93「剥製」【挿絵あり】
ある大学院生の女性の方から聞いた話。
大学には当然の事ながら、学術において必要な標本や
サンプルが保管されている。
彼女はある時、生物学部の同僚から、資料を探すのを
頼まれたという。
「手伝ってくれ、イコール力仕事なんですけどね。
研究には男も女もありませんから」
探しているうちに、彼女は動物の剥製を見つけた。
意図的にではなく、古いダンボールの箱を開けたら、
偶然視界に入ってきたという。
タヌキの剥製だった。
しかし、どこか妙な違和感を感じた。
もっとよく見てみようとして、そのガラスのケースを
持ち上げ、照明の下で目をこらす。
ガラスケースの上といわず横面といわず、
模様のような跡が付いている。
一つの大きな円形に、4つの爪あと。
それらは全て、中から付けられているように
見えたという。
短く声を上げると同時に、ガラスケースを落として
しまった。
「幸い、割れませんでしたけど、
落とした音を聞いた同僚が駆けつけてきて」
ガラスケースをのぞくと、すでに足跡は
どこにもなかった。
「化かされたんですかねぇ、私」
後で教授に話をしたが、よくある事ではないが、
そう珍しい事でもないと言われたそうだ。





