98「魚突き」【挿絵あり】
「こうヤスっていうやつで突くんだけどね。
フォークのでかいのみたいな。
今のガキどもはやらないかな」
東北出身の方から聞いた話。
彼の田舎は文字通り自然が豊富で、夏ともなれば
タンパク質系の獲物は、田や小川へ行けばいくらでも
獲れた。
「魚も夜寝るから、頭にランプ付けて夜突きに
いくんだ。
面白いほど取れたよ」
獲物は魚に限らず、エビや沢ガニなども対象だった。
それらは大人たちの晩の酒のツマミになったり、
翌日の朝食に出たりする。
岩陰に隠れている魚を突いては、竹製のカゴに
入れていく。
作業のように突いた魚を引いた時、ヤスがいきなり
重くなった。
「何か引っかかったかな?
そう思ってライトをその先にあてたんだが」
岩と浅瀬の茂みが照明で浮かび上がる。
よく見ると、ヤスの先の魚が何かに挟まっているように
見えた。
何かと思って近付くと、グイッと背中が引かれた。
一緒に魚突きに来ていた仲間の1人だったが、
その方へ振り向くと同時に
「逃げるぞ!!
って怒鳴られた。
みんな一斉に逃げていくんで、俺も怖くなって
逃げたよ」
川から離れ、一番近い人家の近くまで来た時、
逃げたわけを仲間に聞いた。
「何でもよ、ハサミが見えたんだと。
俺が突いた魚を、片側が大人の手くらいある
蟹のハサミが挟んでいたと」
20年程前、彼の小学校の頃の話だという。
その川も多少整地されたものの、未だ残って
いるらしい。





