第38話「恵子、いまムツキが言った11の怪物ってなんだ?」
――天原衛
「そういえば、由香さんが私もアヌンナキだと言っていましたが、どういうことか教えてもらえませんか?」
飲むお酒をビールから焼酎に切り替えたサクラさんが思い出したように口を開く。
彼女の隣で岡田さんが召使いみたいに、セッセとお代わりの焼酎を用意している姿に俺は社会の厳しさの一端を見た。
「サクラさんがやった翼の召喚が、私達の神器召喚能力とそっくりなので、私達と同じアヌンナキなのではないかと予想したんです。二百歳を超えてもお年を全く召していないようですし、赤い石を身体に入れられた経験ありませんか」
それから、恵子と由香は、ニビルの創造神ティアマトに身体を改造された不老不死の超生命体アヌンナキであることを説明する。
改造といってもやり方は割と簡単で、コアとなる『赤い石』と呼ばれる物質を身体の中に入れたら石が自動で身体を改造してくれるらしい。
「ティアマト曰く、赤い石を身体から抜き取られない限り私達は不死身らしいわ」
「そんなものが……では、私の村に伝わっていた秘宝が『赤い石』だったんでしょうね」
サクラさんは、自分のお腹を触って赤い石の存在を確かめる。
「皆さんも知ってると思いますが、私の生まれ故郷はこの今富村なんです。明治半ばまで、デウスを信仰する魔法使いの隠れ里だったのですが、二〇〇年ほど前にトラブルが起こってしまったんですわ」
天草の郷土史で『天草崩れ』と呼ばれ記録に残されている事件がある。
当時、天草下島に住む住民一〇〇〇〇人のうち五〇〇〇人余りが切支丹であることが判明した、江戸時代最大の隠れキリシタン摘発事件である。
「当時、切支丹信者は死罪だと法律で決まっていたのですが、きちんと年貢を納めている農民を死罪にするのはお役人様も嫌だったんでしょうね。切支丹を棄教して法具を提出すれば不問にするというお触れが出たんです」
「で、どうしたの?」
「村人全員が、棄教を宣言して、法具を提出しましたよ。私の両親は村の庄屋だったので『悔しいけど命あっての物種だから』と言って皆さんを説得して回っていました。大半の法具は手作りなので提出しておしまいなのですが、庄屋の家にはデウスの血が固まって出来たと由来を持つ『神の石』を受け継いでいたんです」
「まさかそれ!?」
「恵子さんや、由香さんの身体を改造した『赤い石』でしょうね。私、それをお役人に渡したくなくて飲み込んじゃったんです」
「それでアヌンナキになったのか」
「当時は私も若かったんです。自分が人間じゃないと実感したのは、それから二〇年くらい経ったあとでしたわ」
十代の娘が二〇年以上全く歳をとらなければ、さすがに異常であることが判る。
「シンミリした顔しないでください。不幸になった人は誰もいない、これは笑い話ですわ」
「なんで赤い石が地球の田舎にあったのだ?」
ムツキがコクンと九十度首を傾ける。
彼女の疑問はもっともだ。
恵子は『赤い石』はティアマトが作ったものだと言っていたが、サクラさんが石を飲み込んだのは二〇〇年前。
ニビルと地球が空間転移魔法で行き来できるようになったのは、ここ一〇年くらいの話だと聞いているのでティアマトですら『赤い石』を地球に持ち込むことは出来ない。
「もし、ご先祖様を導いたナビゲーターの『赤い石』が時代と場所を超えて受け継がれていたなら、ロマンありますよね」
ミ・ミカが何気なく発した言葉に全員がギョッとした顔になる。
「ミ・ミカそれだよ、状況証拠的にそれ以外考えられない」
「え、ええっつ!?」
「五千年前にシュメール人を先導したナビゲーターが殺されて、その時に抜き取られた赤い石が時代と場所を超えて受け継がれたんでしょうね」
五千年ものタイムスパンだ、途中でアヌンナキが殺されるような事態があっても不思議じゃない。
「五千年前とかシュメール人とか、どういうことかしら? その話、私は何も聞いていないですわ」
そりゃそうだ、俺だって言ってない。
そもそも、五千年前に地球に来たクサリクがシュメール人の正体なんて話、今回の移民計画には関係ないことだと思っていた。
「えっと、ここに居るミ・ミカがニビルに住むクサリクっていう知的生命体だってことは説明したと思うんですが、彼女のご先祖様が五千年前にも地球に移民してたみたいなんです。それが古代メソポタミア文明を作ったシュメール人の正体なんじゃないかなと」
「宇宙人説のあるシュメール人が、実は異世界人だったと言うんだな」
岡田さんが確認するように放った言葉に俺は無言でコクコクと頷く。
「ニビルと地球は、五千年周期で百年だけ空間転移魔法で行き来できる期間があるんです。ティアマトはニビルの生命体を進化させるために、そのタイミングで地球と生き物を交換すると言われています」
「スケールの大きいこと考えるのね、そのティアマトさんは何者なの?」
「ティアマトはニビルの創造神なのだ。クサリク、ウム・ダブルチュを含む”11の怪物”を創造したのがティアマトなのだ」
ん、今変なムツキが変なこと言わなかったか?
彼女が言った”11の怪物”という単語は、俺も聞いたことのない言葉だ。
「恵子、いまムツキが言った”11の怪物”ってなんだ?」
「ニビルに住んでる11種類の知的生命体の総称よ。あれ? 言ってなかったっけ」
俺がゆっくりと振り向くと、ギギギと機械のように頭を動かすサクラさんと目が合った。
アイコンタクト、グットコミュニケーション。
俺と、サクラさんは、どうやら同じことを想像したに違いない。
「衛君、貴方達にさっそくお仕事をお願いしてもいいかしら?」
「なっ、なんですか」
聞き返したものの正直答えは聞きたくない。
サクラさんの頼み事はだいたい予想がつく。
「貴方達にニビルの現地調査をお願いします。異世界ニビルに行って、他の知的生命体の動向を調べて欲しいですわ」
やっぱそうなるよねって感じだ。
今回は地球人によく似たクサリクだけでなく、ウム・ダブルチュも移民を計画している。
あくまで想像だが、最悪ニビルに住む11の怪物全てが移民を計画している可能性がある。
「いいじゃない、一度本国に行って協力者を得たことを報告したいし、夏休みにみんなでニビルに行きましょう」
とんでもない大仕事が舞い込んできたことを実感して俺はガックリとうなだれるのであった。
これにて本作「異世界帰りの妹は世界を変革するつもりです」の第一章完結です。
これから、衛達は異世界ニビルに旅立ちます。




