FUSAGI
罪を感じる全ての者に。
何処に行けば...
こっちに来るな...
わかりゃしない...
...
僅かに聞こえる人の声が、繁華街を突き抜ける。
街を行く人々には聞こえていないようだ。
声の主も、聞かせるつもりはないようだ。
横たわる体の頭上から、ブルーライトの閃光が点滅する。眩しい。昨日と明日の狭間で私は、回帰する場所で、回帰すべき場所を探している。
充血したその眼球に反射しているのは人々の作り上げた存在しない世界。笑う者もいれば、泣く者もいる。世捨て人を装う者もいれば、何かに怯えながら過ごす者もいる。私はそのうちのどれかである。
朝目が覚めると、そこには見知らぬ女が立っていた。女は自分を「ヘビ」と呼んだ。あまりの唐突さに、私はその由来を聞くことすらできなかった。
私は女に問う。何処から来て、何をしにここへやって来たのかと。女は答える。アナタから来て、アナタへ帰る。
ヘビは背が高く、切りっぱなしのシャツからは、螺旋状に緑色の血管が巻きつく腕が伸びている。ヘビはゆっくりと私の横たわるベッドに近づき、腰掛けた。
「アナタにとって、私は何で、どう見えて、何ができるの?」ヘビが訊ねる。私は何も答えることができない。はたまた、答える事が無いのかもしれない。せめて何か答えてやろうと、私は口を開く。
私の返答を聞くなり、ヘビは私に抱きついてきた。その痩せ細った腕からは、想像できない程の力強さで。不思議と私は、ヘビの腕の中に心地良さを感じていた。苦しい筈のその締め付けるような抱擁が、私の中に何かを残していく。私とヘビの鼓動が重なり、私の呼吸は浅くなる。私は、ヘビの体が少しずつ膨張している事に気づく。焦り戸惑い、なんとかヘビの腕の中から抜け出そうともがく。するとヘビは、突然私を突き放し、部屋の窓を開け、カーテンの間から飛び降りた。
私はしばらくの間、何も考える事ができなかった。朝日を見て落ち着こうと、ヘビが飛び降りた窓のカーテンを開けようとする。その瞬間、私の肩から指先が、ヘビの腕と全く同じものになっていることに気づく。私はそれでも、勢いよくカーテンを開けた。朝日の光が、私の影を作る。
私は変わり果てた腕を見つめ、次第にヘビの抱擁を思い出す。
ヘビは、私の中に帰った。




