第4話「お兄ちゃんの心臓……もらいます」
――天原恵子。
残された私たちの目の前にあったもの。
構造の半分を分解され削り取られた塔屋。
爆発でそこら中が欠けているコンクリートの床。
ソニックブームでボロボロになった鉄柵。
連続した爆音と閃光に驚いた教員や生徒がグラウンドに続々と集まってきている。
ピーポー! ピーポー!と救急車のサイレン音も聞こえる。
もって三〇分、三〇分以内に消防隊が屋上に駆け込んでくるだろう。
そして……。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
由香に胸を貫かれたお兄ちゃんが地面に倒れ伏している。
意識はない。
大量の出血で手足は冷たくなってきてる。
受けた傷は完全な致命傷。
癒しの魔法でもお兄ちゃんを助けられない。
「お兄ちゃん、恵子だよ! 私帰ってきたんだよ、五年かかったけど帰ってきたんだよ」
目がかすむ、涙がボロボロあふれてみて前が見えない。
私は、お兄ちゃんの胸に頭を乗せてむせび泣く。
「クソッ! あいつなんでこんなことを」
ミ・ミカがくごもった声でポツリとつぶやく。
本当にそうだ、“お兄ちゃんは無関係”なはずなに、どうしてこんなひどい目に……。
「うがああ!」
私は泣きながらコンクリートの床に思い切り額を打ち付ける。
額の薄いところが切れて流れ出た血が顔を真っ赤に染める。
痛い――けど、痛みのショックで頭の中が一気に晴れ渡る。
「無関係なんかじゃない……お兄ちゃんは、天原衛は、クサリクのナビゲーター天原恵子の双子の兄だ」
「恵子の兄だから、あいつはお兄さんを狙ったっていうんですか?」
「他に考えられない。でも、あいつは何故お兄ちゃんを殺したの?」
お兄ちゃんが必要なら生かすべきだ、協力させるにしても、私を脅迫するにしても、生かしておかないと意味がない。
私は由香の顔と言動を思い出す。
思考を止めるな、取り乱せばお兄ちゃんを助けられなくなる。
由香はお兄ちゃんを殺す理由がない……殺してはいけない……心臓……一分……。
「そういう、ことか……」
由香の狙いに気づいた私は自分の左胸を手刀で貫いた。
「がはあッ!」
「恵子ッ!? 何してるんですか死んじゃだめです恵子!?」
『使い魔』という魔法がある。
他の生き物と契約して、術者の意のままに操れる奴隷にする魔法だ。
ニビルにも他者を使い魔にする魔法は伝わっていて、契約の方法は『術師と使い魔の心臓の交換』。
心臓の交換によって、術師と使い魔の魂を接続することで、術師は絶対命令権を獲得する。
「あいつ……お兄ちゃんを……使い魔に……する気……」
痛い、痛い、痛いッ!
胸を手刀で貫いた痛みは、額を割ったときとは比べ物にならない。
胸だけじゃなく頭のてっぺんから足先まで激しい痛みのシグナルを発している。
「こんな……麻酔無し……やるもんじゃ……ない……」
心臓を抉り出すために手を動かすだけで、今感じている痛みを遥かに超える衝撃が全身を駆け巡る。
気をしっかり持っていないと、瞬時に意識が飛んでしまいそうだ。
「恵子! 恵子! 無理しないで」
ミ・ミカも泣きながら悲鳴をあげている。
いい感じだ、甲高い彼女の声がいい気つけになる。
ガリゴリッ! 食いしばった奥歯が割れる音を聞きながら私は、自分の心臓をつかみだした。
「お兄ちゃんの心臓……もらいます」
お兄ちゃんには申しわけないけど、由香がうがった傷に左手を突っ込んでお兄ちゃんの心臓を抉り出す。
他人の心臓なら簡単に抉り出せる、その事実に頭がクラクラする。
右手に持った私の心臓をお兄ちゃんの胸の穴に押し込み、お兄ちゃんの心臓を私の胸に入れる。
「はあ、はあ、はあ……」
思わず膝をつく、血を失いすぎたせいで平衡感覚が保てなくなっている。
まだだ、あともう少し。
さあ……魔力をふり絞れッ!!




