81「洞窟」【挿絵あり】
あるボランティアのバザーに参加して頂いた、
主婦の方から聞いた話。
彼女の家は都内にあり、結構年季の入った
家だったそうで、狭いながら庭もあった。
彼女がまだ小学校低学年くらいの頃の事。
ある時、庭の中心に大きな穴が開いているのを
見つけた。
中はどうやら垂直ではなく斜めに段差が
付いているようで、不思議に思いつつも
その中へと入っていったという。
奥に進むと、彼女より1つか2つ年下と思われる
少年がいた。
彼は驚いた表情で彼女を見ていたが、やがて
口を開いた。
「お母さんが帰ってくる前に、帰って」
昔風の着物を着ていた記憶があり、顔立ちもどこか
古風な感じを受けたという。
「でもここ、あたしの家だよ?」
そう言うと少年は泣きそうな顔になり、
いじめてしまったと感じた彼女は、慌てて
彼をなぐさめるために言った。
「ゴメン。すぐに出ていくから」
来た道、といっても一本道でしかなく、穴の外へ出た。
出ると、昼間に入ったはずなのに空には星が浮かんで
いたという。
「あの後、こんな遅くまでどこに行ってたんだって
両親に叱られて」
庭の穴の事を説明しようとしたが、その頃には穴は
影も形も無くなっていた。
その実家は、今でもそこにあるとの事だ。