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異世界帰りの妹は世界を変革するつもりです  作者: 戒
第一章 アヌンナキがやってきた
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第16話「悪いけどお兄さんが全力で殴っても、私痛くも痒くもありません。」

 ――天原衛


「あつ、いけど、熱くない」


 今感じているのは生まれてから今まで一度も感じたことのない、まさに未知の感触だった。

 熱い、けど熱くない、体の内側から手足に向けて水のような何かが流れていて、手足の先から心臓に向けて水のような何かが流れている、身体は中に空気が詰まったようにフワフワと軽くなっているのに、手足の先に重さを感じる。


「なんだ、これ?」

「それは魔力です。魔法を使うためには三つのプロセスがあって、今やっているのが第一のプロセス。細胞への魔力供給です。この世界には魔力と呼ばれるエネルギーが漂っていて、生物の細胞は大気中の魔力を取り込んでエネルギーに変換する機能を持っているんです。地球人は、細胞にそういう機能があることを知らないみたいですが」


 人類が知らない細胞の未知の機能か。

 ミ・ミカの話を科学的に証明出来たらノーベル賞が取れるかもしれないな。


「あれ? でもなんで、俺は細胞への魔力供給が出来たんだ」


 身体に魔力が取り込めるなんて話、生まれてから一度も聞いたことが無い情報だ。


「それは私のおかげ!」


 俺の疑問に答えるように恵子が元気よく手をあげる。


「お兄ちゃんは私の使い魔だからね。絶対命令権っていうのは、ただ言うことを聞かせることじゃないだけじゃないの。私の命令でお兄ちゃんの知らない身体の潜在能力を無理やり引き出すことも可能なのよ」

「相変わらず、サラッと怖いこと言うなあ」


 つまり俺の細胞は、恵子の命令で、俺の知らない魔力吸収の能力を使わされたってことか。

 天原衛、15歳、気が付いたら細胞レベルで妹の奴隷になっていたようです。


「コツをつかめば私の命令がなくても魔力吸収は出来るようになると思うから、今は身体の中を魔力が流れる感覚を覚えてちょうだい」

「了解」


 恵子のおかげで、ミ・ミカ達がイチから練習して覚えた技能をショートカットして使えるようになると思って割り切ることにしよう。


「では、魔法を使うための第二のプロセス、それは使いたい魔法を頭の中で正確にイメージすることです。もっとも、お兄さんに炎を出すとか、風を起こす魔法を正確にイメージするのは無理だと思うので、自分の手で強い力を出すイメージを思い描いてください」

「肉体強化魔法は誰でも使えるだっけか?」

「はい、自分の身体を動かすことは誰にでも出来ると思います」


 それなら俺にも出来るだろう。

 とりあえず、拳を握って、重い物を持ったり、イライラした時に物を殴ったりするときに、拳を強く握るイメージを思いうかべる。


「最後のプロセスは、頭の中のイメージと細胞に取り込んだ魔力を反応させて、魔法を発動させることです。もっとも、正確なイメージを作っていれば細胞内の魔力は勝手に反応するので、魔法を使いたいと思うだけでOKです」

「正確なイメージとやらが作れていなかったらどうなるんだ?」

「実態のないイメージと魔力が反応して、何も起こらずに魔力が霧散します」

「TRPGならファンブルって呼ばれる状態ね、何も起こらずにMPだけ減ってしまうって感じ」

「何も起こらないなら返って安心だな」


 ゲームだとファンブルを出すと痛いとか損したとか考えてしまうが、実際に魔法を使う場合、意図しない魔法が発動したとか、魔力が体内で爆発することの方がよっぽど怖い。

 訓練中ならMPの空撃ちをしたところで損になることは何もない。


「それではお兄さん、とりあえず魔法を使ってみましょう。私の顔面を思いっきり殴ってください」

「えっ!?」


 ミ・ミカの爆弾発言に俺は思わず腹から裏声が出てしまう。


「女の子の顔をいきなり殴れと言われてビックリなんですが?」


 ミ・ミカの身長は恵子よりも低い、小柄な女の子だ。

 そんな小さな娘を、全力で殴るなんてまともな感覚があれば出来るはずがない。


「大丈夫! 悪いけどお兄さんが全力で殴っても、私痛くも痒くもありません。だから、ほら」


 ミ・ミカは自分の頬をペチペチと叩いて俺に殴って来いと挑発する。


「……じゃあ、いくぞ」


 かわいい顔をしているが、ミ・ミカが空中を時速数百キロでかっ飛んでいくのを見たばかりだ。

 それに比べたら、俺のパンチなんか屁でもないという彼女の言葉は非常に説得力がある。

 俺は身体に流れる魔力の流れを確認してから、満身の力でミ・ミカの顔面を殴りつけた。

 ガチン!!


「いっ、いてえええ……」


 俺は拳に走った激痛に耐え切れずその場に座り込む。

 ミ・ミカの身体はまるでコンクリート――いや、それよりも固い鉄骨のような感触だった。


「以上が、魔法を使う基本的な方法です。肉体強化、ちゃんと発動したみたいですね。お兄さんの本来の力なら拳はそんなに痛くならないと思います」

「ふざけるな! お前の身体は一体なにで出来てるんだ?」


 ミ・ミカの硬さも異常だが、見たところ体重四〇キロも無さそうな小柄な体格なのに男に全力で殴られてピクリとも動かないのは常軌を逸している。


「私は肉体強化魔法と、触れているものを固くする硬化魔法が得意なんです。身体の頑丈さにはちょっと自信があるんですよ」


 ミ・ミカは俺の前に来て満面の笑顔を見せる。

 真面目な性格のミ・ミカはやりたい放題の恵子に振り回されてばかりいるが、自分の能力を自慢してくる様子は年相応でむしろ微笑ましい。


「じゃあ、お兄さん基本がわかったところで、後は修行あるのみです。私がサンドバックになるのでガンガン打ち込んできてください」

「いや、この手じゃ無理だって」


 ミ・ミカを殴りつけた右手は指の骨が折れたらしく、アッという間にグローブのように腫れ上がっていた。


 『肉体再生』(ヒール)


 恵子が手をかざしてそうつぶやくと、怪我をした右手から痛みが引き、腫れもみるみる引いていく。

 体感で一秒くらいだろうか、怪我は完治し右手は自由に動くようになっていた。


「怪我が治った、どういうことだ?」

「私が、お兄ちゃんの身体に肉体再生の魔法をかけたの」

「肉体再生魔法は便利なんでクサリクの学校では必修科目になっています。軍人は骨折くらいなら、今みたいに一秒で治して戦闘続行ですよ」

「なんぞそれ!?」


 それから――。


 魔法の使い方を教えてもらってから一時間あまり、俺はサンドバック役を買って出たミ・ミカを殴って殴って殴りまくった。

 ミ・ミカの身体は理不尽なほど硬くて、数発殴れば拳が砕けるのだが、その都度恵子の回復魔法で怪我を全快させて練習を続ける。

 この練習、正直言って壮絶にキツイ、修行というよりほとんど拷問である。


「お兄さん、いい感じです。最初より威力が上がってきましたよ」

「俺は全く実感湧かないけどな」


 痛くも痒くもないという言葉の通り、ミ・ミカは俺に殴られても怪我どころか痛みすら感じていないと言わんばかりに涼しい顔をしている。


「ふむ……強い力で殴るというのがどういうことかお兄さんに教えたいのですが、恵子、私の方から手を出してもいいですか?」

「なんで私に聞くのよ? まあ、せいぜい大怪我はさせないで頂戴」


 恵子は勝手にしろと言わんばかりにプラプラと手を振って回答する。

 俺が由香にイジメられたときは、全力でグーパン入れるほど怒ってくれたのに、お兄ちゃんは悲しいぞ。


「と、いうわけで次は私が手を出すので、お兄さん両手を胸の前で組んでガードしてください」

「おいおい、次は俺がサンドバックになるのか?」

「いえ、一発だけです。強い力で殴るというイメージは、打撃を一度くらった方が作りやすいので」

「お手柔らかに頼むぞ」


 俺は両腕を胸の前で組んでガードを固め衝撃に備える。

 ミ・ミカの言わんとすることは判る、人間の力を遥かに超える衝撃なんて、それこそ車に引かれて生き残った人間でなければ記憶していないだろう。


「では、行きます!」


 ミ・ミカはつま先に体重をかけて軽い前軽姿勢を取り――そして消えた。

 ボンッ! と、ほぼ同時に組んだ両腕を通して全身にすさまじい衝撃が駆け抜ける。

 衝撃を受け止めきれずに俺の足の裏は地面を離れ後方へと吹き飛ばされる。

 あっ、死んだかも……そう思った矢先。

 地面に叩きつけられそうになった俺の身体を何者かが受け止めた。


「どうですか? 強い力体感出来ましたか」


 俺の身体を受け止めたのは、パンチを放ったミ・ミカだった。


「なんで後ろに回ってるんだ?」

「お兄さんを殴った後に、ギアを一段上げて後ろに回り込んだんです」

「ギアチェンジって、今のパンチまさか手加減してたのか」

「当り前じゃないですか」


 キョトンとした表情で答えるミ・ミカを見て、俺はニビルの生き物のバケモノっぷりを改めて思い知らされるのであった。

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