84「侍」【挿絵あり】
同じ歳の知人から聞いた話。
彼の実家は岐阜にあり、よくそこで仲間と一緒に、
サバイバルゲームで遊んでいた。
「まあ過疎ってやつでね。
ちょっと山に入れば、犬と老人くらいしか
おらんかったし」
だからサバイバルゲームをやるには持ってこいの
環境で、時間さえあれば山に入って二手に別れて
対戦を楽しんでいた。
「ある時、山を一回りして相手の裏をつく
作戦を立てたんだ」
山と言っても小さく、少し高い丘くらいなもので、
30分もあれば回りこむ事が可能だった。
歩き続け、もう少しで、というところでそれは突然
目の前に現れた。
「何ていうのか、昔の侍みたいな
格好をしてた。ただそいつが」
その男は手に刀を持ち、今にも襲い掛かってきそうな
感じだったという。
振り上げられた刀をそのままに、ポーズをとって
いるかのように停止している。
「ただ、ほら。
こっちもサバゲーの最中だったし、
当然モデルガンだけど銃は持っていたわけで」
無意識のうちに、仲間も一緒にそいつに銃を
向けていた。
彼の目はそれに釘付けで―――
やがてジリジリと足を後退させると、一目散に
逃げ出した。
サバイバルゲームどころではなくなり、
二手に別れていた仲間に連絡を取り、
彼らは慌てて下山した。
「みんなで俺の家に戻って、警察に連絡するかどうか
話していたんだけど。
爺さんがやってきて“そりゃ山の狐か狸だろう”
って」
驚かせようとして出てきたものの、まさか
銃を持っているとは思わず、逆にびっくりして
逃げたのだろう、との事だった。
「そんな事より、
“それよりあそこはマムシも出るんだ、気ぃつけろ”
って言われた事の方が怖かったよ」
そう言って、彼は頭をかいた。