第27話「いまから突撃します。」
――ミ・ミカ
「地図から推測すると……恵子、お兄さんがいるの、あそこにある工場のどこかじゃないでしょうか?」
恵子の能力でお兄さんの囚われている場所の大まかな位置を特定した私達は、急いで準備を整え空から現場に急行した。
現在の高度は地上から五十メートル位、下から見上げたら人が飛んでいるのが丸判りになってしまうが、そんなことに構っている場合ではない。
私は、スマホに表示された地図とにらめっこしながら、眼下ある建物を指さした。
場所は、星野山から北に二〇キロほど離れた市街地と山の中間地点。
そこに小さめの工場が五件ほど固まって建てられている。
「なんで似たような建物が複数あるのよ。ちょっと待って、正確な位置を探ってみるから」
恵子は目をつぶってお兄さんの視界へのアクセスを再開する。
先ほど恵子がお兄さんの目を借りて見た風景は、壁や天井がボロボロになった広い部屋の中だったと言ってたので眼下にある建物のどれかにお兄さんは囚われていると思うけど、上から見たらどれが生きている工場で、どれが廃工場なのか見分けがつかない。
「お兄ちゃんの位置は確認できた。あの国道の一番近いところにある建物、あそこに監禁されているみたい。室内に、お兄ちゃんと、誘拐犯しかいないから、魔法で戦っても平気だと思う」
「改めて見ると使い魔との感応ってすごいですね。短時間でここまで精度出せる探知魔法なんて聞いたことないですよ」
数秒アクセスしただけで、ここまで正確な位置を把握できるなんて怖いくらいだ。
お兄さん限定とはいえ、悪用する方法を考えれば妙案が無数に浮かんでくるだろう。
あと……恵子がその気になればプライバシーが一切無くなるお兄さんは、ちょっとかわいそうだと思う。
「悔しいけど心臓をささげた甲斐はあったわね。ただし、悪い知らせもある。誘拐犯の男、銃を持ってる」
「銃って、鉄の筒から鉄の玉出す武器のことですか!?」
「警官が持ってるのより三倍くらい大きくてゴツイ銃だったわ。ミ・ミカは大丈夫だと思うけど、お兄ちゃんに当たったら大怪我すると思うんだよね」
「いやいや、私だって撃たれたくないですよ。怖いじゃないですか」
地球に来てからテレビで何度か見たことがある。
見えない速さで飛んでくる鉄の玉に当たったら人がバタバタ死んでいく、恐ろしい武器だった。
「大丈夫、大丈夫! 銃で撃たれて死ぬのは魔法知らない地球人だから。実際の威力なんて私の拡散レーザーより低いわよ……多分」
多分ですか――恵子もまるっきり出鱈目を言ってるわけではないと思うが、銃について知識が無いのでハッキリしたことが判らないのだろう。
「誘拐犯の位置がわかるなら、収束レーザーで狙撃しませんか?」
お兄さんをどうやって助かけるか段取りを決めていなかったが、銃の話を聞く限り一番安全なのはレーザーでの狙撃だと思う。
「狙撃かあ。それでいいのかなあ……」
恵子は頭を人差指で押しながらウーン、ウーンとうなっている。
「何か問題があるますか?」
「いや、よくわからないけど、狙撃って方法をお兄ちゃんに提案したらなんて言われるかなって思って」
「お兄さんに言ったら……反対されそうですね」
安全策、狙撃と言えば聞こえはいいが、狙撃したら十中八九、誘拐犯は死ぬ。
お兄さんなら、可能な限り人殺しを避けろ、そう言いそうな気がした。
「生かせば情報源になるし、私、突撃しますよ」
「お願いできる?」
「任せてください。必要とあれば、どんな場所にも突撃するのが私の役目です」
私と恵子のフォーメーションは、防御力に優れた私が前衛、火力に優れた恵子がバックアップなので、屋内に飛び込むなら絶対に私が行くべきだ。
「おーけー、じゃあ誘拐犯は可能な限り生かして確保する作戦で行きましょう。現場の状況を教えるね」
恵子の手を握って目をつぶると、お兄さんが見ている景色が見えてくる。
通常で目や耳のような感覚器官と脳の間でやり取りされる電気信号を、皮膚接触した部分から他者に送信するテレパシーという魔法だ。
簡単にやっているように見えるが、わずか一五歳で光属性の魔法をここまで使いこなす魔法使いはおそらくニビルには存在しない。
「お兄さんの視界ですね見えました。あっ、誘拐犯の人見覚えがあります。前に私達に取材してきた岡田って名前の雑誌記者です」
「えっ、そうなの!?」
知ってる顔だと言われて恵子がキョトンとした顔を浮かべる。ツッコミの一つも入れたくなるが、興味が無い人の顔を覚えない娘なので意外な答えではない。
「やっぱり捕まえて話聞いた方がよさそうね。ミ・ミカ、お兄ちゃんと岡田って人の距離は三メートルくらいだけど突入しても大丈夫そう?」
「空中から一気に岡田さんとお兄さんの間に割り込みたいので、建物内の正確な位置が知りたいです。あと、今の距離だと巻き込むので出来るだけ距離を取って欲しいです」
「魔力感知で正確な位置をつかめるかしら?」
「出来ます。兄さんか岡田さんが魔法を使ったら、その場所に突っ込めばいいんですよね」
「おーけー、ならお兄ちゃんに魔法を使ってもらおうか」
軽く打ち合わせをした結果、恵子がお兄さんに肉体強化を使うよう指示を出し、その反応を追って私が空中から室内に飛び込むことにした。
犯人に気づかれずに声を送れるなんて、使い魔の魔法は本当に便利だ。
「いまから突撃します。お兄さん、肉体強化を入れてください」
合図をすると同時に私は、自身の後方に魔力を噴出する。
建物との距離はおよそ一キロ、この距離を利用して全力で自分の身体を加速する。
直後、お兄さんが魔法を使ったのを感じ、その魔力を目指して突入角度を微修正。
音速を突破――周りの音が聞こえなくなる。
速度がマッハ三に到達――身体と空気がぶつかることで発生する摩擦熱で視界が真っ赤に染まる。
激突――屋上のコンクリートと鉄筋をソニックブームがガリガリと削り取る。
私は超音速を維持したまま廃工場に飛び込んだ。




