第36話「ちょっとばかり、本気で行きますわ」
――天原恵子
顔を燃やされたサクラが墜落していく。
この程度で死ぬたまじゃないと思うけど、さすがに戦闘の継続は出来ないだろう。
「しかし、ムツキの奴、恐ろしい魔法使うわね」
ムツキは、自分の指定した場所を自由に燃やすことが出来るらしい。
指定する場所は目視で確認が必要だし、射程距離に制限はあるみたいだが、初見での回避は不可能に近い。
「ざまあみろってやつなのだ」
ムツキがクチバシをカチカチと打ち鳴らして勝鬨をあげる。
四対一で戦っての勝利なので、褒められた結果ではないがサクラにギャフンを言わせることは出来た。
『神よ、私に清貧を誓います』
『神よ、私に従順を誓います』
地面に落ちる直前、サクラは二つの聖句を唱える。
直後、彼女の周囲にある地面の土が消滅――いや、分解・再構成され修道服の中から、二対四枚の翼が出現する。
「あれは神器の召喚!?」
「まさかまさか、サクラさん、アヌンナキでしたか」
他ならぬ私と由香なら理解できる。
あの翼は間違いなく、アヌンナキの神器だ。
「モード・セラフ」
肌が泡立つ。
サクラの背中にある三対六枚の翼から、今まで感じたこともないような爆発的な魔力が吹き上がる。
「ちょっとばかり、本気で行きますわ」
パアアアン!! と甲高い音が鳴り引き、サクラの周囲に水蒸気と、猛烈な衝撃波が吹き荒れる。
彼女の飛行速度が音速を超えたことでソニックブームとマッハコーンが同時に発生したのだ。
「馬鹿げてる」
立ち上がりの加速で音速突破なんて、あの翼どんだけ推力出せるのよ。
衝撃波で寺院の屋根が吹き飛んでいるけど、そっちは見なかったことにしておこう。
「ちょ、お兄さん危なくないですか?」
「お兄ちゃんのバイタルは確認してる。それより敵に集中ッ!」
ロケットみたいな勢いで突っ込んでくるサクラに、ミ・ミカが突っ込んでいく。
「ちょっと、無謀よッ!」
「それでも、私は恵子の盾です!」
ミ・ミカはサクラ正面から激突するが、サクラの持つ圧倒的な運動エネルギーに押し負けて明後日の方向に吹き飛ばされる。
だが、ミ・ミカが時間を稼いでくれたおかげで、私、由香、ムツキの三人は十分な飛行速度を稼ぐことが出来た。
私は速度を落とさないよう気を使いながら、弓を引き絞りレーザーを連射する。
低出力でいい、とにかく連射だ。
サクラの修道服はレーザーと相性が悪いが、超音速で飛行する相手でも光速のレーザーなら命中が見込める。
一回当てれば鎧を剥ぎ取れるし、同じ場所に当たればダメージになる。
「あんたの鎧、全部剝ぎ取ってやる!」
「たとえ光速でもそうそう当たるものではないですわ」
サクラはまるでUFOのように直角に曲がる急旋回を連続しながら私を追ってくる。
「それは、いくらな何でもズルいわよ」
私は速度を落とさないよう直線飛行を維持しないといけないのに、サクラは停止も急旋回をしても全く速度が落ちない、正確には失速しても翼の大推力ですぐにリカバリーが出来る。
あんなグチャグチャな飛び方をされたら、たとえ光速のレーザーでもまず当たらないじゃない。
「あと、回避運動をしながらでも私の方が速いわよ」
やばい、追い付かれた。
ミ・ミカが勝てない相手に私が接近戦で勝てるはずがない。
「ドッカンなのだ!」
全身に炎まとったムツキが、右側からサクラに蹴りを入れる。
顔を狙ったカギ爪の一撃をサクラは翼を盾にしてガードするが、ムツキが時間を作ってくれたおかげで私は接近戦の間合いから逃げ延びる。
「こいつの相手は、ムツキがするのだ。お前はとにかくレーザーで牽制し続けるのだ」
ムツキは全身に炎まとい、サクラに接近戦を仕掛けた。
「ムツキは強いですよ、ハッキリ言って私や恵子さんより強いです」
由香の言う通り、ムツキは強かった。
サクラのように圧倒的な推力もパワーも持っていないが、体格が小柄なせいで立ち上がりの加速は私や由香より全然早いし、低速での回避運動がおそろしく上手い。
だが問題もある、ムツキは体格が小さいが故にぶつかり合いで勝つことが出来ない。
「私と由香は、接近戦でムツキを援護するので、恵子は牽制お願いします」
ようやく戦線に復帰したミ・ミカが、由香と共にサクラに突撃していく。
「なんなのこいつ」
三対一で互角どころか、ムツキも含めた四対一で押されている。
悪い夢でも見ている気分だ。
槍でサクラの翼と打ち合いをしていた由香が、右足を刈られ体勢を崩したところで別の翼に痛打され戦線を離脱する。
もう何度も見た光景だ。
ミ・ミカ、由香は接近戦を仕掛ける、打ち負けて戦線離脱する、他の三人が時間を稼いでいる間に復帰というのを何度も繰り返している。
私はレーザーで牽制射撃を続けているが、サクラが速すぎて全く当たらない。
全員落とされずに済んでいるのはムツキが高度な飛行技術でサクラを抑え込んでいるおかげだ。
「もう降参してもいいんですよ」
「ふざけるなッ! 一撃入れたら私達の勝ちよ」
サクラは仲間のバックアップがないので、一度でも体勢を崩せば集中攻撃で一気に倒せる筈だ。
だけど、その隙が作れない。
「なら一気に勝負を決めましょう」
そう呟くとサクラは空中で静止した。
『勝機!』
ミ・ミカ、由香、ムツキの攻撃が同時にサクラをとらえるが――全ての攻撃を読んでいたサクラは全ての攻撃を翼で受け止める。
不味い、三人の動きが同時に止まった。
「いただきですわ」
サクラは三人を置き去りにして全力で加速する。
狙いは、私だ!?
「だって、あなたが一番落としやすいじゃない」
推力で負けている以上、直線飛行をされたら私はサクラから逃げきれない。
レーザーで迎撃することすら間に合わず、サクラの右手が私の喉に絡みつく。
「がっ、はぁぁぁ!」
「怪我はすぐ治せるみたいだけど締め落とされたらどうなるかしら」
まずい、まずい、まずい。
窒息で意識を失ったら復帰するまで人並に時間がかかってしまう。
「少しは身の程をわかったでしょう。星野山連合で見どころがあるのは衛君だけですわ。貴方は喧嘩が強いだけのオマケだと知っておくべきですわ」
「そ、ん……」
そんなことは、言われるまでもない。
ニビル、アヌンナキ、不老不死の生命体――そんなものなくたって、お兄ちゃんが、天原衛はすごいのは世界中の誰より私が知っている。
でも、でも、私はお兄ちゃんに少しくらいカッコいいところ見せたいんだッ!!
あと数秒で意識が落ちる。
どうする?
いまの私に何が出来る?
迷うな!
今出来ることをするんだ!
私は左手の拳を握る。
私に与えられた魔法の力は、光と回復……そして生命体への魔法行使だ。
『肉体強化限界超過ッ!!』
私は、全ての力を振り絞ってサクラに拳を叩き込んだ。
戦闘シーン書くの難しいですね。プロレスみたいに敵の見せ場と、主人公の逆転劇を描きべきなのですがなかなか組み立てが思いつかないです。




