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第十六話「あとは任せてくれ」

「——はぁっ‼」

「っ……この‼」

男は俺の方へ駆け出してから跳躍し、空中で不自然に加速して膝から突っ込んでくる。

回避が間に合わず、男の攻撃を右腕でガードする。

右腕が軋む感覚を感じつつ、右足を軸にして後ろ向きに身体を回転させ、その勢いで踵から後ろ回し蹴りを叩き込む。

「うぉ……っとと。まだまだぁ‼」

姿勢を崩した男は、後頭部から落下する身体を両手で支え、跳ね起きの要領で蹴りを入れて来る。

コイツ、さっきから変な挙動を……。

これが能力なのか?

いや、違う。それだと一度殺したのに蘇ってきた事に説明が付かない。

「がはっ……ぁ……!」

俺はその攻撃に対応できず、腹部へ蹴りを受けてしまう。

「よ……っと!貰った‼」

数歩下がった俺は、男の不自然な挙動から回避できず、馬乗りになられる。

「くそ……ぉ‼」

「苦し紛れの攻撃なんか効かないよ!」

馬乗りの姿勢から脱しようと藻掻く俺は、両腕で男の身体を殴りつけようとする。

だが男は余裕そうな表情でその両手を掴み、両脚で上腕の辺りを押さえつけて来る。

コイツ、戦いに慣れている‼

完全に動けない。まずい!

昨日みたいに、すり抜ける能力を使えれば!

そう思いながら、俺は能力を発動する。

この男だけは、必ず殺す‼

「——ぇ?」

次の瞬間。

男の身体は、男目掛けてあらゆる角度から出現した槍で串刺しにされていた。

「うっ……くっ……」

傷口から夥しい量の血を流して動かない男の身体の下から這い出て立ち上がり、少し離れて男の様子を観察する。

「死んでる、よな……。流石に」

素人目だが、確実に死んでいるように見える。

そう思った時、男を串刺しにしていた槍が霧散した。

男の遺体は支えを失い、傷口から内臓を覗かせながら地面に落ち、ベチャッという音を立てる。

「——」

当然だが、男は喋らない。

「死んだ……か。っ⁉」

そう言いながらも、男から視線を外さずに居た、その時。

男の身体の傷が、逆再生のような様子で塞がっていく。

さっき起き上がって来たのは、これか!

そして、傷が塞がったかと思うと、顔を上げ、再び嗤った。

「……ばぁ」

「化け物かよ……」

心の底からの恨み言だ。何で死んでるのに起き上がって来るんだよ。

もうこの際、コイツの能力を暴いてやる。

そう思って身構えた瞬間。

俺の視界から男は消えた。

「なっ……⁉」

今の消え方は、速度じゃない。

能力だ。相手の視界から消える類の。

「ど、どこだ。どこに……っ⁉」

俺が周囲を警戒していると、俺から見て右側の側頭部に蹴りらしき衝撃が走る。

「ぁ……う、く」

意識外からの攻撃をモロにくらいよろめく。

その隙を見逃さず、男は連撃を叩き込んで来る。

鳩尾に一発。顎を蹴り上げる形で一発。

喉仏に足刀が一発。咳を止められず、下がった頭に踵落としが一発。胸にドロップキックが一発を、全てまともに入れられる。

見えないので当て方は分からないが、合計で五発。俺みたいな一般人は、既に満身創痍だ。

「はっ……ぁ」

死ぬ。これは、間違いなく。

結局、リジェクトや山田の助けが無ければ俺はこの程度らしい。

妙にスローになった視界で、朧げな思考をする。

やっぱり、死にたくない。

桜を蘇らせたい。

あんな奴に負けたくない。

せめて、せめて……。

『せめて、男の事を認識できれば』。

そして……。

「とどめ……ッ‼」

男が嗤いながら、俺の側頭部目掛けて跳び後回し蹴りを叩き込もうとしている瞬間が見えた。

俺はほぼ無意識で身を引き、男の蹴りを回避する。

「——っ」

「な……に⁉」

俺の目の前で大きな隙を晒し、驚愕する男。

反撃、反撃しなければ……。

「よくやった、少年。あとは任せてくれ」

反撃しようとする俺の意思とは反対に、身体は動かない。

身を引いたまま仰向けに倒れそうになる俺はしかし、硬い鎧に身を包んだ騎士に受け止められた。

そこで安心してしまったのか、俺の意識はそこで途絶えた。


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