第13話「成功の目がないので侵略戦争は無しです」
――天原衛
イスラム国。
一般的にはISと呼ばれるイスラム過激派組織。
捕虜や捕まえた外国人に対して、首を切り落としたり、生きたまま焼き殺したりする残虐な処刑方法を実行し、おまけに動画配信までしたことで世界中から非難を浴びた。
日本人が思うISのイメージは――。
「えっと、中東の方で暴れてるテロリストだっけ」
「それは日本のテレビが報道した間違ったイメージなのだ。まず、ISは組織としてほぼ壊滅しているから“暴れていた”が正解なのだ」
知らなかったISって壊滅していたんだ。
日本人ジャーナリストが人質になったときはテレビで毎日報道していたけど、処刑された後は名前をほとんど聞かなくなっていたからな。
「もう一つ、彼らはテロリストなんかじゃないのです。ISは、一時的とはいえ土地を占領して支配地域を持ち、自国領土の統治を行っていた滅んだ国なんですよ」
ここ重要ですと言わんばかりに、由香が人差指を立てる。
「あれって国だったのか? 国連では認められてなかったと思うけど」
「国が成立するのに国連の承認が必要なんてルールはないのだ。ニビルでは今でも勝手に土地を占領して自国領土にしている奴がごまんといる」
なるほど言われてみたらその通りだ、歴史上大国といわれた国もスタートはヤクザに毛が生えた程度の集団が狭い土地を支配したところから始まったケースが少なくない。
「ISは、元は小さなイスラム過激派の武装組織だった奴らが、イラク戦争の敗残兵と合流して勢力を拡大。その後はシリアやイラク国内での内戦に便乗して、最盛期には日本の国土より一回り小さい範囲を占領したのだ」
「彼らの主張はコーランの教えを順守した生活を行う国家を作ることですが、正直彼らの主張はどうでもいいです。重要なのは、身勝手な主張を唱えて土地を占領し国家を建設する。これって、どっかで聞いた話だと思いませんか?」
それはよく考えなくても判る。
「ウム・ダブルチュがやろうとしてる侵略戦争プランですね」
俺の代わりにミ・ミカが答えてくれる。
ISの設立と支配地拡大までの経緯は、ウム・ダブルチュの侵略戦争プランそっくりだ。
始まり方が同じならおのずと終わり方も同じになる。
「わたし達の戦闘力はISより上だが戦力の多寡は関係ないのだ。他国との交易封鎖、特に安定して食料調達が出来なくなるのは致命的なのだ~」
「ニビルだと隣国と戦争しても関係ない国とは交易出来るのですが、地球で建国しても他国と交易が出来ないとすぐに干上がってしまいます。私は北朝鮮みたいな国に住むのはごめんですね」
他国と交易できない国がどうなるかは北朝鮮を見ればよくわかる。
中国が陰で援助しているらしいが、電力、食料、物資、国内で必要なあらゆるものが常に不足している状態になってしまう。
「というわけで、成功の目がないので侵略戦争は無しです」
「その言葉を聞いて心の底から安心したよ」
ISという反面教師がいて俺達は運がよかった。
少なくとも俺達は結末が破滅しかない侵略戦争をやらなくてすむ。
「無くなってわかるコンビニスイーツのありがたみって奴ですね。皆さんも食べてください」
ムツキが袋からシュークリームやエクレアを取り出しみんなに配る。
由香が紙コップにコーヒーを次いで即席のケーキセットが完成する。
「美味いなこれ」
俺はコンビニスイーツを買いあさる趣味はないが、紙コップのコーヒーと一〇〇円のシュークリームでも満足感はなかなかのものだ。
「恵子、美味しいですね」
「私も好きよ、コンビニスイーツ」
ミ・ミカはシュークリームを頬張ってニコニコ顔だが、恵子は仏頂面を崩さない。
「恵子さん、生どら焼きもありますよ」
「お兄ちゃん、話したの?」
地球に帰って以降、二日に一回は買いに行っている大好物を見せられ、恵子はジロリと俺の顔をにらむ。
俺は無言で首を振って、言ってないとアピールする。
「……欲しいです。ください」
悔しそうな顔まま、恵子は生どら焼きを受け取った。
小さな口でどら焼きにかぶりつく姿が小動物みたいでとてもかわいい。
「侵略戦争はやらないって方針はいいと思うけど、じゃあ他にどんな手で領地を確保するの?」
どら焼きを食べ終わった恵子が口を開く。
「可能な限り人殺しは避けるのだ。人殺しが嫌われるのは地球でもニビルでも同じなのだ」
「私は自治とか独立にこだわらなくてもいいと思います。アメリカかカナダあたりで永住権をもらって人気のない森に住まわせてもらえば十分ですね」
「食べ物さえ売ってもらえれば、あとはなんとかなるのだ」
由香曰く、電気や水道を引かなくていい。
金さえあればインベーダーでも食べ物は売ってくれるだろうし、ウム・ダブルチュは全員が飛べるので人里から離れた場所で暮らしても移動手段に問題はないらしい。
「貴方達はそれでよくても、森での暮らしはクサリクには無理です」
「なんでだ?」
「クサリクは全員が飛べるわけじゃないからです」
ミ・ミカは習得している飛行魔法だが、習得が難しい、落下したら死ぬというリスクがあるため習得率はクサリク全体の一パーセントしかないらしい。
「お金持ちで自家用の飛行機持っている人がいるでしょ。クサリクにとって飛行魔法は、それと同じなの」
「あと、クサリクは地球人とほぼ同じ生命体なので、生活には家も街も必要です」
「それはごもっともです」
俺が飛行魔法を習得したとしても、森の中で暮らせるかと言われたら『無理です』と答えるだろう。
「でも、どこかの国に移民として受け入れてもらうのはいいわね。戦争も人殺しもしないで済む」
「ただ、問題はここからなんですよね。今のご時世、どこの国もただ移民したいですだけで受け入れてくれないんですよ」
「異世界から来たなんて簡単には信じてもらえないし、元居た国に帰れ、て言われそうだよな」
「お役所に言って掛け合ってみましょうか? 私達異世界から来たんですって告白して」
「それはもう私がやった。警察の事情徴収でニビルの話したら、頭がおかしい奴扱いされたわ」
今のところ俺達がどれだけ騒いだところで、世間は子供の戯言としか受けらないだろう。
ピリリリ~。
議論が暗礁に乗り上げたとき、不意に恵子のスマホから着信音が鳴り響いた。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。
一番最新のしくじり事案なので、反面教師にはピッタリですね。




