第十四話「変な顔色」
「……静かだな」
家へ帰ってきた俺は、家内の人気の無さに少し寂しさに似た感情を覚える。
今朝までは、俺と山田とリジェクトの三人が居たはずの家は、驚くほど静まり返っていた。
「リジェクトは、どうして管理人に会いに行ったんだろう」
『願いを叶える』と言っていたが、この状況で願いを叶える必要があるのか?
もし俺を欺くための嘘で、本当は山田を誘拐した輩と裏で繋がっていたら?
いや、最悪は、管理人に会いに行っているのは事実で、俺や山田を一度に殺せるように画策している……とかか。
「……そもそも、管理人の居場所が分かるのか?なぜ?」
頭を過るのは、リジェクトに対する警戒と、そして——
「山田……大丈夫かな」
山田への心配だ。
玄関で靴を脱ぎながら、答えの出ない疑問をぐるぐると考え、軽く頭痛が来た辺りで思考を一旦やめる。
そのまま脱衣所へ向かい、服を脱いでシャワーを浴びる。
「……駄目だな。こんなんじゃ」
考え過ぎている自覚はある。
だが、考え過ぎでもしないと落ち着かない。
「……」
しばらく何もせずにシャワーに打たれ、身体を拭いて風呂から出て服を着る。
「そういえば、俺の能力って……何なんだろう?」
さっきは、今まで思っていた俺の能力とは違うものが発動していた。
俺はてっきり「一時的に無敵状態になれる」くらいのものだと思っていた。
しかしさっきのは、無敵というより——
「すり抜けていた、よな」
またも答えの出ないであろう疑問に捉われ、頭をおさえてベッドに倒れ込む。
「……寝よう。明日はたぶん、戦いになる」
ひどい頭痛の原因を『寝不足だから』と考え、俺はそのまま眠りについた。
翌日。俺はアラームの機械的な音で目を覚まし、起き上がって洗面所へ向かう。
声がしない。リジェクトは戻って来ていないのか。
「山田……は、居ないか。そりゃあ」
何だか、桜が居なくなった直後みたいだ。
「いや、そういう訳でも無いか?今回は、今のところ二人とも無事……だもんな」
片や誘拐されていて、片や狂人の元へ出向いてはいるこの状況を、無事と評するなら、だが。
「……はは」
ああ、駄目だ。落ち着かない。
今日、俺はまた、人を殺す。
一人目のあの少年は『違う』なんて言い訳もできる。
二人目と、三人目の男は、正当防衛とも、言えなくはないだろう。少なくとも、殺しに掛かって来たのは向こうからだった。
今回だって『脅迫されたから』という言い訳もできるかもしれない。
だが、違う。
今回は、俺も殺意を持っている。
「……行くか」
また延々と哲学じみた事で苦悩しつつ、身体に染み付いた準備を終えて家を出る。
『染み付いた』とは言いつつ、一つだけ、違う事がある。
カバンの底に忍ばせた凶器だ。
ただの包丁だが、ヒト一人を殺すだけなら必要十分だろう。
不思議と、挙動不審になったりはしていなかった。と思う。
信じられない事に、授業は普通にあった。
学校に着き、授業を適当に流す。
『昼休み』と指定してきたんだ。それまでは攻撃も無いだろう。
と、タカを括って。
そして昼休み。
「お、おい識知。お前どうした?顔色、変だぞ」
『変』て。そこは『悪い』というだろう、普通。
「そうかな……心配かけてごめん」
そういえば、コイツの名前何だっけ?
なんてことを、変に落ち着いた頭で考えつつ、近くにあった鏡を見る。
「……はは」
ああ。確かに変な顔色だ。
無意識に笑みを作りながら、学校の階段を上り、普段は厳重に施錠されている屋上への扉を開けて、高校生活初の屋上へ。
扉を開けた俺を出迎えたのは、
「はじめまして、識知くん。」
どこか見覚えのある、しかし決して会ったことの無い同年代の男だった。




