第11話「本日転校してきた天原衛の双子の妹、天原恵子です」
――天原衛
あれから、二週間が経ちました。
恵子と再会した運命の日ほどではないが中々あわただしい二週間だった。
「本日転校してきた天原衛の双子の妹、天原恵子です。よろしくお願いします」
五月のゴールデンウイーク明け、星野山中学校3-2に小さな爆弾が落とされた。
俺の双子の妹で、現在クサリクのナビゲーターをやっている天原恵子が転入してきたのである。
この二週間の間、俺がやっていたのは恵子とミ・ミカの戸籍取得の手続きだった。
後見人、児童相談所、警察、市役所、学校……連絡しなければならないところが腐るほどあるのにお役所が横の連携を取っていないのは明らかに不親切だと思う。
ちなみに、ミ・ミカの戸籍は両親が誰なのか一切判らない子供ということで、見た目が明らかに外国人なのに割とあっさり取れたのだが。
問題は恵子の方で、誘拐されて行方不明になった女の子が5年ぶりにヒョッコリ戻ってきたということで警察にガッツリ事情徴収をされた。
恵子いわく。
「開き直って本当のこと話したら誘拐のショックで心に傷を負ったかわいそうな娘って扱いになった」
と、いうことで事なきを得たのだが。
今度は、恵子が戻ってきたことを嗅ぎ付けた週刊誌の記者が家に押し掛けてきた一幕もあり。
現代社会の負の面をたっぷりと味わうことになってしまった。
天原恵子の名を聞いてクラスメートがザワザワと騒ぎ始める。
無理もない、恵子が誘拐された事件は当時全国報道までされた。その時のことを覚えている奴もいるはずだ。
「お人形さんみたいでかわいい」
「うちのクラスで、中島と、彼女、学校の美少女総取りじゃん」
「天原、お前の妹、超かわいいな。俺を友人として紹介してくれよ」
あれ? 変だな、反応がいい。
恵子は凡庸な俺とは違ってアイドルにとしてテレビに出ても違和感のない天然美少女だと思うが、この時期の転入とか、双子なのに今までどこに居たんだとか、考えればそういう疑問がいくらでも湧いてくると思うのだが。
なんなの、由香のときもそうだが、美少女ならどれだけ怪しくても許されるのか。
「恵子は、天原衛の双子の妹なんだが、先月海外留学から帰ってきたばかりだ。日本にも慣れてないので、みんな仲良くしてやってくれ」
え? 海外留学なんて設定俺は知らないぞ。
『何が起こってるんだ?』と恵子に瞬きでうったえかけると、彼女は親指を立ててサムズアップのポーズをとる。
「あと二か月経たずに夏休みだけどせいぜい仲良くしてちょうだい。あと、お兄ちゃんは私の世話係だからよろしく頼むわね」
「おっ、おう」
そんなわけで、謎の美少女第二弾、天原恵子の星野山中学校への転入は、あっさりと認められたのであった。
「あまはら……は二人いるから、恵子さん、趣味とかあるの?」
「趣味かわかんないけど、毎日やってるのはトレーニングと料理ね」
「恵子さん、海外留学ってどこに行ってたの?」
「アナンガ王国ってとこ、日本ではあまり有名じゃないかな」
転校生の宿命というか、休み時間になると恵子は数名の女子に囲まれて質問攻めを受けていた。
てか、アナンガ王国って恵子とミ・ミカが住んでたクサリクの国じゃねえか。地球上に存在しない国の名前を軽々しく出すな。
「恵子さん、無事クラスに馴染めるといいですね。お兄さん」
話しかけてきたのは、転校初日の正統派美少女が二日で死亡して、慇懃無礼の残念美少女としてキャラがクラスで定着した中島由香だった。
「お前にお兄さん呼ばわりされるいわれはない。しかし、お前は俺のとこに来ていいのか? 彼女たちと仲良かった気がするけど」
恵子を質問攻めにしている女子達と由香は、よく行動を共にしているように見える。
てっきり由香は彼女たちのグループに入ったものだと思っていたのだが。
「彼女達はお友達ですけど、同じグループではないですね。私って、かわいいじゃないですか。だから彼女達が動画撮影をするときに一緒に入って欲しいってお願いされるんです」
由香はスマホを取り出して、動画投稿サイトのページをひらく。
再生ボタンをタップすると、数人の女子が踊っている短い動画が再生される。
「あっ、お前も映ってる。あとのメンバーは……」
俺は恵子を取り囲んでいる女生徒達と見比べて、出演者が同一人物であることを確認する。
なるほど、投稿動画に美少女を登場させて再生数を稼ごうという魂胆か。
しかし……。
「いやいや、あいつはこれでいいのか?」
「山野さんは、たくさん『いいね』がもらえて大喜びでしたよ」
由香が出演している動画は他の作品より明らかに『いいね』の数が多い、美少女を登場させて『いいね』を稼ごう作戦は大成功といえる。
問題は、センターで踊っている山野(今まで名前を知らなかった)を、ゲストの由香が完全に食っている点だ。
顔やスタイルという単純な見た目以上に、ダンスの上手さが違い過ぎる。
中学生の仲良しグループに一人だけ本物のアイドルが混ざっているような状態になっていた。
「鍛え方が違うから同じ振り付けでも、動きを早く大きく出来るんです。もっとも私は体力頼りなので、ダンスを本格的に習ってる娘の方が普通に上手く踊りますよ」
「山野は素人なんだから手加減してやれよ」
「ご心配ありがとうございます。私は有名人とか興味ないので次からはちゃんと彼女を立てます」
「恵子にそういう気づかいが出来るといいけど」
恵子は由香以上に手加減しないので同じ悲劇が繰り返されることになりそうだ。
「ところで衛君。勉強の方は順調ですか?」
「俺は家庭の事情でそれどころじゃなかったんだよ。まあ、日本の役人が不親切だってことは学習したけど」
由香の言っている勉強はもちろん試験対策のことではない。
クサリクやウム・ダブルチュを移民させるための情報収集。
主に歴史や現代社会に関する勉強のことだ。
「恵子さんと、ミ・ミカさんを学校に通わせるのはとても良いと思いますよ。彼女達はまず最初に地球人について知るべきですからね」
「なんか『自分は地球人について知っている』と言ってるみたいに聞こえるな」
目の前の少女、中島由香の正体は謎だ。
今の彼女が『赤い石』を身体の中に入れた不老不死の生命体アヌンナキであることも、ウム・ダブルチュの移民団を先導するナビゲーターなのも、本当のことだと思う。
ただ、アヌンナキになる“前”の彼女は何者だったのか、それが全く分からない。
「衛君は頑張ったと思うのでご褒美をあげます。私がおごるので放課後にみんなで集まってお茶しませんか?」
「何か話すことが出来たって感じだな。了解だ、後で恵子とミ・ミカにも伝えとく」
「楽しみにしといてください」
由香は人差指を立て不敵な笑みを浮かべるのであった。




