第24話「あんた何者だよ? 魔法使い様がただの中学生に何のようがあるんだ」
――天原衛
物事にジックリ取り組むといいことがあるとはよく言ったものだ。
動画削除への抗議活動を開始して一〇日目。
その間俺は、消されては動画をあげ、消されては動画をあげのイタチごっこを繰り返していた。
あまりに運営の対応がヒステリックなので、俺の真似をする奴も出現し、ネット界隈ではちょっとした事件になっていた。
少し気になるのは騒ぎの主体になっているT〇itterから、俺の行動をとがめる警告文は一切飛んでこなかったことだろう。
犯罪行為はなにもしていないので文句を言われる筋合いは無いのだが、俺に作った動画を邪魔に思う『誰かさん』がT〇itterにも手を伸ばす可能性は十分にありうる。
危機感が無かったといえばその通りかもしれない。
時間は午後11時過ぎ、恵子とミ・ミカが寝てしまったのを見計らって俺は家を抜け出した。
目指すのは近所にあるコンビニ。
目的は明日発売の新作ゲームをゲットするために必要なプリペイドカードを買うことだ。
親の財産を相続して銀行口座にはそこそこの額の貯金があるのだが、悲しいかな中学生はクレジットカードを作れない。
ゲームショップに行ってパッケージ版を買うという手もあるが、そっちは転売ヤーの手が回って高値で取引されているのでコレクターでなければダウンロード版で十分という結論になる。
「あっ、動画消されなくなってる」
行きがけに動画をチェックしてみると、前回の投稿から一二時間以上経過しているにも関わらず、『魔法でやってみた』シリーズの動画は全て視聴可能な状態が続いていた。
感想としては、『俺達にとって一番イヤな対応をされた』といったところだろうか。
問題の無い動画を普通に配信させる。
当たり前の対応だが、〇ou〇ubeの異常な垢BANを抗議することで知名度を高めた身としては、こういう当たり前の対応をされると打てる手がなくなってしまう。
「天原君だっけ、歩きスマホは良くないと思うよ」
影の中から人がヌルっと浮かび上がってくる。
実際にはそんなことありえないが、そう錯覚するほど男は暗闇の中で存在感無くたたずんでいた。
見覚えがある。
黒いスーツを着た三〇歳くらいの男。
「えっと、岡田さん……だっけ?」
男の名は確か岡田巧。以前、俺達に話を聞きに来た雑誌記者だ。
「名前を憶えててくれたんだ嬉しいよ。ところで天原君、君はまだ中学生だと思うんだけど、こんな時間に何をしてるんだい」
「あっ、はい……」
俺はきっと苦み走った顔をしていただろう。
現在の時間は午後11時過ぎ、中学生が歩き回ったら補導されてしまう時間だ。
「えっと、そうそう――今、家に帰る途中なんですよ。俺の家すぐそばだし、急いで帰りますね」
ここは大人しく帰るしかないだろう。
さらば新作ゲーム(T_T)
そんな感じで俺が心の中で涙を流していると、岡田の表情が崩れて黒い笑みを浮かべる。
「そんなこと言われても、深夜徘徊をしてる中学生を見逃すわけにはいかないな。警察署まで連れて行った方がいいんじゃないかな?」
「えっ……」
岡田さんの無理にでも俺の身柄を引っ張ろうとする言動に俺の頭の中でアラームが鳴り響く。
これは変だ。
一人で歩いてる男子中学生なんて注意して家に帰せば済む話。これじゃまるで――。
「ちょっと待ってください、あなた警官とかじゃないから逮捕する権限ないですよね? 本当に家に帰りますよ、なんなら着いてきてくれても構わないですよ」
「そんなことは無いさ、君は中学生で、時間が23時過ぎ。大人として見逃すわけにはいかないよ」
頭の中の警告音が強くなる。
別に犯罪はしていない、警察署に行っても深夜徘徊のことで説教を受ければ終わるはずだ。
しかし、この岡田という雑誌記者明らかに怪しい。
俺を保護するのではなく、明らかに別の目的で俺を捕まえようとしている。
「ふぅぅぅぅ……」
俺はゆっくりと深呼吸をして周囲の魔力を細胞に取り込んだ。
「岡田さん、ごめんよ」
思いっきり地面を蹴って俺は左側の家の屋根に跳び上がった。
垂直跳びでおよそ三メートル、肉体強化の魔法様々である。
このまま屋根伝いに移動して岡田を撒く。
全力でこれなので恵子達と比べたらお話にならないが、魔法の使えない人間を撒くなら十分……。
「おいおい、逃げんなよ」
俺と同時に跳んだ――いや、俺より先に屋根に跳び移った岡田が回し蹴りを放ってくる。
空中にいた俺に回し蹴りをかわす術はなく、わき腹に蹴りを食らって撃墜されアスファルトに叩きつけられた。
垂直飛びで三メートルのジャンプ、俺よりも速い動き。
間違いない、この男魔法使いだ。
「起きろ。肉体強化が入っていればこの程度じゃ死なないだろ」
「言ってくれるぜ、今の受け身取り損ねたら普通に頭割れていたからな」
アスファルトに叩きつけられたときに大怪我を負ったと思わせるためしばらく寝たままでいたが、どうやら死んだふり作戦は効果かないらしい。
「あんた何者だよ? 魔法使い様がただの中学生に何のようがあるんだ」
「それを答える必要性は感じないな。それに、肉体強化魔法を使える奴はただの中学生ではない」
特別なのは妹で俺はマジでただの中学生なんだが、信じてもらえないだろうな。
さて、どうしたものか、さっきの動きを見る限り岡田の動きは俺より速い。
逃げたところですぐに追いつかれる。
だとすれば……。
「だりゃああッ!」
イチかバチか俺は頭を低くして岡田に突撃をかける。
拳を軽く握り、肘と肩のバネを使って可能な限り早く打ち出すジャブパンチ。
これが、一か月のトレーニングで唯一まともに使えるようになった格闘技術だ。
「しっ!」
俺の左ジャブに岡田は右の拳を合わせてくる。
カウンターの右ストレートはキレイに俺の顔面に突き刺さった。
あっ、ヤバい、こいつボクシングをやっている。
左、右、左、左!
降りかかる雨のような連打を全身に浴びて俺はその場に崩れ落ちる。
やっぱり、ダメだったか。
この世界に俺より弱い魔法使いがいるわけないじゃないか。
ようやく事態が動き始めた感じです。




