断章第一話「浜海 生」
今回は胸糞要素が盛りだくさんなので、凌辱・虐め・殺害などに苦手がある方はご注意ください。
部分としては、第二話と第三話の間です。
後書きに、今回のキャラの簡単な設定が記載されています。
良ければ、後書きまで読んで頂けると幸いです。
「おい浜海!聞いてんのか⁉くっせーお前なんかと話してやってんのなんて俺くらいだろうが!言う事聞けよ!」
「う……うん」
市立明々中学校の男子トイレで、
僕『浜海 生』は同級生の男子に万引きを命令されていた。
時刻は午後三時四十分。
僕ら三年生には現在、悪自慢のブームが到来していて、数ある軽犯罪の中でも、通学路の途中にある、寂びれた駄菓子屋での万引きは、一番メジャーで、一番尊敬される悪事だった。
「じゃ、お前、アレ盗ってこい」
「……分かった」
僕に命令をしている彼は雄太。
クラスの中では虐められっ子側の存在だ。
そんな彼は、自分よりも立場の弱い僕を利用して、カースト上位の子たちに並ぼうとしている。
僕は、雄太が指さしたエアガンを盗むべく、駄菓子屋に入店し、顔なじみのお婆さんに会釈する。
お婆さんは最近、目がぼやけて見えるようになってしまったらしく、僕の事も判別できているか分からない。
僕は真っ直ぐにエアガンの置いてある棚へ向かい、ソレを手に取る。
「……こんなのの、何が良いんだろう」
エアガンは、僕らの学年では、持っているだけで一目置かれるトロフィーだ。
つまり雄太は『万引きをした上に、エアガンを持っている』。
という称号を得ようとしている訳だ。
そして万引きするリスクは僕に押し付けられる。
「……まあ、どうでも良いか」
そう呟いてエアガンをカバンに入れ、何食わぬ顔で駄菓子屋を後にする。
雄太は、最寄りの角を左に曲がった所にある電柱で待っている。
「あー君、エアガン、会計してないでしょ。万引きって犯罪だよ?」
「……っ!」
「あっ、こら待ちなさい!」
店を出た瞬間、紺色の服を着た大人に呼び止められた。警察だ。
思わず走り出す。
角を左に曲がり、電柱まで走る。
雄太は走っている僕を見て何かを察したのか、すぐさま走ってその場を立ち去った。
「はっ……はっ……。⁉」
「止まりなさい、全く……」
雄太が路地を挟んだ道路に走り去った直後、お巡りさんは僕の肩に手を置いた。
そのまま、僕はお巡りさんに連れられて、駄菓子屋に戻った。
お巡りさんから連絡が行ったのだろう。
僕のお父さんと、クラスの担任の先生が飛んできた。
「「すみませんでしたっ‼」」
お父さんと先生は、駄菓子屋に着くなり頭を下げた。
「まあ、今回は初犯ですし、お店の人も被害届は出さないそうなので注意だけですが、お子さんにはキッチリ、言っておいて下さいね」
「はい、それはもう……‼」
「ありがとうございます!」
お父さんと先生がペコペコしている姿というのは、なんだか面白かった。
「この……クソガキがっ‼」
お父さんは、家に帰ってドアを閉めた途端、僕をの腹をグーで殴った。
痛い。
「折角勝ってたのに、てめえが万引きなんぞしやがるせいで、負けちまったじゃねえか!」
お父さんは拳を振り上げ、また僕の腹を殴った。
僕は給食だったものを吐き出した。
『汚ねえ』と怒鳴られ、また殴られた。
お父さんはどうやら『生活保護』というのを受けているらしく、そのお金でしょっちゅうパチンコに行っている。
今日は久々に勝てそうだったのに、それを僕が台無しにしてしまったらしい。
「ご、ごめん……なさい」
「ふぅ~……ふぅ~」
また、お母さんが払っている養育費で、女の人と沢山外食をしているらしく、体重はこの前『百五十キロ突破』と言っていた。
「謝れば……済むと思ってんのか‼」
今度は、殴打ではなく蹴りだった。
「がっ……、う……げほっげほっ‼」
僕は何メートルも吹っ飛ばされ、背中を壁に打ち付けて大きくむせた。
苦しい。痛い。辛い。
お父さんはタンスから女子用のワンピースと長髪のウィッグを取って、むせて動けない僕に投げつける。
……また、あれか。
「着ろ」
お父さんの声に、僕は頷いて立ち上がり着替える。
お父さんは服を脱ぎ、僕の布団に寝そべった。
そこから数時間、僕はお父さんの為の人形になった。
事が終わった後、お父さんは煙草を吸って自室に戻っていった。
正直、この時間が一番辛い。
僕は布団のシーツを外して洗濯機に入れる。
次にティッシュやローションの空き容器等をゴミ袋に入れる。
服も着替え、洗濯をしている今のうちに、明日の朝ごはんの準備をしようと冷蔵庫を開ける。
「……何も入ってない」
僕が先週、一週間分買い込んだ食材が丸々無くなっていた。
お父さんが食べたんだろう。
仕方が無いので、僕は自分のキャッシュカードを持ってコンビニに行く。
お父さんに言われて始めた『紳士向けの配信』で稼いだ僕分のお金を引き出し、コンビニで買い物を済ませて帰る。
僕用に簡単な野菜炒め、お父さん用にステーキを用意して冷蔵庫に入れる。
お父さんは肉が好物なので、ステーキが朝食だと機嫌が良くなりやすい。
作り終わった頃、洗濯機が『ピー』という音を発する。あ、ヤバい。
「うるっせえ‼」
お父さんが自室から出てきて、平手で僕の背中を思いっきり叩いた。
痛い。ジンジンとした痛みと熱い感覚が背中に伝わって来る。
「俺は寝るからな。音立てんじゃねえぞ」
「……うん。ごめんなさい」
そう言って、お父さんはまた自室に戻って行った。
「……干さなきゃ」
フライパンや包丁などを片付け、洗濯機からシーツを取り出して僕の部屋に干す。
明日帰って来る頃には乾いてるかな。
そう思いながら、僕の布団に横になる。
ちょっとイカ臭い。
「……良い夢、見られると良いな」
僕は毎日の密かな楽しみを口にし、目を閉じた。
翌日。
朝起きて冷蔵庫を開けると、また何も無かった。
シンクには、僕の野菜炒めを入れていた皿とお父さん用に用意していたステーキを入れていた皿があった。
皿を洗い、学校の準備をする。
今日は美術だ。創作の時間は楽しい。
先生が面白いのだ。
「……あれ、彫刻刀、どこやったかな」
一通り思い当たる所を探しても見当たらず、仕方ないので諦めて学校に行こうとした時玄関に彫刻刀のケースが落ちていた。
中身も揃っていた。
隣に空き段ボール箱が置いてあったので、多分カッターナイフ代わりにしたのかな。
そうこうしている内に遅刻しそうになり、僕は小走りで学校に向かった。
お腹空いたなぁ。
学校に着くと、僕の事をみんなが見ていた。
「よう犯罪者」
雄太が僕に話し掛ける。
どうやら、昨日僕がお巡りさんに捕まったのが既に言いふらされているらしく、男子、女子双方から糾弾された。
授業中は消しカスや罵倒の文言が書かれた紙が飛んできて、
トイレでは『配信』を見ている男子に『使用』され、
帰り道では近所のお母さんたちに『万引き犯』と揶揄された。
家に帰ると、今日はお父さんがまだ帰っていなかった。
パチンコで勝っているのか、女の人と遊び歩いているのかは分からないけれど、何にしても、今日は機嫌がいい日かもしれない。
僕はお父さんが買ってくれたガラケーのバッテリーの充電が完了しているかを確認する。
が、どうやらお父さんが僕の部屋でコンセントを使い、充電器はその時に外されたらしく、充電は0%だった。
「……」
僕は布団に寝そべる。
辛いなあ。
【新着メールがあります】
いつの間にか寝てしまっていた僕は、とんでもなくうるさい音で目が覚めた。
慌ててお父さんの自室の方を見る。
ドアが閉まっている。
帰って来てる!
どうしよう、また殴られる……。
そう思った僕は、自室に入って震える。
その間も、通知音?
は鳴り響き続ける。
でもガラケーは充電が全くないので、対処のしようが無い。
【あなた様には、異能力が与えられます。与えられた異能力を駆使し、願いを叶える権利を勝ち取りましょう!】
もうどうしようもない。
……だが、いつまで経っても、お父さんが来ないどころか、怒鳴られすらしなかった。
耳を澄ませてみると、お父さんが笑う声と、芸人さんの漫才の声が聞こえる。
……通知音は聞こえてない?
僕はガラケーを暫く充電し、電源を点けて通知の内容を確認する。
『異能アプリ 運営』という人?からメールが来ていた。
僕には異能力が与えられた……らしい。
暇つぶし程度に『使ってみよう』と考えると、何故か脳内に方法が浮かんできたので、一度試してみることにした。
まず、水道からコップに水を汲んできて、コップの中の水に指で触れる。そして
『剣になれ』
と念じた。
すると、コップの中の水は確かに剣のような形状になり固まった。
触ってみると、水だからか、ひんやりとして、そして硬い。溶けない氷みたいな感じだ。
「へえ……!」
面白い。今度は馬みたいな形、槍みたな形、鳥みたいな形……。
水を色々な形にしてみて分かった。
『水』では細かい形にはできないようだった。
しかし僕は満足だった。
『面白い玩具を手に入れた』と、そう思ったからだった。
その日は水で遊んで、そのまま寝てしまった。
「ふざけんじゃねえっ‼」
翌朝、僕は珍しく顔を殴られた。
「朝飯が無えだとっ⁉俺を餓死させる気か‼」
お父さんが近くにあったカッターナイフを手に取って僕の右手を切りつけた。
僕の右手からは当然血が出て、床に垂れる。
「床を汚してんじゃ……ねえっ‼」
返す刀で、お父さんは僕の左手を切りつけた。
痛い。両手がジンジンする。
……『やり返せたら良いのに』。
「いっ⁉」
「……?」
お父さんが僕へ向かって足を踏み出した時『ブシュッ』という音がした。
「あっ?……いいぃぃぃ⁉」
お父さんと僕は、揃って音のした足元を見る。
そこには、鮮やかな紅色の短い槍が一本立っていた。
お父さんの足は、その槍を思いっきり踏み抜いていて、すごい勢いで床に血溜まりを作っていた。
「いってぇぇぇ!」
その場にしゃがみ、足を抑えるお父さん。
……これ、ひょっとして、僕がやったの?
「おい生!救急車っ、救急車よべぇ!」
僕を見上げ、脂汗をまき散らしながら叫ぶお父さん。
鼓動が早い。お父さんの声が遠くて、視界がぼやける。息が上がって、考えが……。
————————————ザクッ。
殺した。お父さんを。
僕の足元で痙攣しているのは『お父さんだったもの』。
「……学校、行かなきゃ」
水筒にお父さんの血を入るだけ入れ、指で触れる。
それから身体を綺麗にして、学校に向かう。
何だか今日は、景色が綺麗だった。
学校に着いた。
雄太がまた犯罪者呼ばわりしてきたので、お父さんの血で作ったモデルガンみたいな物を渡した。喜んでいた。
授業中に消しカスや紙が飛んで来た方向の子に、お父さんの血で作った消しゴムみたいな物を投げ返した。喜んでいる声が聞こえて来た。
トイレで僕を囲ってきた男子には『お礼』として、お父さんの血で作ったダイヤモンドみたいな形の物をあげた。これも喜んでいた。
帰りの会。先生の号令で皆が帰っていく。
僕は一人で教室に残り、時計を睨むように見つめていた。
午後六時半。
僕を虐めていた子達は塾には行っていないので、六時半には家に着いている。
……そろそろかな。
「……死んじゃえ」
『ブシュッ』という音。
どうやらこの音は、能力をどこで、どう使おうと聴こえてくるらしい。
手元に残ったお父さんの血は、上下左右三六十度に向けて向けて鋭利な針が突き出た形になっていた。
量が少なかったので手のひらサイズだが、皆にはかなりの量で渡したから、ちゃんと殺せたはず。
「……帰ろう」
下校中、駄菓子屋の前を通りがかった時、お婆さんが僕に声を掛けて来た。
「生くん、良いかい?」
「……?」
どうやら、僕の下校を待っていたらしい。
「お婆さん……僕の事、見えてるの?」
「見えとるよ。十五年間見てれば、目が悪くなっても見えるもんさ」
「そうなんだ。……それで、何?」
「はい、これ」
お婆さんは、カウンターの下からエアガンを取り出し、僕に差し出した。
「……これは?」
「欲しかったんやろ?あげるから、もう万引きなんてしたらあかんよ」
「……あ、ありがとう……」
「良いんよ。生君は、私の孫みたいなもんなんやから」
「っ……」
何だろう、急に、気分が……悪い。
「ごめんお婆さん、また明日!」
僕はエアガンを受け取ると、そのまま走って駄菓子屋を後にする。
「はあ……はあ……」
何だったんだろう、さっきの。
走って家の近くに着き、気分も落ち着いた僕は、家の鍵を取り出して家に入ろうとする。
お父さんの死体、どうしようかな……。
「おかえり、浜海 生君。ちょっとお話良いかな?」
僕が家のドアノブに触れようとした時、横から声を掛けられた。
その方向を向くと、あの時のお巡りさんが居た。
「あっ、え……?」
何で?もうバレたの?
血を抜いたから、今日一日くらいはバレないと思ったのに。
どうしよう、殺す?でも、どうやって?
「君は——」
お巡りさんが口を開く。
やばい、逃げなきゃ——
「君は、虐待を受けているんじゃないか?」
「——へ?」
「近隣住民や、駄菓子屋のお婆さんから通報があってね。もしそうなら答えて欲しい。必ず助ける」
「……知りません」
「生君っ!」
お巡りさんは、僕の両肩を掴んで訴えかける。
『助けさせてくれ』と。
「知りませんッ‼」
僕はお巡りさんの手を振り払い、家に入って鍵を閉める。
ドアの向こうから『気が変わったら相談してくれ』というお巡りさんの声がして、そして、静かになった。
「………………だ」
僕は玄関で蹲り、髪をかき乱して呟く。
「何で……なんだ」
涙が溢れ、吐き気がこみあげて来る。
胃からせりあがって来る胃液をそのまま吐き出し、心からの叫び声を上げる。
「何で今更なんだ‼」
「もう遅いんだよ‼」
「もっと早く助けてよ‼」
「お父さんも殺した‼」
「同級生もあらかた殺した‼」
「これまで全く助けてくれなかったのに‼」
「今になって『助けよう』とか、余計なお世話なんだよ‼」
「……これから、どうしよう」
喉が枯れるまで叫び、疲れ果てるまで暴れ、僕は布団に横になる。
昨日の夜、シーツが乾いていたの、気付かなかったな。
「……」
翌朝。
お父さんに怒鳴られない。嬉しい。
昼まで寝ていたのに何も言われない。嬉しい。
夕方。お父さんの死体どうやって片付けよう。
「……」
布団で横になってウトウトしていた時、僕のガラケーが急に、大音量で通知を鳴らした。
【本日の深夜1時頃、アプリ利用者の皆さんを闘技場にご招待いたします。お楽しみに】
浜海 生
15歳 男性 身長149cm 43kg
両親は離婚しており、母親は再婚済み。
母方、父方共に祖父母は死去している。
【異能力:液体を自由に変形・固形化させられる。液体が血液に近ければ近いほど自由度・再現度が上がる。想像力に依存する】




