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異世界帰りの妹は世界を変革するつもりです  作者: 戒
第一章 アヌンナキがやってきた
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第10話「侵略戦争する気、満々かよッ!?」

――天原衛


「まーじーでー」


 ウム・ダブルチュのナビゲーター。

 由香がそう話した直後、恵子は吐き捨てるようにつぶやいた。


「なんかスゴイ嫌そうだな?」


 恵子は梅干しでも食べたみたいにすっぱい顔をしているが、そこまで嫌がる理由がピンとこない。


「彼女は、ナビゲーターだって言ったでしょ。つまり、そこにいる焼き鳥の仲間が大挙して地球に降りてくるって言ってるのよ」

「あなたに責められる言われはないと思いますよ、クサリクのナビゲーターさん」


 お前の正体はお見通しだと言わんばかりに、由香は恵子にウインクを投げる。


「そうよ、私はクサリクのナビゲーター、天原恵子。私の目的は、クサリクを地球に移民させること」


 恵子は開き直ったらしく、グラウンドのときと同じく腰に手を当てて由香と対峙する。

 美少女二人が対峙する様子はなかなか画になるが、並んで立つと我が妹の発育の悪さがよくわかるなあ。

 身長も若干負けているが、発育のよい由香と比べると、恵子は着物がよく似合う体型をしている。


「でも、正気なの? クサリクは最悪地球人に紛れて暮らすことも出来るけど、ウム・ダブルチュは完全なインベーダーよ」


 地球人から見た場合、クサリクは額に角のある少し変わった人類だ。

 しかし、地球人は鳥の姿をして人間並みの知能と話が出来る知的生命体に会ったことはない。文字通り未知との遭遇になってしまう。


「しかし、我々はティアマトの啓示を受けたのだ。お前にウム・ダブルチュの移民を止める権利は無いのだ」


 ムツキは勝ち誇ったかのように羽をパタパタさせる。


「えっと、ムツキの仲間が地球に来るって言ってるがどのくらいの数下りてくるんだ?」

「驚けッ! いま希望者を募っているが軽く五万を超える規模になるのだ」


 恵子がすっぱい顔になった理由がようやくわかった。

 飛んで、話せて、魔法が使える超生物が五万も降りてきたら地球に大混乱が起こる。


「ウム・ダブルチュの暮らしには森が必要なので、大きな森林のある土地に国を立てる必要があると思っています」

「いやいや、勝手に国とか作るのはマズいだろ」


 日本でも北海道辺りに人の住んでない土地はあると思うが、勝手に占拠して独立宣言でもしようものなら間違いなく戦争になる。


「世界中のすべての国がアメリカみたいに強いわけじゃないのだ。我々が勝てる相手を選んで攻めれば問題ないのだ」

「侵略戦争する気、満々かよッ!?」


 フクロウが人を襲って殺すモンスターパニック映画の情景が俺の頭の中を駆け巡る。


「最悪それでもいいのでは? シュメール人っていう私達のご先祖様も戦争してメソポタミアを征服したんですよね」


 ミ・ミカが諦めたようにそうつぶやく。表情を見る限り、戦争が悪いことだという意識は彼女にもないらしい。


「私も協力するから、心配しなくても相手を選べば勝てますよ」

「おおお……」


 俺は自分の足元がガラガラと崩れ落ちるような感覚がして、思わずしゃがみ込んだ。

 こいつら思った以上にヤバイ奴らだ。

 ミ・ミカも由香もムツキも、人並みの常識やモラルは持ち合わせているが現代社会で生きるには人殺しや戦争を起こすことに対するハードルが低すぎる。

 おまけに恵子もニビル人の流儀に染まっている節がある。

 危ない。

 こいつらほっといたら高確率で犯罪者かテロリストになると、俺は確信した。


「とにかく戦争はダメだッ! ここ一〇〇年くらいで侵略戦争仕掛けて上手くいった奴は皆無なんだ」


 俺は戦争を止めさせるため、とにかく声を張り上げた。

 俺の知識では戦争がダメな理由を説明できないので、いまは迫力で押すしかない。

 沈黙の時間が数秒続く。

 由香もムツキも不満そうな顔をしているが、地球の平和を守るためここで目を逸らすわけにはいかない。


「まあ、戦いを仕掛けるにしても、今の社会情勢に私達は無知です。しばらくは、この世界のことについて勉強することに専念しましょう」


 由香はあきらめようにフーと息を吐いた。


「もっともっと本を読むんだぞ」

「確かに結論を急ぐ理由は無いですね」


 ニビルの面々が、まずは社会情勢について勉強することで納得してくれたのを見て、俺もホッと胸をなでおろす。


「しかし良かったです。事情を聴く限り私達が敵対する理由は無さそうなので」

「数万人が共存できないほど地球は狭くないからな」

「私もしばらく中学校に通いたいです。クラスメートとして手を組むというのはどうですか?」

「俺はいいと思うぞ」


 むしろ同じ移民を地球に降ろすという目的がある以上、由香達とは協力する方が得策だ。


「じゃあ、当面の間は協力するってことで――いいよな?」


 振り返って確認すると、ミ・ミカはコクコクとうなずいてくれる。


「ねえ、中島由香、一つ聞いてもいい?」


 恵子が俺の後ろ襟をつかんでミ・ミカの方に押しやり、入れ替わるように前に出る。


「どうしました?」

「何でお兄ちゃんを殺したの?」

「いえいえ、私に一切殺意はありません。ただ、あまはらく――衛くんを、使い魔にして私の仕事を手伝ってもらおうと思っただけですよ。恵子さんに邪魔されても、完全に死んじゃう前に手を引いたじゃないですか」

「一分くらいなら心停止した後でも蘇生は可能なのだ」


 それは一瞬の出来事だった。

 恵子が放った右ストレートが由香の顔面を直撃。

 由香の身体はきりもみを描きながら吹き飛び、公園端の鉄柵をへし折って公道のアスファルトに叩きつけられた。


「いたた……いきなり殴るなんてひどいじゃないですか」


 常人なら即死しそうな勢いで吹き飛んだのに由香はムクリと起き上がる。

 頬の骨が砕かれて顔がへこんでいるのにヘラヘラ笑っているのが怖い。


「次、お兄ちゃんに手を出したら死ぬまでカンナで肉削ぎ落とすからなッ!!」


 恵子の激怒の咆哮をあげる。

 今さらながらに思い出す。

 そういえば俺、由香に一回殺されていたな。

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