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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カーブミラーと花束 

作者: しえすた



今日は◯◯駅の近くにある居酒屋で会社の同僚と新年会をした。


10階建のビルの4階の居酒屋は普段から行きつけで、最近付き合った彼女ともよく行くお店だった。

和洋中のメニューが豊富で、美味くて安くて早い。

アパレルの商品開発部の6人は普段の鬱憤を吐き出しつつ、笑いながら宴会を楽しんでいた。


去年は色々あった。

今年は少しでも良い事があればいいのに。


酒が飲めない俺は、揚げ物をつまみながらお腹を満たした。

鍋に野菜を入れていた時だ。


「あれ、Jさんは?」


元ネイルサロンに働いていた女性Dは 、元職場の女性Jの存在を探した。

辺りをキョロキョロする度耳元のループピアスが揺れる。


「一緒じゃなかったの?」


さっき斜めの席で2人が笑いあっていたのを思い出す。

Jは明るくセミロングの髪の女性だ。

2人でお揃いのネイルをしていた。


「はい、急に何処かに行っちゃって…」


ねぇ、知らない?と、残りの同僚に聞くが首を傾げている。


「電話した?」


「したんですけど、ノイズが混じって聞こえにくいんです」


店内は混んでいるので話し声ではなく、ノイズが入るなんて珍しい。


「もしかしたら…」


お手洗いか、と思った瞬間だ。

JからDへLINEがきた。

 

『お願い、1階に来て』


既読した後、下まで行きますと言ってJは店員に一声かけ店を出た。


5分位経ってDから LINEがきた。

聞けばエレベーターの非常口付近でJが震えながらうずくまっていたとゆう。

Jは体調が悪い、帰りたいと言っているらしく2人はそのまま帰って行った。

同僚が体調の悪い時にはしゃぐ気にもなれず、宴会の場も早めにお開きした。


俺は駐車場にとめていた車に3人を乗せ国道を走った。

後部座席は男性MとL、助手席には女性Sがいる。


時刻は23時。

居酒屋から10分過ぎた頃、大通りに入る。


Sが彼氏と同棲している赤岩ハイツが見えて来たので降ろしてあげた。


「ありがとうございます」


礼をする彼女見送って後ろの酔っ払いを無事に送り届けなければ。


頭上に高速道路が走る車道を走り続ける。

俺の父は現役のタクシードライバーだ。

憧れて、運転免許を取得したが父の様になれなかった。

けれど、今の職場に恵まれた。

可愛い彼女に出会えた。

これからもいい事がある、筈だった。


T字路で信号待ちをする。

右手にLの家が見えてきたので声を掛けた。


「おい、もう着くぞ」


ふぃ〜、とLはしゃっくりをしながらふらふらと緩やかな坂道を歩き出した。

見渡す限り剪定された庭に大きな豪邸。


後部座席のMはまだ眠っていた。

ゆっくり車を発進させる。

このメンバーを家に送るのはこれで4回目だ。


Mの家は山岳辺りなので、進むにつれて林道になっていく。

目の前に十字路の交差点が現れた。

左手に郵便局があり、右手は街頭が少ない道へハンドルをきる。

そのまま◯◯病院を越え、小さな公園を抜ければマンションが見えてくる。

路肩にとめてMを起こした。



「明日、早いんだろ。無理するなよ」


新入社員であった彼の肩を優しく叩いた。

Mは頭を下げて正面玄関に消えていく。

Uターンした俺はさっき通った林道に入る。

時刻は0時に近い。


(少し眠いし、コーヒーでも買うか)


毎年お決まりのパターンだったので林道を抜けた先にあるコンビニを目指した。

運転していたらカーブミラーが見えてきた。

緩やかなカーブだったのであまり減速せず走る。


(ん?)


カーブミラーに人が映っていた。

一瞬だったのではっきりは分からない。


そのまま走り続けて、林道を抜けた時だ。

コンビニが左手に見えていたので左折しようとした。



[目的地を変更しました]


突然カーナビが起動した。

少しも触れていない。


(車検に出したばっかりだぞ)


担当者から問題は無かったと聞いている。

よく見るとカーナビの設定した場所は知らない住所になっていた。


[直進して下さい]


(え、意味が分からない…)



とりあえずコンビニに行きたいので、無視しようとハンドルを回す。




[直進して下さい]




[直進して下さい]




[直進して下さい]



連続で音声アナウンスが車内に響く。

カーナビの設定を変えようとボタンを押す。


(なんで、進まなきゃいけないんだよ)


「……!……ちょ、何だあれ」


バックミラー越しに小さな白いものが浮かんでいる。

最初はよく見えず、振り子のように動いていた。

けれど徐々にそれは俺の車へ突進してきた。


顔だ。女性の顔だ。

髪の長い女性がにたぁっと笑っている。


「うわわわあぁぁぁあ!!」


アクセルを思い切り踏んだ。

車内が振動する。




[直進して下さい]



アナウンスに従って俺はコンビニを通り過ぎた。

スピードは徐々にあがっていく。

また緩やかな左のカーブが見えてきた。


(しまった!)




上手く曲がれず、ブレーキを踏んだ。

ギュルルルルルルルルとタイヤが唸る。


幸い植木に車の角が突っ込んだだけで目の前の木にぶつかる事は防げた。




「やばい、今のなんだったんだ」


あの顔が脳裏にこべりついて剥がれない。

深呼吸して車から出た。

目の前にカーブミラーがある。


そしてその脇に小さな花束とミネラルウォーターが置かれていた。


(誰か亡くなったのか…?)


急に背筋が強張った。

俺が見たのはこの世に居ない者を見てしまったんだろう。

居酒屋で貰ったお菓子があったのでそれをお供えした。




ふと、車を見た。



何処でついたのか。

に見覚えのない沢山の引っ掻き傷が残っていた。






まるで引きづられたまま、爪の先が何度も何度もアスファルトを削る様に………。











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