第9話「私の名は中島由香。ウム・ダブルチュのナビゲーターです」
――天原衛
「なんじゃこりゃあッ!!」
恵子と運命的な再開をした翌日。
俺は自分が死んでる間に起こった出来事を知って驚きのあまり顎が外れそうになった。
『星野山中学校の屋上で大規模なガス爆発か!?』
『星野山中学校の屋上で爆弾テロか!?』
『恐怖ッ! 中学校の屋上で水蒸気爆発!?』
『消防隊員の証言、現場には大量の血痕が残されていた』
テレビでもネットニュースでも、昨晩恵子達が戦ったときの爪痕が一面で取り上げられていた。
『断続的な爆発』、『防護柵と貯水槽の消滅』、『周囲に鳴り響く金属音』、『夜空を切り裂く閃光』、『学校から飛び去っていくUFO』といった異常事態を学校に残った生徒や教職員が証言したが、これが事件なのか事故なのか警察は判断できなかったらしい。
というわけで、ガス爆発や、爆弾テロから、果ては宇宙人の攻撃という感じでマスコミ各社は派手な見出しの妄想記事を垂れ流し、星野山中学校は一躍全国区の有名校となってしまった。
「あっ、あそこに立ってるの記者だよ。根拠のない妄想記事書いたり、中学生に配力なくマイク向けたり、そんなことするからマスゴミって言われるのよ」
登校中の生徒にインタビューしている記者を恵子はジト目でにらみつける。
「いやいや、今回は仕方ないって。異世界人が魔法で戦ったなんて誰がわかるんだよ」
しかし、魔法が使えるという話は聞いているが、戦闘の爪痕が想像した一〇倍くらい派手だ。
軍隊が銃で撃ち合ったとしてもこんな壊れ方はしないと思う。
恵子とミ・ミカの強さがどんなものか、あとでじっくり話を聞く必要がありそうだ。
「しかし、私達が付いてきて大丈夫ですか?」
周囲の人間がチラチラ自分達を見てくるのが気になるらしく、ミ・ミカが心配そうな顔で見上げてくる。
周囲を歩いている少女はみんな星野山中学校の制服を着ているので、着物姿の恵子と、民族衣装を着たミ・ミカの存在は明らかに異彩を放っていた。
「周囲の視線は気にするな、ただ道を歩いてるだけなら補導はされない」
登校する生徒たちに交じって俺の右側には恵子が、左側にはミ・ミカが歩いている。
なんのことはない、俺達は昨日大事件を起こした中学校に徒歩で通学しているのだ。
学校では全校生徒がグラウンドに集められていた。
「うおっ、みんな同じ格好してる」
グラウンドに集まった全校生徒を見てミ・ミカが息を飲んだ。
同じ服を着た少年少女が千人近く一か所に集まった光景は日本人以外が見たら異様に見えるようだ。
「やっぱり校舎は立入禁止か」
「中で戦ってないから室内は無事だと思いますよ」
「警察の現場検証が終わるまではダメなんだよ」
俺は指差しで紺色の制服を着た警察官が立っているのをミ・ミカに伝える。
生徒が来る時間になっても警察の現場検証が続いていることを考えると、今日は休校だろう。
私服の少女二人を伴ってグラウンドにやってきた俺に、周囲の生徒は不審そうな視線を向けてくるが気にしない。
何か聞かれたら外国から遊びに来た親戚だと言い張ればいい。
「恵子、居たぞ」
クラスメイトに混ざって立っている中島由香を見つけた俺達は彼女の前に歩み寄る。
「あなたたち!?」
昨日殺した男と、戦った敵が雁首揃えて向かってきたのを見てさすがの由香も驚きを隠せない。
「あんたこそよく登校して来たわね、中島由香」
一歩前に出た恵子が、腰に手を当てて由香をにらみつける。
転校生と正体不明の少女が対峙するのを見て、周囲の生徒はザワザワと色めき立つ。
「転校二日目でサボるのはさすがにマズいと思ったのですが、失敗しましたね」
由香は、顔に手を当てわざとらしくおどけてみせる。
どうやら猫をかぶるのは諦めたらしい。
「それで、どういうご用件ですか? さすがの私も、こんな衆目の場で荒事は起こしたくないのですが」
「話を聞きたい、ツラ貸しなさい」
「話ですか」
「あなたの目的や事情を教えなさい。私のことも教えてあげる。別に隠すようなことは無いでしょ」
なんか怖い。
かわいい女の子が、かわいい声で話しているのに会話内容はまるでヤクザだ。
「おい天原! 何してるんだ? そこの二人は部外者だろ」
さすがに目立ちすぎたらしく、騒ぎを聞きつけた西村先生が駆けつけてくる。
どうやって逃げようか思案する間もなく、恵子はきびすを返すと西村先生の胸元に指を触れさせる。
『停滞』
恵子がささやくように言葉を発すると、西村先生の動きが凍ったように停止した。
「おい、今の!?」
間違いない魔法だ。
胸がドキドキする、わが妹ながら一般人に迷いなく魔法を使う神経が信じられない。
「申し訳ないですが、私と天原君は所用のためサボります。お叱りはちゃんと受けるので先生に伝えといてください」
「えっ? ええ!」
急に伝言を頼まれた女生徒は明らかに動揺していたが由香は気に留めることなく走り始める。
「急いで! 拘束は一分も持たない」
恵子も俺の手を引いて走り始める。
俺達は混乱の現場からすたこらさっさと逃げ出すのであった。
「はあ、はあ、はあ……」
息が苦しい、肺が潰れそうなくらいキリキリと痛む。
俺はベンチに腰掛けて陸にあがった魚のように口をパクパクさせて酸素をむさぼった。
学校から少し離れた児童公園まで逃げてきたのだが、俺は恵子に手を引かれ自分の全力疾走を遥かに超える速度で走らされた。
完全に拷問です。
ちなみに俺以外の三人は散歩でもしてたと言わんばかりにケロッとした顔をしている。
もっとも、彼女たちと俺ではいろいろな意味でステータスが違いすぎるので悔しさも感じない。
「お兄ちゃん、ごめん、ごめん」
恵子が背中をさすってくれる。彼女もさすがに無理をさせたという自覚はあるらしい。
「あと恵子、先生になにしたんだ? 先生に魔法かけるの見たときは心臓が止まるかと思ったぞ」
「さっきの魔法は神経に弱い電気信号を流して脳の思考速度を限界まで遅くしたの。心配しなくても一分もすれば元に戻るから大丈夫よ」
「なにそれ怖いんだけど」
脳の思考速度なんて俺でも理解できる言葉で説明されるのが逆に怖く感じる。
「お前、人の脳ミソ弄れるのか!?」
「弄れるわよ。私ってゲームだと僧侶とか神官にあたる属性だから、光魔法と回復魔法が得意なの。その派生で人の身体をいじる魔法も得意」
「ニビルではアヌンナキを神様として信仰する人もいるので、そういう人にとっては恵子は光の女神ですね」
「お前が女神ねえ」
不思議なもので強大な力のある神だと言われても、目の前に女の子を拝もうという気にはなれない。
実体を持ち話が出来る神は、信仰の対象にするには具体的すぎるのかもしれない。
「そっちの女が光の女神なら、由香は風の女神。巧みに風を操り敵を切り刻むんだぞ」
聞き覚えのある舌ったらずな声が聞こえてくる。
振り向くと、大柄なフクロウ――ムツキが下りてくるのが見えた。
「話をするなら彼女もいた方がいいと思いまして」
昨日と同じように、掲げられた由香の右腕にムツキがふわりと音もなく着地する。
「あらためて紹介します。彼女はムツキ。種族はニビルに住む知的生命体ウム・ダブルチュで、役割は私の護衛です。おそらく、クサリクのお嬢さんと立場は一緒だと思います」
「よろしくなのだ~」
ムツキはパサっと翼を大きく広げる。
鳥の威嚇行動のように見えるが、恵子もミ・ミカも何も言わないのであれがウム・ダブルチュの一般的な挨拶なのだろう。
「彼女ねえ……知的生命体だとは聞いていたが、女だったんだな」
「ウム・ダブルチュは女の方大きく力が強い」
「地球のフクロウもメスの方が身体が大きいので、その特徴を引継いでるんですよ」
「えっ、ムツキって異世界の生き物なのにガチでフクロウの仲間なのか?」
異世界モノの小説だと、異世界に地球と同じ生き物が普通に生活してるがよく考えると変な話なのだ。
収れん進化が起こったとしても全く同じ形に進化するのはさすがにありえない。
「地球に生きているフクロウは私達のご先祖様なのだ。お前達がサルから進化したのと同じだぞ」
「えっと……五〇〇〇年前に地球からニビルにやってきたフクロウが知的生命体に進化したってこと?」
「私達の先祖がニビルに来たのはもっと前、もっともっと前だ。ニビルと地球で生き物を交換したのは五〇〇〇年前が初めてじゃない。何千万年も前からニビルと地球は生き物の交換を続けてるんだぞ」
「クサリクと地球人は、原始時代に何度も地球とニビルを行き来してたので種としての違いはほとんどない言われています」
俺が振り返ると、ミ・ミカは無言でコクコクと首を縦に振る。
「この世界ではDNA鑑定なるものがあると本で見た。私達のDNAも鑑定してみたいな」
「DNA鑑定ってなにするのよ?」
「ウム・ダブルチュやクサリクと、地球の生き物の遺伝子の一致率を調べるのだ」
「ああ、人間とチンパンジーだとDNAが九九%一致するという話を聞いたことがあるな」
DNAの一致率を調べることでニビルの知的生命体がいつ地球の生き物と枝分かれしたか判るかもしれない。
てか、幼い声と舌っ足らずな話し方で幼い印象を受けたが、ムツキって実はすごく頭がいいのではないだろうか。
「さて、ムツキのことも判ってもらえたと思うからそろそろ本題に入りましょう。私の名は中島由香。ウム・ダブルチュのナビゲーターです」
本シリーズではエルフとかドワーフみたいなお約束の異種族は出てこないです。
理由は作者の趣味です。




