第3話「あの女をぶち殺せッ!!」
――天原恵子。
私の目の前で兄さんが殺された……。
犯人は女。
凶器は右手。
理解の追い付かないこの状況で、最初に行動をしたのはミ・ミカだった。
「この、狼藉者がッ!!」
急降下、抜刀、斬撃。
身体に刻み付けた戦士の技を駆使して、最速で女を襲撃する。
「チッ!」
直前でミ・ミカの襲撃に気が付いた女は、お兄ちゃんの身体から右腕を引き抜いて大きく飛退いた。
判断がいい、動かずに迎撃すれば間違いなく腕を切り落とされていた。
右腕を切り落とすことは叶わなかったが、ミ・ミカの斬撃は女の右腕の肉をゴッソリとそぎ落とす。
「由香、ごめん。接近に気が付かなかったのだ」
フクロウが飛んできてミ・ミカをカギ爪で蹴りつける。
帽子が吹き飛ばされ彼女の角があらわになる。
ミ・ミカは、フクロウの蹴りを顔面で受け止めカウンターで切りつける。
カギ爪が“刺さらなかった”ことを利用して、フクロウはあえて吹き飛ばされ剣の運動エネルギーを受け流した。
「由香、こいつすごく硬いのだ」
「見ればわかりますよ、ムツキ。しくじりました心臓を取り損ねています」
直後、私も屋上に着陸して。
私とミ・ミカ、女とフクロウのペアは互いに相手をにらみつける。
「ウム・ダブルチュが地球に降りてるなんて話は聞いてません。貴方達は何者ですか?」
ミ・ミカがウム・ダブルチュと呼んだのは、ムツキと呼ばれたフクロウのことだ。
ウム・ダブルチュは、ニブルに住む知的生命体。
一見大きなフクロウのように見えるムツキは、フクロウではなくニブルに住む、人間と同じように会話し、意識を持つ者。
つまりフクロウの姿をした人だ。
「クサリクが地球に降りてきてるのに、ウム・ダブルチュはダメなんてルールないと思いますよ」
由香と呼ばれた女は角をさらしたミ・ミカにウインクを返しながら、傷つけられた腕を魔法で再生する。
「地球に送り込まれた精鋭だけあって強いですね。気に入りました、一分だけ遊んであげます」
由香が左手を掲げると、塔屋の一部が削り取られたように分解され、直後彼女の手に槍が再構成される。
「神器の召喚ッ! お前、アヌンナキなの!?」
周囲にある物質を分解して自分の求める武器に再構成するアヌンナキにだけ与えられたチート能力だ。
「一分……遊び……」
こいつなに言ってるの?
私は足元で倒れて大量の血を流しているお兄ちゃんに目を向ける。
お兄ちゃんが大怪我してる、もしかしたらもう死んじゃってるかもしれない。
なのに――。
私は左手を天に掲げて求める武器をイメージする。
背後にあった貯水タンクが分解され、私の左手に弓が再構成される。
直後、貯水タンクからあふれ出た大量の水が、屋上内に流れ込んだ。
「ミ・ミカ! あの女をぶち殺すッ!!」
「合点承知ッ!!」
ミ・ミカは両刀を振りかぶって由香に突撃する。
「簡単に近づけると思うな」
ムツキが口から火球を吐いてミ・ミカを迎撃する。
四発放たれた火球はミ・ミカの目の前で爆発し、轟音と衝撃が周囲を包み込む。
ダメージを与えられなくても、爆風で足を止められる算段だったかもしれないが、ミ・ミカは床を蹴って爆風の中心へ飛び込み、弾丸のような勢いで由香に突撃する。
「そう来なくては! ムツキ、彼女とは私が遊びます」
ミ・ミカの剣術は俗にいう達人クラスに達している。
彼女の年齢でそれは驚異的なことなのだが、驚くべきことに由香はミ・ミカと互角の技量を有していた。
身体能力を魔法で大幅に強化したミ・ミカの斬撃は音速を超えて、パン!と空気が爆ぜる音を鳴らしながら繰り出される。
その驚異的な斬撃に対して由香も音速を超える速度で槍を振るい打ち合わせる。
二人は周囲にソニックブームをまき散らしながら激しい打ち合いを展開する。
「ミ・ミカだっけ、貴方本当に硬いですね」
剣と槍の打ち合いなので、戦いの形勢は由香が有利。
試合ならミ・ミカは何回も一本を取られるような一撃を食らっている。
だけどミ・ミカは倒れない。
ミ・ミカは不器用な女の子だ。
彼女が使える魔法で実用レベルに達するものは、身体能力の強化と、飛行、触れたものを固くする硬化の三つだけ。
ただし、彼女の硬化はアヌンナキの繰り出す神器の攻撃すら防ぐほどの強度を持っている。
由香は仲間のムツキに手を出すなと言ったが、私はミ・ミカに任せっきりにしておくつもりは無い。
弓を引き絞る。
私の神器は弓、そして矢は魔法だ。
弓を引くと、白い光が矢の形となって矢つがえられる。
「私はこの手でお前をぶち殺すッ!」
『指向性光線』
背後で私が魔法を使おうとしているのを察したミ・ミカは、先ほどのムツキと同じようにあえて由香の槍を受け、敵の力を利用して距離を取る。
弓から閃光が放たれ夜空を一閃する。
私が放った魔法の一つは光。
わかりやすくいうと高出力のレーザー砲だ。
文字通り光速で迫る閃光を信じがたいことに由香は回避してみせた。
バケモノじみた反射神経、お世辞抜きで驚愕に値する。だが……。
「レーザーを三本、時間差をつけて扇状に放つ。なかなか性格が悪いですね」
複数に分けて放ったレーザーの一本がわき腹をかすめた。
高熱で皮膚を焼き切られ、由香は腹からボタボタと血を流している。
「違う次が本命なのだッ!?」
ムツキが悲鳴をあげながら由香の正面に躍り出る。
私は弓を引き絞り、次の魔法の用意を完了している。
今度は三本に拡散なんて生ぬるいことはやらない。
一本に収束した最大出力のレーザーであいつの頭をぶち抜いてやる。
私は由香めがけて必殺の一撃を放つ。
「やらせないのだ!!」
ムツキは屋上に貯まった水に身を浸すと、その身体を燃え上がらせた。
ボフ!!
ムツキの周囲から白い煙が立ち上り、直後屋上全体を巻き込む大爆発が起こった。
濃密な水蒸気が屋上全体を包み込み、一メートル先すら確認できない白い闇が訪れる。
「なんですかこれ!?」
「水蒸気爆発ッ!」
屋上に貯まった水が高温をまとったムツキに触れたことで、一度に大量の水蒸気が発生、急激に体積が増えた水が周囲の気体を押しのけることで疑似的な爆発が発生したのだ。
やられた、私のレーザーはこんな濃密な水蒸気の中では威力が激しく減衰してしまう。
白い煙が晴れたあと、ピンピンしているムツキと由香の姿が見えてくる。
「ミスったわ、高位の炎使いがいたようね」
ムツキと呼ばれる焼き鳥、アヌンナキに仕えているだけあってタダ者ではないらしい。
「一分経ちましたね――ムツキ、撤退しましょう」
「あいつのことはいいのか?」
「致し方ありません。あとは、弓使いさんにお願いしましょう」
由香は飛行魔法を使い、ムツキと共に宙に浮かび上がる。
「逃がすと思っているの!?」
「思ってますよ。そこに倒れてる天原君、ほっといてもいいんですか?」
「お前が言うな!」
由香が地面に倒れたお兄ちゃんを指さすのを見て、私は地面に転がっていたコンクリートの欠片を投げつけた。
由香はコンクリートの欠片をヒョイっとかわすと、空の彼方に飛び去ってしまった。
初めての戦闘シーンです。
作者の性格だと思うんですが、魔法の仕様がいちいち理屈っぽいです。




