無料十連を無駄にしていくスタイル
物書き自体久しぶりなので、読みにくかったらすみません。
「という訳で、嘉一君はもう一度異世界で人生をやり直す権利を得たのです」
ぱちぱち、とわざとらしく手を打ちながらにこにこと微笑む女神。
当の僕は、余りにも情けない無駄死にの事実を受け止めきれず、この真っ白な世界(本当に真っ白である)の隅っこの方で、体育座りをしていた。自分で言うのもなんだが、結構心は弱い方である。
「あら、どうしました? 最近は現世でも、異世界転生っていう単語は珍しくないでしょう? 流行ってますもんね」
僕の傷心など何処吹く風で話を続ける女神。
「申し遅れました、私は現世で死を遂げた者を、選別して異世界へと転生させる役割を担っています、エルフェと申します」
エルフェと名乗った女神は、相変わらず優しい声色で続けた。
「ちなみに、今ならキャンペーン中で、転生する際に、向こうで役立つアイテムを十個差しあげちゃいます〜」
「ソシャゲにありがちな無料十連みたいなキャンペーンやってるんですね」
余りにも世界観ぶち壊しな発言に、さすがにツッコミを投げかけてしまった僕。
「しかも今ならSレア一個確定!」
「ますますソシャゲですね」
どんどん安っぽくなっていく世界観に、そろそろ真面目に向き合うことにした。
「あの、女神様……」
「なんでしょう?」
「僕、正直異世界転生とかしたくないんですけど」
「何故です? また新たに人生を始められるのですよ? 他の方々も皆一様に喜び勇んで転生されていますのに……」
不思議そうに、整った目元を細める女神。
「だって、めんどくさいじゃないですか。どうせあれでしょ? 向こうでは魔王とか死ぬほど強い黒幕がいて、そいつを倒さないとセカイが危なくて、そこに巻き込まれて……みたいなやつでしょ? めんどいやつじゃないですか 」
記憶の中にある、ライトノベルの話も、だいたいそんな感じだった。
「あら〜、それをチート能力で無双するのが異世界転生の醍醐味ですよ〜?」
「あんた清々しいほど世界観とか気にしないな」
美しい顔面からは想像できない言葉に、胡散臭さしか感じなかった。
「とにかく、もう嘉一君は転生することが決まっているんです。というか転生してもらわないと、私の給料がダウン」
「なんか言いました?」
「いえなにも」
何やら不穏な事を口走った女神を、半眼で睨んでおく。
「さぁ、理解出来ているならば、さっさと転生の準備に取り掛かりましょう」
「まだ転生することは承諾してないんですがねぇ!」
にこにこと微笑みながら、何やら呪文を唱え出す女神。やばい、このままだとほんとに転生させられる!
「といっても、もう手続きは完了しているので、あとは嘉一君を転送するだけなのですがね」
「は? ちょ、いきなりそんな」
「安心してくださいね〜、女神権限で嘉一君のステータスはALLMAX、せいぜいキャンペーンのアイテムで神引きしちゃってくださ〜い」
困惑する僕を他所に、女神が右手を向けてくる、本能的に分かってしまう、あ、意識失うんだなと。
正直、異世界転生は絶対嫌って訳では無い。女神が言うようにステータスMAXならば、結構いい思いが出来るのではなかろうか。
ましてや無料十連まで付いてくるのであれば、異世界での僕は無敵に等しいのだろう。
となれば、異世界転生するのもやぶさかではなくなってきた。
現代社会のコンクリートジャングルから離れ、剣と魔法の異世界で、アニメみたいな可愛い女の子を侍らせ、主人公のようにかっこいい生き方……。
「悪くない」
意識を手放す最後の感想であった。
次から異世界編です。




