第28話「試合ならあなたの勝ちでした」
――天原衛
ギュオォォォォォ……ドガ!!
皆さんは自衛隊の航空ショーを見たことがあるでしょうか。
展示飛行するとき、高速で飛行する戦闘機と空気がぶつかって激しい風切り音がします。
皆さんは陸上自衛隊の総合火力演習を見たことがあるでしょうか。
砲弾が落下した着弾地点には、鋭い爆音が鳴り響いたあと爆炎が舞い上がります。
「なっ、なんぞこれ?」
指示に従って壁際まで逃げていたにも関わらず、着地の衝撃は俺の元まで届き、全身が一瞬壁に押し付けられたあとバランスを崩して椅子ごと真横に倒れこんだ。
部屋が爆煙に包まれるなか、想定したのはミサイルによる攻撃だ。
ミサイルが間近で着弾したらこんな感じになると思う。周囲の人全員死ぬので誰も証言しないけど。
その予想は、煙の中からミ・ミカが現れたことによって覆される。
超音速で飛び込んできた物体はミ・ミカだった。
彼女は俺と岡田のちょうど中間地点に着地して、岡田から俺を守る様に立ちふさがっている。
「お兄さん遅くなりました。すぐ助けるので少しだけ待っててください」
「ははは……ありがとよ」
ミ・ミカの能力がすご過ぎて変な笑いが込み上げてくる。なんやこいつ、生きた巡航ミサイルじゃないか。
彼女は背中の剣を抜いて戦闘態勢を取るが、もう決着はついたんじゃないかな。
着地地点の近くに座っていた岡田は、その辺の椅子や作業台もろとも衝撃波で吹き飛ばされ身体をくの字にして力なく転がっている。
沈黙の時間が続くこと一〇秒余り――。
「クソがああッ!」
岡田は跳ね起きると同時に、ショットガンの銃口をミ・ミカに向け迷いなく発砲する。
「魔力反応!?」
俺の第六感が魔法の発動を感知した。
マズい!? あの銃か銃弾に魔法が込められている。
火薬の爆発音ではなく、ギュウゥゥゥ!と掃除機が激しく空気を吸い込む音が鳴り響きと立て続けに二発、白く輝く炎の塊がミ・ミカに向けて放たれる。
「遅いッ!」
発射された魔弾の速度は銃弾と同等。
人間の動体視力を遥かに超える速度で迫る魔弾二発をミ・ミカは涼しい顔で切り払う。
人間業とは思えない切り払いは成功。
しかし、二発目の魔弾を切り払った際に左の剣が半ばから折れ切っ先が明後日の方向に飛んでいく。
「ほう……」
ミ・ミカは折れ飛んだ剣の切っ先を感心したように確認したようにうなずく。
「ちっ!!」
必殺の一撃を楽々と切り払われた岡田は渋面で舌打ちを鳴らした。
俺だってビックリだ、肉体強化で脳の情報処理速度を早く出来ると説明を受けたが音速で迫る弾丸を見切るほどの処理速度がどんな世界なのか想像もつかない。
「参ります」
ミ・ミカはショットガン弾を撃ち切った岡田に向けて突撃する。
絶体絶命だと思われた岡田はなんとミ・ミカから視線を切り、ショットガンの弾を込め直す。
速い! 驚くべきことに時速三〇〇キロ超で突っ込んでくるミ・ミカの突撃に、排莢、装填、射撃の一連動作を間に合わせた。
いやゼロ距離まで引き付けたという方が正しい。
至近距離で放たれた弾丸をミ・ミカはかわし切れず、角を隠すための帽子が吹き飛び、彼女の額から鮮血が噴き出す。
「試合ならあなたの勝ちでした」
「バケモノがッ!!」
ミ・ミカは剣を手放して岡田の両肩をつかみ、ヘッドバットを叩き込んだ。
ガチン!と金槌で殴りつけた様な轟音が鳴り響き、岡田は力なくその場に崩れ落ちた。
「お兄さんお待たせしました。怪我はないですか?」
「いやいや、お前は大丈夫じゃないだろ。いま、頭撃たれただろがッ!!」
心臓が痛いと感じるほど胸がドキドキしている。
ミ・ミカは手錠を破壊して拘束を解いてくれるが、そんな事より早く止血を、いやまずは病院に連れて行って精密検査を受けさせないと。
「大丈夫ですよ、額が切れて少し派手に出血してるだけです。骨は――ちょっと削れてるかもしれないけど、脳までは達してないです」
「頭は怖いんだぞ、脳出血してたらどうするんだ」
「本当に大丈夫ですよ。肉体再生も使ってるし、血はもう止まっています」
ミ・ミカが血を拭って傷口を見せてくれる。
目に見えるスピードで肉と皮膚がもりもりと盛り上がっていくのを見て、俺は再び絶句する。
バケモノと叫んだ岡田の気持ちを少しだけ理解してしまった。
「お兄ちゃん、大丈夫、怪我はない?」
直後、恵子が天井の穴から入ってくる。
「俺は大丈夫だけど、ミ・ミカが撃たれて怪我したぞ」
「えっ、マジ!? この男、ミ・ミカの守りを抜いたの」
ミ・ミカが手傷を負わされたことがよほど意外だったらしく、恵子は岡田の方に振り向いて目を白黒させる。
「この人、強かったです。剣も折られてしまいました」
強い相手に出会えたのが嬉しいみたいで、折られた剣を拾い上げたミ・ミカは笑顔でそれを恵子に見せる。
「これはすごいわね。うん、家に帰ったら、メディカルチェックをした方がよさそうね」
「大丈夫なのに~」
いや、事故にあった奴は、みんなそう言って家に帰ったあと死ぬんだぞ。
「それより二人とも、この男を連れて早く逃げるわよ。近くに住んでる人が、ミサイルが飛んできたって騒ぎ始めたの。パトカーがもうすぐ来るから急いで」
ミサイルかあ……ミ・ミカが飛び込んできたとき俺もミサイル攻撃だと思ったし、周囲の住民に誤解されるのも無理はない。
俺達は、迫りくるパトカーの音を聞きながら急いでこの場をあとにするのであった。




