第29話「それは残念です。私は、恵子さんのこと好きですよ」
――天原衛
「だーかーらー、トラブルがあったら連絡してくださいって言ったじゃないですか。自分が呑気に過ごしてる間に友達が事件に巻き込まれたって、あとから聞かされるのって最悪じゃないですか」
「そうなのだ、私達をハブにするのはヒドイのだ」
誘拐騒動を事後報告で聞かされた中島由香とムツキが、不機嫌そうな顔で俺に詰め寄って来る。
「いや、誘拐されてたの俺だから、連絡とか無理だから」
俺がそう答えると、由香は恵子方に振り向き黒い瞳をじっと見合わせた。
「私、あなたのこと嫌いだし、友達だと思ってないから」
恵子は由香から視線を逸らすと不機嫌そうな顔でプイっとそっぽを向いた。
彼女の中では由香が俺を傷つけたことをまだ消化出来ていないらしい。
「それは残念です。私は、恵子さんのこと好きですよ」
由香が満面の笑顔で好意を伝えると、恵子の顔はますます不機嫌になった。
廃工場からバタバタと逃げ帰った俺達は、由香に状況を伝え家に来てもらった。
彼女達は協力者だし、大事な相談をするなら意見を聞いておきたかった。
「あと、学校には集団食中毒ですって連絡しておきました。後日先生から聞かれると思うので適当に話を合わせといてください」
「集団食中毒ってけっこう大事だな」
中学生四人が食中毒って新聞に記事が載るレベルの事件じゃないか。
「『衛さんを誘拐した魔法使いを捕獲したので尋問します』よりは説得力あると思いますよ」
「改めて聞くと欠席の理由が頭おかしいな」
自分の置かれている状況が、日常とはかけ離れたものだと嫌でも思い知らされる。
俺を誘拐した岡田は、彼が持っていた手錠で両腕を拘束した上で恵子が魔法で眠らせている。
「この人、持ち物のチョイスがすごいですね。足の着きそうなものは何も持っていません」
岡田を拘束したあと持ち物を探ってみると、現金だけ入った財布、手錠、銃身を切り詰めた散弾銃とその弾薬、ナイフ、外国製のプリペイド式のスマートフォン、車のキー、以上である。
「散弾銃は多分密造品だな、日本では銃身切り詰めるのは違法だから店では買えない」
調べたところ、登録銃は毎年警察の検査が入るらしいので、こんなの見つかったら一発アウトだ。
「車はどうですか? 多分、廃工場の近くに停めてあると思うけど見に行けませんか」
「無理無理。廃工場は、いま警察に加えて自衛隊も来てるからな」
テレビを付けると、緊急ニュースが放送されていて、レポーターがミサイル攻撃を受けた可能性があると強い口調で連呼していた。
どうやら、ミ・ミカが廃工場に突入する瞬間が防犯カメラに映っていたらしく、ミサイルだ、長距離ロケット砲だと大騒ぎになっていた。
「これはスゴイですね、私もミサイルにしか見えないですよ」
「というわけで、今は廃工場に近づかない方が無難だ」
「私の突入マズかったですかね」
自分の行動がテレビで大々的に取り上げられているのを見て、ミ・ミカは泣きそうな顔になる。
「あの場では、全力で突っ込むのが正解でしょ。お兄ちゃん救出して、犯人も生きたまま捕まえたんだから誰がなんと言おうが大手柄よ」
恵子は、ミ・ミカを労うように彼女の頭をクシャクシャっと撫でまわす。
俺もコクコクと無言でうなずいて同意する。
今回は本当にミ・ミカに助けられたと思う。
「ところで、なんでこいつはお兄ちゃんを誘拐したのかしら?」
「それ、触りだけ話聞いたんだけど、地球の魔法使いは、魔法使えるのが隠すの常識みたいなんだよ。だから、俺達が『魔法でやってみたシリーズ』の動画を投稿して魔法の存在を見せびらかしたのが気に入らなかったみたいだ」
「それで垢BAN&誘拐ですか、対応がヒステリックでバカみたいですね」
「動画消したのはミスだって認めてた。この男は、監視しつつ放置で行こうとしてたみたいだぞ」
ツイの炎上騒ぎに焦って誘拐なんて手段を取ったのが運の尽きって奴だ。
岡田は、自分が恵子やミ・ミカのようなバケモノ・ザ・バケモノを敵に回したとは夢にも思っていなかっただろう。
「状況は判ったので、そろそろこの人、起こしませんか? 話聞かないと進展無さそうですし」
「大丈夫かあ? 魔法使いは手足を拘束しても意識があれば抵抗できるぞ」
ムツキは岡田が魔法使いであることを理由に起こすことに難色を示す。
「大丈夫だろ、このメンツで囲んでるんだから抵抗しても無駄だし」
ニビルで信仰の対象にもなっている超生命体アヌンナキが二人。
アヌンナキと互角の戦闘力を持つミ・ミカ。
俺は戦ってるところを見たことないが、ムツキも同等の戦闘力を持ってるらしいので、岡田が抵抗してもどうにもならないと思う。
「じゃあ、犯人を起こすわよ。抵抗するかもしれないから、一応みんな気を付けてね」
恵子は岡田の頭に手を置いて小さな声でつぶやく。
『覚醒』




