第2話「ゲームなら手早く上達するには上級者の真似をするのが鉄板だけど」
――天原衛
期末テストが終わった俺達はその日のうちにトレーニングを再開していた。
やっていることは体育会系の部活ノリだが、メンドクサイ上下関係がないので行きたくないとかそういうネガティブな感情はあまりわかない。
世の中にいる多くのインドア派の人って、運動が嫌いなのではなく、部活特有の陰湿な上下関係や、集団行動を嫌っているのかもしれない。
いつも通り走り込みを中心とした体力トレーニングを終えた俺は、対人戦の練習として手加減モードの恵子やミ・ミカと組手をやる。
ちなみに筋肉を太くするより、肉体強化魔法の出力を上げる方がパワーの上り幅が大きいので柔軟体操はジックリやるが筋トレはしない。
「それじゃ、今日も組手行ってみましょう。私は攻撃せず受けだけやるので、お兄さんはガンガン殴ってきてください」
「お前殴ると手が痛くなるから嫌なんだよな」
ミ・ミカはプラズマ化した弾丸が頭に直撃してもかすり傷しか負わない『小柄なのにタンクビルドガール』だ。
殴っても俺が手を怪我するだけなので不毛極まりないのだが、手加減したら訓練の意味がないのもまた事実。
俺は恵子に教わった基本を守って、両足を開いて左手を突き出し敵にさらす上半身の面積を最小限にする構えを取る。
とりあえず左ジャブ。
拳を軽く握って弾くように放つ、俺が唯一まともに使える攻撃技だ。
顔面を狙って放った俺のパンチをミ・ミカはオーソドックスな上段受けで防御する。
顔面に当たってもダメージにはならないが、ただ無抵抗に殴られるだけでは訓練にならないのでミ・ミカは可能な限りパンチを受け。
俺が頑張って顔面に当てる。
それがこの組手のルールになっている。
左ジャブで牽制して右手で腰の入ったパンチを入れるのが、ボクシングの基本だが魔法戦の場合は右手で放つのもスピード重視のジャブだ。
腰の入ったパンチの方が威力はあるのだが、肉体強化魔法で脳の情報処理速度を強化すると、ストレートもフックもモーションが見え見えのテレフォンパンチになってしまう。
俺も最近ようやく脳ミソに魔力を流すコツをつかんだのだが、動体視力を強化すると物の動くスピードがビデオのスロー再生のように遅く見えるようになる。
別に時間を操る能力を得たわけではないが、ノリとしては〇ロッ〇アップや恐〇惑星のタイム〇ースターと同じだ。
ミ・ミカが岡田さんの銃弾を楽々切り払えた理由も今なら理解できる。
俺の何倍も強力な動体視力を持つミ・ミカなら、拳銃や散弾銃の弾はそれこそ止まって見えるだろう。
「まだまだですね、出来れば攻撃は上下に散らすことをおススメします」
ジャブ、ジャブ、ジャブと俺が繰り出した攻撃は全てミ・ミカにカットされる。
「まだ蹴りの打ち方は練習中なんだよ」
試しにミ・ミカの足元にローキックを放ってみたが、俺自身ですら凹みそうになるヘボイ蹴りをミ・ミカはヒョイっとバックステップで回避してしまった。
「パンチで顔面だけでなくボディも狙うとかやりましょうよ」
「お前の場合腹筋も割れてるし硬いじゃないか」
俺はそう言いながら右のジャブでわき腹を狙ってみるが、ミ・ミカは肘の撃ち下ろしで防がれてしまう。
「頑張ってください、一発くらい当てましょう」
「その上から目線はウザいんだよ」
俺はパンチを顔面とわき腹に散らすことを意識しつつ、可能な限り回転をあげる。
筋力だけではだめだ、脳にも、神経にも魔力を入れて速く、速く、速く――。
そんな全開機動をどのくらい続けただろう、体感では10分位、脳の情報処理速度が上がっているので実際には3分もたなかったかもしれない。
「もう……げんかい……」
運動負荷に呼吸が追い付かなくなり、俺はその場に崩れ落ちた。
ちなみに目標だった顔面へのクリーンヒットはゼロだ。
「最後の動きは良かったですよ」
「そうか~」
「スピードが目に見えて上がっていましたからね、当面は常時あの出力で動くのを目指しましょう」
あれを常時かキツイなあ。
「あれで常時動けるようになればアナンガ王国でもモヤシとか言われなくなると思うわ」
「それって、兵士と比べてモヤシじゃないよな?」
「うん、最後の動きが成人男性の平均くらい」
「非戦闘員でもバケモノレベルじゃないかッ!」
恵子の言葉を意訳するとニビルの成人男性は、みんなプロスポーツ選手並みの身体能力がある事になる。
「ニビルは車も重機もないから体力無いと仕事にならないのよ、それに多少体力があっても銃で撃たれて死ぬ人は戦力としてカウントできないでしょ」
「ニビルの一般人が自衛隊の武器持ったら、人類を圧倒できる気がするのですが?」
「鹵獲した武器の使い方や、集団で動くタイミングを訓練しないと意味ないですよ。戦争で重要なのは個人の能力より集団で足並みそろえることです」
仮想敵をライフルやボディアーマーを装備した自衛隊の兵士と考えた場合、アスリート級の身体能力があっても丸腰じゃ戦力にならないという恵子の考え方は理にかなっている。
戦士として訓練を受けた人間じゃないと戦力として当てにならないのはミ・ミカも同じ考えらしい。
「ちなみに俺は戦力としてどうなんだ?」
「戦いを私達に任せて知恵を出してくれた方が一〇〇倍くらい役に立つわね」
やっぱりか。
そもそも、恵子が戦力として当てにするのは超音速で飛べる魔法使い限定になりそうだから一生無理な気がする。
「でも、三か月でここまで動けるようになれば大したものですよ。もうワンランク力をあげたらニビルでも戦士として認められるようになります」
「ここからが大変なんだけどな」
ゲームでもスポーツでも、初診者からヘタクソにレベルアップするのは短時間でスイスイ上達する。
軽い気持ちでヘタクソとして楽しむのも手だが、ヘタクソから人並みへレベルアップするには高くて分厚い壁が立ちはだかっている。
「ゲームなら手早く上達するには上級者の真似をするのが鉄板だけど、魔法はそんなわけにはいかないか」
「真似か……」
恵子が人差し指を顎にあててなにやら考えはじめる。
その様子に、俺ははっきりと嫌なものを感じった。
「お兄ちゃん、上級者の真似やってみましょう。当然、マネするのは師匠である私ね」




