09「男女」【挿絵あり】
「いい話かどうかわからないですけど」
富山から上京してきた女性から聞いた話。
今は簿記を学んで一企業の経理を勤めている彼女だが、
高校まではバリバリの体育会系で、男性より女性に
人気があったほどだという。
「髪もジャマだからショートで、
肌も日焼けとか気にせずに真っ黒。
今じゃ考えられないですけど」
そんな彼女が小学生の頃、家に遠縁と名乗る
同じ年頃の少女が訪ねてきた事があった。
あいにくと両親が留守で、彼女1人で対応したのだが、
「あなたのお嫁になる者です。
どうかお父上にお伝えを」
何が何だかわからなかったが、その時は
“女同士でも結婚出来るんだっけ?”
と見当違いの事を考えていた。
しかしいくら考えても納得いくはずもなく、
どういう事ですか? と質問すると、
「お父上に伝えればわかります」
と返し、後は自分の顔を父親似とか、
褒めているような事を言っていた。
(口調が時代劇のセリフのような感じで、
詳しくはわからなかったらしい)
「あのぅ、女の子同士でも結婚って出来るの?」
そう言った途端、相手は目を丸くした。
そして彼女の顔をジッと見つめ、
「髪が短くありますが」
「動くのにジャマだから」
「手も足もその……
それだけ出して」
「半ソデと短パンの事?」
続いて二言三言交わすと、その少女はフラフラと
出て行ってしまった。
それからすぐに両親が帰ってきたので、彼女は
今まであった事を話した。
「まさか、そんな」
父親の顔色が見る見る青ざめていった。
その夜、母親と彼女に事情を説明した。
「何でも子供の頃、川で溺れかけた事があった時に
神様か何かわからないものに助けてもらった事が
あったんだって。
ただ、助けた理由というのが」
父親というのが、子供の頃からかなり美男。
→助けてやったのだから結婚しろ。
→でも人間と違うから結婚は無理だな。
→お前の息子なら美男だろ。
→息子が生まれたら、人間の姿で現れるから
それを婿によこせ。
(なるべく本人談を再現しております)
という流れだったらしい。
まあ、娘ならその約束は無効ですよね、と言うと
「アタシ、実は弟がいて」
彼は無事でしたか? と聞くと、
やはり彼女と同じ小学校高学年くらいの時に、
同様の訪問者があったらしい。
状況も同じく、1人で対応。
ただ、その時
「アタシも出かけていたんですけど、
アイツ、アタシよりも女顔でよく女の子と
間違われていたんです。
その時も、ちょっとイタズラして」
昼寝していた弟の顔に化粧をして、それから
遊びに出かけたという。
弟は気付かずにその姿のままで訪問者に
対応したところ、
「ま、また……」
一目見るなり、そう言ってそのまま帰って
しまったらしい。
年齢は幾分か上がっていて、ちょうど自分(姉)と
同じくらい、そう弟は言っていたそうだ。
「そういうのって、
神様はわからないものなんですかねー」
ちなみに、一度目(姉)は普通の洋服で、
二度目(弟)はリクルートスーツで現れたとの事。
細面で、絶世の美女とまでは言わないが、弟いわく
結構キレイな人だったそうだ。
取り合えず約束は息子限定だが、孫の代まで
延長されないか、それが一家の気がかりだという。