96「高架下」【挿絵あり】
40代のデザイナーの方から聞いた話。
彼の住まいは都内で、小学校の頃に仲の良い友達がいて
よくお互いの家を行き来して遊んでいた。
ただ道中、高架下( ガード下)のトンネルを
通らねばならず、昼はともかく、暗くなったそこを
歩くのはとても嫌だったという。
「距離にして10mも無いはずなんですけどね。
ただ、子供の頃は無性に怖くって」
ある日、また友人の家で遊んで遅くなってしまった
彼は、トンネルの前で悩んでいた。
抜け道なんてあるわけもないし……
と思って横を見ると、まだ舗装されていない
地面の上に、石板を置いた道があった。
どうやら高架下をくぐらなくても、向こうへ
行けるようだ。
見上げると、外灯も両端にしっかり立っている。
以来、暗くなるまで遊んだ時は、その道を通って
帰るようになった。
時は流れ、大人になった時に、彼はようやく
矛盾に気付いた。
「いや、だってねえ。
どう考えたって高架下のトンネルをくぐらなきゃ、
家に帰れないはずなんですよ。
それに、あの辺りでまだ土のままの道路なんて、
もう無かったはずですから」
思い出してみると、外灯も妙に古めかしいというか、
時代が違う感じがしたという。
調べてみると、昭和30年代の頃の外灯が、
一番記憶にピッタリ合ったそうだ。





