人‼これはどういう事なの⁉」
アタシは、思わず叫んでいた。
「どういう事、と申されましても。山田様。あなた様は既に複数回、決闘をご覧のハズでは?」
「ええそうよ‼アタシは、そこの識知と違って、この悪趣味な決闘は、もう何度か見てる」
「……では、説明は必要無いのでは?」
「違うッ‼」
『管理人』はとぼけ、困ったように眉を寄せて「やれやれ」というジェスチャーをする。
コイツ……‼
「どうして、識知がまた選ばれてるのよ‼今までの決闘じゃ、少なくとも連続で選ばれる事は無かったじゃない‼」
そう、アタシが識知に言った言葉は、少なからず根拠があった。
けど、それじゃ薄かったのだろうか。
いや、そうじゃない。
アタシを含め、今残っている識知以外の人間は、少なくとも、今までは決闘に出ていない。
それなのに、何故……くじ引きでもしているっていうの?
「……お答えしても良いですが、それを訊いて、如何するおつもりですか?」
「――‼」
そう、か。分かった。分かって、しまった。
他二人と識知とアタシ、そこに違いがあるとすれば恐らく……リジェクトさんとの関係性だ。
彼女の話を全面的に信じるとするなら、『管理人』にとって、リジェクトさんと協力関係にあるアタシと識知は、鬱陶しい存在だろう。
その二人の内一人を、自らの手で殺すんじゃなく……殺し合わせる事で、労せず戦力の削減と、あわよくば生き残った方の戦意も削ごうと、そういう事だろう。
「下種が……‼」
「や、山田——さん」
アタシの呟きに、識知は青ざめた顔で話し掛けてくる。
あの顔……アイツ、また迷ってる。
大方、『山田を殺せば、桜を蘇らせるのに一歩近づく。でも……』って、自分の中で答えはとっくに、あるだろうに……。
その答えを出すには、アタシとアンタは、助け合い過ぎたかな。
アタシは識知から視線を外すと、もう一度、『管理人』を睨みつける。
「……」
『管理人』は、何も言わずに、ただ退屈そうに頬杖をつきながら、アタシと識知を見下ろしている。
「識知。アタシは言ったわよね」
「……?」
大丈夫。アンタはきっと、願いを叶えるわ。
だって、これからも、リジェクトさんが味方にいるもの。
そして桜を蘇らせて、幸せに……生きなさい。
「識知、アタシとアンタの、決着を付ける時が来たわね」
「なっ……⁉」
アタシは識知へ向き直り、前に一歩踏み出して、言う。
こうでもしなきゃ、アタシの決意が鈍ってしまう。
「アタシがアンタを殺して願いを叶えるか、それとも、アンタがアタシを殺して、桜を蘇らせるか。勝負よ」
「ま、待って……待ってよ、山田さ」
「問答無用‼アタシはアンタを殺すわ。そして……そして、幸せになるの」
アタシは、涙で滲む視界に移る、自分の事を眼中に入れてすらくれない想い人を、一方的に振った。




