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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
94/300

94「コーヒー」【挿絵あり】


都内の、ある研究機関に勤める男性から聞いた話。




「水質調査を頼まれた時がありまして。

 15、6年ほど前だったかなあ」




いわゆる環境調査で、公的な依頼を受ける事が

よくあるのだという。

ある地域一帯の調査に向かい、サンプルとして

いくつかの水源から水を採取した。




「その中で、小さな池があったんですけど」




試験管に水を移していると、大きな影が目の前を

横切った。

何だろうと思い、持っていた網でそれを

すくおうと水中に突っ込んだ。




「それが、簡単にすくえてしまいまして」




大きな鯉が、網の中で身を震わせていた。

別に生物などのサンプルは必要ではなかったが、

なぜか無性に持ち帰りたくなって、道具一式が

車に揃っていたのもあり、車に入れて持ち帰った。


施設に帰り、大きめの水槽に入れて一息つくと、

彼はコーヒーを買いに自販機のあるコーナーへと

向かった。




「よくある紙コップ式のものだったん

 ですけどね……」




飲もうと口を近づけた時、不意にその表面が

揺れた気がした。

え? と思って口を離すと、コーヒーの中から

ヒゲのある魚の頭がぬっと現れた。




「そりゃ驚きましたよ」




思わず叫んで紙コップを落とすと、中身が

床に飛び散り、香ばしい匂いと色が辺り一面を

染め上げた。

もちろん魚の姿などどこにもなく、彼は手持ちの

ティッシュで床を掃除した。


部屋に戻ると、同僚が声をかけてきた。




「何で水槽なんか用意したんだ?」




そこには、水も何も無い空の水槽が残されていた。

ただ、中身は水を抜いたように濡れており、

魚類特有の生臭い匂いも部屋に漂っていたという。




「多分あの池に戻ったんでしょうけど。

 まあ確認出来る事ではないので」




彼は手に持っていた缶コーヒーをくるくると

回しながら、不思議そうにつぶやいた。





挿絵(By みてみん)

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