第19話「お兄さん、出番です」
――天原衛
「恵子、有効! よって第一試合は4-1で恵子の勝ちなのだ」
ムツキは右翼を恵子に向けて判定を下す。ちなみに彼女が羽ばたきを止めても落下しない理由は不明だ。
戦いを終えた二人と、ムツキが俺達のところに戻って来る。
二人の顔は対照的で、負けたミ・ミカはニコニコ顔で、勝った恵子は少しムスッとした顔をしていた。
「恵子さん、貫禄の勝利でしたね」
ニコニコ顔で讃えてくる由香を、恵子はギラっとにらみつけた。
まあ俺でもわかるくらい、露骨に煽ってるからなあ。
「お兄ちゃんも若干察していると思うけど、今の試合、私の方が圧倒的に有利なルールで戦ってたから。数字は4-1だけど、私とミ・ミカの実力はほぼ互角よ」
恵子は自嘲気味に頭をかく。
二本目以降の勝負で恵子は全て勝ちを取ったものの、決して楽に勝てたわけではなかった。
高速で飛び回るミ・ミカを中距離で撃ち落とすことが出来なかった恵子は、剣の間合いギリギリまで近づいてレーザーを撃つというリスクを取った戦術を取らざる得なかった。
俺から見た限り、二人の勝負は人間同士の戦いというより、アー〇ード〇アや〇ースコン〇ットみたいな超高速で動く機動兵器のような戦いをしていた。
あの手のゲームをやった人間なら、飛び道具無し剣一本で戦うのが圧倒的に不利なのは想像できると思う。
「最初の勝負は上手く意表をつけたんだけどなあ」
「ミ・ミカの硬化は触れている物なら有効なのすっかり忘れてたわ」
「しかし、ファーストブラッドのルールはミ・ミカさんに不利過ぎなので見直しましょうか? ミ・ミカさんって、肉を切らせて骨を断つタイプですよね」
「いえ、今のままでお願いします。試合はあくまで実戦訓練、試合で被弾覚悟の突撃なんて戦術取ったら、師匠に顔の形が変わるまで殴られます」
師匠なる人物がよほど恐ろしいらしく、ミ・ミカは両手をパタパタ降ってルール変更を辞退する。
「実戦じゃ相手がどんな魔法撃ってくるかわからないからな~」
「一撃なら耐えられると思って突っ込んで一撃死は、普通に有り得るから生き残ることが最優先は絶対よ。実戦なら私とコンビ組んで戦うから、ミ・ミカが撃墜スコアを稼ぐ必要って全く無いわ」
ミ・ミカが盾役として前に出て敵を牽制、隙を作ったところで恵子が攻撃。
単純な連携だが、ゲームなら普通に通用する戦術だ。
「どうですか衛さん、魔法使い同士の戦いを始めてみた感想は?」
由香に突然話を振られたが、俺は言葉を発することが出来なかった。
気持ちを落ち着けるため俺は軽く深呼吸をする。
質問をするのはいいが、一緒にスマホのカメラを向けるのはやめて欲しい。
「なんぞこれ! なんぞこれ! なんぞこれ!」
大事なのことことなので三回言いました。
恵子とミ・ミカの戦闘力は俺が想像していた一〇倍くらい強かった。
レベルが違うのではない、世界観が違う。
「二人が強すぎてドン引きなんですが。恵子とミ・ミカのコンビで自衛隊の基地を襲撃したら余裕で勝てるだろ」
「勝てるでしょうね。私もミ・ミカも銃効かないし」
「対抗するとしたら、対空機銃とミサイル……当たらないな」
対空機銃も、ミサイルも航空機サイズのものを落とすための武装なので人間サイズの恵子達には著しく命中率が下がる。
付け加えると、恵子達は人間サイズなのを利用して市街地から低空侵入したら迎撃するのはほぼ不可能だろう。
「心配しないでください。恵子さんと、ミ・ミカさんはニビルでも最高クラスの魔法使いです。移民が来るといっても同レベルの魔法使いは極少数です」
「ゼロじゃないのかよ……」
恵子クラスの怪獣が一人でも暴れまわったら大きな被害が出る。
もしかして、ニビルからの移民って世界の危機なんじゃないのか?
「あと、残念なお知らせが一つ」
由香がスマホを取り出して、先ほどの恵子VSミ・ミカ戦の動画の再生ボタンを押す。
動画の内容は、お察しの内容であった。
「顔が全くわからない」
「残像ばっかりですね」
動画に映し出されていたのは、空で黒い影が高速でビュンビュンと動き回っているだけの光景だった。
静止する一瞬だけ辛うじて人が映っていることが判るが、大半の時間は何が起こっているのか全くわからない。
「スマホのカメラで撮影するには距離もスピードもあり過ぎますね」
「あの戦闘見たときから予想はしてたけど、やっぱり無理かあ」
スマホのカメラで超人バトルを動画にするのは不可能。
そう思った矢先……ミ・ミカが俺の両手を取った。
「お兄さん、出番です!」
「えっ、どゆこと?」
「空中戦の撮影が難しいなら、お兄さんが戦ってるところを動画にすればいいんですよ」
「そっか、兄さんは飛べないから近くから地上戦になるし、強化魔法のレベルも低いから速さもカメラで撮影できる程度に収まりそうね」
「私らは手加減すればいいだけの話なのだ」
「えっ、どゆこと? どゆこと?」
不穏な方向に話が進みつつあるのを感じて、俺は周囲をキョロキョロと見渡した。
「お兄ちゃんお願い、動画の主役やって」
恵子に上目使いでお願いされ、俺はガックリと項垂れるのであった。




