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91「柿」【挿絵あり】
家と会社が近く、自転車通勤していた知人から
聞いた話。
ある時ちょっとしたミスで残業が発生し、終電が
関係無い彼は一番遅くまで会社に残った。
作業が終わり、彼は帰宅する事にした。
会社から家まで約30分。
距離にして、一駅区間より少し長い程度。
「だから、考えられるのは
その間にって事なんですけど……」
家に帰り、上着を脱いでハンガーにかける。
と、片側が妙に重く感じる。
見ると、左側のポケットがふくらんでいる。
何か入れたかな?
と手を入れると……
「柿が一個入ってました。
……もちろん入れた覚えなんてないし、
深夜2時過ぎだったし」
別に欲しかったわけでもないが、かと言って
そのまま捨てるのも気が引けた。
一応冷蔵庫に保管する事にしたが、食べる気にも
なれず放置。
結局、痛んできた頃に捨てたという。
「昔は、ああいうのでも
ご褒美になったんですかねえ」
それから間もなく他の会社に転職した彼は、
今は電車通勤となっている。