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異世界帰りの妹は世界を変革するつもりです  作者: 戒
第一章 アヌンナキがやってきた
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第34話「衛君、移民計画って中止に出来ないの?」

――天原衛


 聖堂の椅子に腰かけ、俺達はサクラさんにニビルの事情について相談することにした。

 一通りの自己紹介が終わったあと、サクラさんがいきなり切り込んでくる。


「貴方達は中学生だから考えたことなかったと思うけど、今後のことを考えると代表者を決めた方がいいと思いますわ。私は気にしませんが、もっと別の大人と話をする機会が必ず来るでしょう」

「代表者って、要はリーダーってことだよな」


 俺は相談するために恵子達の方に振り向く。

 順当に考えれば、恵子か由香、ナビゲーターに任じられている二人のどちらかリーダーをやるのが相応しい。


「お兄ちゃんで」

「お兄さんですね」

「リーダーは衛さんでいいと思います」

「衛なのだ」


 相談する間もなく、四人は名指しで俺をリーダーに指名してくる。

 恵子は、ともかく他の三人も口をそろえているから意味がわからない。


「ちょっと待て、俺はニビルに行ったこともない部外者だし、魔法の力をみんなに比べたらカスみたいなもんだぞ。みんなを率いるなんて、ムリムリ」


 その場にいる全員が沈黙し、静かな時が数秒流れる。

 ていうか、『お前なに言ってるんだ?』みたいな視線で見るのやめて欲しい。


「魔法の力とかリーダーの資質に全く関係ないです。そもそも、この二ヶ月間、私達のリーダーは衛さんだったじゃないですか」


 最初からリーダーはお前だったと言われてもピンと来ない。

 俺がやったことなんで、状況に応じて皆の話を聞きながら自分の意見を言っただけだぞ。


「ふうん……岡田君はどう思う?」

「彼の話が一番判りやすいです」

「決まりですね。では、第一回の天草教と――衛君即席でいいから組織の名前を考えてくれませんか」

「俺達五人の組織名ですか、要ります?」


 内輪の作戦会議の延長くらいにしか思っていなかったので、組織名と言われてピンと来ない。


「会話を録音して議事録を残します。失言になる部分は残さないので、貴方達もスマホがあるなら会話を録音することをおススメしますわ」


 つかつかと由香が近づいてきて、俺のそばに来てボイスレコーダー置く。

 そういえば、あいつ岡田さんにボイスレコーダーやら、タブレットやら買ってくれってねだっていたな。

 しかし、組織名ですか……なかなか難しい、ニビル連合だと恵子達はニビル全体の代表じゃないから的外れだし、アナンガ王国だと由香達が蚊帳の外だし、俺達全員に共通することがあるとすれば。


「じゃあ、組織名は星野山連合で」


 一応確認を取ったが全員の賛同を得ることが出来た。

 それに、都合が悪くなれば、名前を変えればいいだけの話だ。


「それでは、第一回 星野山連合と天草教の会合を始めましょう。とりあえず、貴方達の抱えている事情を聞かせてもらってもいいかしら?」


 俺は、異世界ニビルの話。

 クサリクとウム・ダブルチュの移民計画の話。

 恵子と由香が、移民を先導するナビゲーターとして選ばれた話をサクラさんに話して聞かせる。

 サクラさんも最初はニコニコしていたのだが、移民計画の話を聞くと表情が曇り始め、ニブル側が最悪侵略戦争を仕掛ける可能性がある事を告げると水揚げされたイカみたいに机に身体を突っ伏して動かなくなってしまった。


「だっ、大主教様?」


 岡田さんも最初は教師面していたサクラさんが思いっきり醜態をさらしていることに動揺を隠せない。


「岡田君、衛君が言ったことってマジなの?」

「彼が嘘をつく理由は無いと思います」

「ですよねえ~。衛君、移民計画って中止に出来ないの? 異世界人が八万人も地球に来るなんて、地球人にとっては超迷惑だと思いませんか」

「無理だと思います。私達の国『アナンガ王国』っていうんですが、故郷では国ぐるみで移民を計画してるので、私達が居なくなったら統制なく乗り込んでくると思います」

「『蒼羽の森』でも、ニビル中に声をかけて地球に行きたいって奴を集めてるのだ」


 地球のどこに行くかによるが、移民団が統制なく地球に降りて現地民を追い払ったら間違いなくイスラエルみたいに禍根を将来に残すことになる。


「だから動画配信を使って魔法の力を世の中に広めたうえで、ニブルの民を移民として受け入れてくれる国を探そうと思ったんですよ」

「それは平和的でいい方法ですね。単純に人数だけなら町一つで収容できるレベルだし、受け入れてもいいって国が出てくれば混乱は最小限で済みますわ。その作戦は誰が考えたのかしら?」

「お兄ちゃんよ」

「なら、天草教を代表して御礼を言わせてください。貴方が居なかったら、恵子さん達は魔王候補になってましたわ」


 サクラさんは、急に立ち上がって深々とお辞儀してくる。


「危なっかしいなとは思ったけど、そんなに?」

「そんなにです。衛くん、映画は好きですか?」

「それなりに、小説のネタ探しに見るくらいかな」

「トランスフォーマーの実写版面白いから見てくださいな。ニビルの方が地球人に戦いを仕掛けたらディセプティコンが暴れるより被害が大きくなると思います」


 その映画は知っていた、毎回クライマックスのシーンで町がメチャクチャに破壊される奴だ。

 地球側にオートボットは居ないので、サクラさんが言う通り映画よりひどい有様が十分にありえる。


「衛君が考えた動画で魔法使いの存在を世界中に広めるのは、平和的でとてもいいと思いますが問題は二つありますね」


 サクラさんがいう問題点とは以下の二つだ。

 ①魔法を世間に広めることが今、地球にいる魔王候補を刺激すること。

 ②世界中に居る他の魔法使いが魔法を広めることを嫌がる可能性が高いこと。


「意外ですね、キリスト教って組織の伝統にこだわると思っていました」


 由香のいう通り、サクラさんは魔法の秘密を守るという作戦にはあまりこだわっていないように見える。

 仮にも何百年も守ってきた伝統を破壊しようとしているのに意外な反応だ。


「伝統にこだわるイメージはカトリックの影響が大きいわね。ニビルからの移民が来るのって、宇宙人がやってくるのと変わらないじゃない。そんなビックインパクト相手じゃ伝統なんて紙切れみたいなものですわ」

「でも、既得権益を持った魔法使いからの反発は必至です。信徒から離反者が出る可能性もあると思います」

「悪しき魔法使いならともかく、天草教の人って悪いことしないんでしょ。逃げ隠れする必要ないじゃない」

「魔法使いが迫害されるケースもある。地球にいる魔法使い全員が君たちみたいなバケモノじゃないんだ」


 中世ヨーロッパでは魔法使いが迫害の対象になっていた。

 魔法使いは、基本的に一般人より強いが多数の兵士に袋叩きにされたら普通に殺されてしまう。

 他にも周囲の人に怖がられるのがイヤとか、一般人の妻子がいるとか、魔法使いであることを隠す理由は人によって違うと岡田さんが教えてくれる。


「ちなみに岡田君はどうなの? まだ魔法を世間に広めることに反対かな」

「俺は魔法の存在を世間に広めてニビルの民に備えるべきだと思います。伝統にこだわるのは無駄だと、そこのミ・ミカさんに思い知らされました」

「わっ、わたしですか!?」


 自分の名前を出されてミ・ミカが露骨に動揺する。

 いや、お前さんは今朝、俺の目の前で岡田さんを一蹴したじゃないか。


「で、結局どうするの。あんたらは協力するの、しないの?」


 議論が煮詰まったところで気の短い恵子が、サクラさんに詰め寄っていく。


「結論を急ぐ娘は嫌われるわよ。今日のところは、いま聞いた話を他の信者にも周知して一通り意見を聞いてから次の策を考えるのが無難ですね。あくまで可能性だけど、天草教が魔法を世間に広める活動に協力したら、魔法使いによる犯罪の増加と、私達の戦力低下が同時に起こって屋台骨が揺らぎかねませんわ」

「まだるっこしいわね」

「多くの人が関わる決め事は、決定まで時間がかかるものです」

「ニビルからの移民に備える必要があったとしても、今世界中に居る悪しき魔法使いを野放しするわけにはいかんのだ」


 天草教は世界中の悪しき魔法使いに刺客を送ることで魔法犯罪の取り締まりをしている。

 手は全く足りていないので効果は牽制程度らしいが、天草教が弱体化したと噂が流れたら世界中で行方不明者や正体不明の遺体が爆増する可能性があるという。


「日本の警察みたいに大量の予算と人を確保できればいいけど、私達は戦力が少ないので悪いことをしたら天草教の魔法使いが殺しに来るかもしれないって思わせる、イメージ戦略が重要なんですわ」

「イメージ戦略ねえ……なあ、クサリクから来た移民団が全員、天草教の魔法使いになったら世界中の悪しき魔法使いはビビルと思うか?」


 俺は頭の中で思い浮かんだことを口に出してみる。

 ここは交渉の場だ、使えない案はダメ出しされて消えるだけだろう。


「どのくらいの戦力が増えるかによりますね。三万人来るといっても全員が兵士じゃないのでしょう」

「兵士は移民団のうち二割くらいだから六〇〇〇人くらいですね。ちなみに兵士の平均的な実力は岡田さんと同じくらいだと思います」

「岡田君が六〇〇〇人か、全員手伝ってくれたら戦力倍増程度の話じゃないわね。きっと世界中の悪しき魔法使いが震えあがりますわ」


 岡田さんが六〇〇〇人か、改めて聞かされるとスゴイ数だ。

 敵が自衛隊とかなら普通に勝てると思うし、日本に戦争を仕掛けても北海道の一部領土を占領するのは可能だと思う。


「もし実現すれば、魔法を世間に広めることで天草教が受けるダメージを帳消しにするどころか大幅なプラス出来ないか」

「出来ますね」


 この話は、移民団にとっても悪い話じゃない。

 移民団を自分達の仲間として取り込むために、天草教とサクラさんは日本で移民として認められるよう協力する必要が出てくる。


「待ってください! 移民団の兵士全員が天草教の活動に協力することが条件なら、さすがにニビルへ行って許可取る必要が出てきます」


 俺とサクラさんがポンポン話を進めると、慌ててミ・ミカがストップをかける。


「まあ、そうだろうなあ」


 先ほど、サクラさんが言ったように『多くの人が関わる決め事は、決定まで時間がかかる』。


「なら、恵子、ミ・ミカ、由香、ムツキの四人が天草教の仕事を手伝うのはどうだ?」


 極少人数で今すぐ意思確認が出来るなら話は変わってくる。


「まあ、いいんじゃない」

「私もいいと思います。強くなるためには実戦経験も必要なので」

「ちなみに手伝いって強制じゃないですよね。一応、学校もあるので配慮していただきたいのですが」

「天草教の任務は、基本的に報酬型なので由香さんの心配はクリアしてるはずだ」


 報酬型というのは組織所属して毎月給料をもらうのではなく、組織が提示した任務をクリアして報酬をもらう形式、要するにフリーランスのことだ。


「由香がOKするなら私は問題ないのだ」


 ムツキの賛同がすると、サクラさんがスクっと立ち上がった。


「恵子さん達が天草教の任務を手伝う代わりに、天草教は魔法の存在を世間に広める手伝いをする。この条件で問題ないですか?」

「そうしてくれたらありがたいけど……」

「一つだけ条件を付けます。彼女達の力を私が直接確かめたいのです」

「確かめるって、貴女が私と戦うっていうの?」

「私が恵子さんと戦うというのは正確な表現ではありませんね。――神よ」


 サクラさんは聖句を口にすると同時に周囲の魔力を自分の身体に取り込んだ。


「おいおいおい!?」


 俺は反射的に立ち上がり全力で距離を取った。

 この人、扱える魔力の量が恵子より遥かに大きい。


「私、こう見えて二〇〇歳越えのおばあちゃんなんです。四人まとめてかかってきなさい、そうじゃないとお話にもなりませんわ」

今回は長くなりました。会話劇は長くなりがちかな

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