第十九話「勘」
リジェクトが家から出て行った後、俺は山田を起こすのも野暮……というか機嫌を損なうような気がしたので、ボンヤリと窓から外を眺めていた。すると。
「パトカー……何かあったのか?」
俺の家の前を、サイレンを鳴り響かせながらパトカーが通過していった。
この辺りをパトカーが行き来するのは結構稀なんだが……。
と思っていたら、何やら見覚えのある何かがパトカーに追われていた。
「り、リジェクト……」
あの人、鎧姿でコンビニなんか行くから……。
あ、でもすげえ。ダッシュでパトカー振り切ってる。
「見えなくなっちゃった……」
そのまま、入り組んだ住宅地へ入って行った。
中世の騎士ってすごいなぁ……。
なんて、どこか肩の力の抜けるような風景を見た俺は、コーヒーでも淹れようとキッチンへ向かう。
「んぁ……識知、おはよう」
「おはよう、山田さん。ちょっと訊きたい事があるんだけど、良いかな?」
さっきのサイレンで目を覚ましたのか、キッチンで水を飲んでいた山田と軽く挨拶を交わし、コーヒーを淹れながら、俺は尋ねた。
「……うん。良いわよ。あとコーヒー、アタシの分もよろしく」
「はいはい。ブラックで大丈夫?」
「ミルクと角砂糖一個はマストでしょうが……。」
少しだけ溜めて、山田はうなずく。
若干寝ぼけているのか、目を擦りながらテーブルにつき、あくびをしている。
「それはカフェオレっていうんじゃ……いえ、分かりました」
言いかけた俺を流し目で見つつ、無言の圧を掛けてくる山田。
おっかない。
少しして、二つのマグカップに、黒と明るめの茶色の液体をそれぞれ注いだ俺は、山田の向かい側の席につく。
「……ふぅ。それで、訊きたい事って何?」
カフェオレ……いや、コーヒーを啜った山田は、いくらか目が覚めてきたのか、真っ直ぐ俺の目を見て言ってくる。
「うん。単刀直入に訊くけど……山田さん、やっぱり何か、隠してるよね」
山田は顔を逸らした。
「言いたく、ない?」
無言で顔を横に振る山田。
言いたくない訳ではないのか。
「……でも、今じゃない」
「それはどういう——」
そこまで言いかけた時。
山田と俺のスマホは、同時にけたたましく鳴り響いた。
俺は、山田と顔を見合わせる。
【本日の深夜1時頃、アプリ利用者の皆さんを闘技場にご招待いたします。お楽しみに】
「——」
いつか聞いた覚えのある、アナウンス。
たしか、『決闘』の……。
「……識知。この決闘、たぶんアンタは選ばれないわ」
不意にそういった山田は、カフェオレをぐいっと飲み干し——熱くてできなかったのか、また啜ってから、呟くように言う。
「何で、そう思うの?」
「勘よ」
それだけ言って、山田は黙ってしまった。
無言の俺と山田の間で、マグカップからはしばらく、湯気が静かに立ち昇っていた。




