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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
89/300

89「流す」【挿絵あり】


愛媛県出身の女性から聞いた話。


すでに初老、といってもいいくらいの歳の彼女は、

幼少の頃、不思議な体験をしたという。


近くの小川にかけてある橋、その上で下の水の流れを、

お菓子を食べながらただながめていた。

そうしているうちになぜかふと、一つ落としてみる気に

なったという。




「ふ菓子を食べていたんですけどねえ。

 何ていうか、どういう風に流れていくのか

 見たかったんだと思います」




少し千切って川に落とす。

それは当然水に浮いて下流へと流れていく。

10メートルほど流れた地点で、ふ菓子は

水中へと消えた。




「でもねえ、それが妙に思えて」




水を吸ってだんだんと水中に沈んでいくの

ではなく、一気に水の中へ消えたような、

そんな感じがしたのだという。


もう一度見てみようと、少し千切ってはそれを

川に落とす。

何度か繰り返すうちに、彼女はある事に気付いた。




「近付いてきてたんですね」




ふ菓子が水中に消えるまでの時間が、

落とす度に早くなってきていた。

それは見る見るうちに橋の真下近くにまで―――


怖くなってきた彼女は、残りのふ菓子を思い切り

下流へと放り投げた。

すると、それを追いかけるように水中で影が

下流へと素早く向かったという。


彼女は振り返らずに家まで走った。

中では祖母がお茶を飲んでいたが、今見てきた事を

泣きながら訴えると、祖母は優しく頭を撫でながら

言った。




「そんなの、おかに上がっていりゃ

 怖くも何ともない」




祖母はそれが何か知っていたみたいだが、

なぜかそれ以上聞いてはいけない気がして

黙っていた。




「ただな、あまりうかつに川に何かもう

 流してはならんよ」




以来、彼女は東京に出てくるまで祖母の言葉を

守ったという。




「あの時は怖かったんですけど、

 今は懐かしく思えてねえ」




次に里帰りする時は、孫と一緒にお菓子を流してみる

つもりだと、彼女は微笑んだ。





挿絵(By みてみん)

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