08「浮気」【挿絵あり】
ある人とふとした事から、飼い猫の話題で
盛り上がった。その時に聞いた話。
公共関係に従事しているその人は、自分がまだ
25、6の時、20年ほど前の事になるが、
と思い出すように語り始めた。
当時、決して顔は悪くなく、また安定した収入も
あったが、なぜか恋人が長続きしなかった。
3人目に別れを切り出された時は、ショックのあまり
会社を1週間休んだという。
原因がわからない彼は、ある時会社の帰りに
ヤケ酒を飲み、自宅への帰り道、占い師に
見てもらう事にした。
普段はそんな事を全く信じない性格の持ち主で
あったのだが、何か納得する理由が欲しくて、
そんな事をしたのだろう、そう苦笑しながら話した。
お婆ちゃん、と言っていいくらいの占い師から
返ってきた答えは、異性運さえ諦めれば、
貴方は一生上手く行く、というものだった。
無論それで納得がいくはずもない。
ワラにもすがる思いで、どうにかならないかと
占い師に泣きついた。
「猫を外に出してあげなさい。
後は運でしょう」
彼には室内飼いの猫が確かにいたが、それを
占い師には話していなかった。
アメリカンショートヘアのメスで、値段も
さる事ながら今やなくてはならないパートナー
となっていて、もし万が一の事があったら、
と彼は頭を抱えた。
「まあ、死ぬわけではないし……
とにかく、やるだけやってみるかって事で」
会社の休みの日に、彼は猫を外に出してやる事にした。
最初は不安でたまらなかったが、日が経つにつれ慣れ、
最終的には自由に外出させてやるようになった。
「一ヶ月くらいしたら、妙な夢を見てね」
セミロングの黒髪で、細身の20代前半くらいの
女性が彼の前に現れた。
胸元が開いたイブニングドレスを着込み、
日本人離れした顔立ちをしていたが、
その顔に気まずそうな表情を浮かべて、
彼に話しかけてきた。
「内容は細かくは覚えていないけど、これからも
私の面倒を見て欲しい、貴方も好きにしていいから、
みたいな事を言ってた」
さらに一ヶ月ほど経過した頃、飼い猫の妊娠が
発覚した。
子猫が産まれた後、しばらくはその世話に
忙殺されたが、落ち着いた頃に彼に新しい
恋人が出来た。
そして半年もしないうちに結婚までこぎつけたという。
「何もかもスムーズにいったんだよ。
どうしてそれまでフラれ続けたのか
わからないくらいに」
現在、そのひ孫にあたる猫が彼の家にいるそうだ。