テルミー・ズーは蜘蛛が苦手①
「私の名前は、テルミー・ズー。魔法使い見習いだ。不本意だが、今日からお前の弟子として行動を共にする。何卒」
リュグスは焚火をぼおっと眺めていた。背中で少女が何かを言っているが、気にも留めない。
リュグスは焚火を眺めるのが好きだった。パチッ。パチッと音を立てて、緩やかに燃え続ける炎を見ていると、心が安らぐ気がした。
ヨナキフクロウの鳴き声が暗い森に響く。リュグスの足元を、コケシタガエルがノソノソと通り過ぎる。見上げると、雲の切れ間にカラド座が輝いている。
「ところで。そろそろ、降ろしてはくれないだろうか。とても嫌な予感がするのだが」
テルミーと名乗る少女は、リュグスに訴えた。
テルミーは今、吊るされていた。木の枝に縄でくくられ、胸と股間を薄い布切れが覆うだけの、淫らな恰好で、しかも、全身に樹液が塗られている。
「まさかとは思うが、私を餌にしてはいないだろうな?」
「だとしたらどうする?」
「師匠に言いつける」
「言いつける口があればいいな」
リュグスはボソッと言った。もがくテルミーの影が揺れている。テルミーは大きく息を吸い込んだ。
「誰かーッ! 助けてくださーいッ! 拘束されてるのですッ! 少女を縛る変態がいまーすッ!」
「はぁ……」
リュグスはため息をつき、頭をポリポリと掻いた。
「誰かーッ! 誰か誰か誰かッ!」
リュグスは後悔した。勇者時代の旅仲間である、生意気魔法使いとの出会いまでさかのぼるわけにもいかないので、この騒がしい少女。テルミーとの出会いまで振り返る。