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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
7/300

07「戸」【挿絵あり】



民間の児童向けカウンセラーをしている

女性から聞いた話。




主に摂食障害系の児童を診てきた彼女は、

原因を探る過程で、いろいろな話を聞く事が

あるという。

ただ、相談者のプライバシーは守らなければ

ならないので、いくつかぼやかしておく、とは

断っていた。




「その子は何か特殊で。

 自殺未遂で連れてこられた人でしたけど……」




10代後半の女性で、思春期でもあり、思い悩む原因は

いくつも考えられた。

しかし、彼女の口から出てきた言葉は―――




「無いんです。何にも。

 いわゆる恋わずらいとか、家庭の事情とか、

 そういうものが何にも」




見ると外見はそこそこ、細身とは言い難いが別に

ダイエットが必要なほどとも思えない。

連れ添いで来た母親に聞いても、とても自殺を

抱えるほどの問題があるとは感じられなかった。




しかしどこか当人の口が重いと感じた彼女は、

母親に席を外してもらう事にした。

2人きりになれば、情報をオープンにしやすい。

やがて少女の口が開き、言い辛そうに一言二言、

ぽつぽつと語り始めた。




「お父さんにもお母さんにも言ったんですけど……

 誰も信じてくれなくて。

 私も、夢と言われたらそれ以上は……」




どんな事でも真面目に聞くから、

と彼女は話をうながした。




「戸が……木の引き戸があったと言うんですね」




少女の家は郊外にあり、少し離れると畑や川などの

自然に囲まれていた。

散歩をしていた彼女がふと横の藪を見ると、

戸が見えたのだという。




ただ、おかしいのはあるべき家が無い事。

木製の引き戸だけが、そこに何の支えも無く、

普通の家の戸のように立っていた。




「不思議に思って見ていると、

 その戸が開いたそうです」




開いたその先には藪とは別の空間が広がっていた。

当たり前のように屋内の、畳の和室。

その中央に誰かが座っているのが見えた。




「昔の猟師? というか、

 毛皮で出来た着物をまとっていたそうで」




しかし、中身はと言うと、まだ12、3才と

思える少年だった。

着ている物とは対照的に細面で髪は長く、

最初は男だと思わなかったらしい。




しばらく話し辛そうにしていたが、手招きされ、

ふらふらと戸の中へ入っていき、少年の前に座った。




「逆らえないとか、そういう事ではなく、

 ただ自然にそうしたとしか言えない、

 そんな事を言ってました」




少年は目の前に座った

彼女の手を取ると、そのままさらに奥へ

連れて行った。




そこには、余りにも巨大な木のテーブルがあった。

少年は彼女を座らせた後、当然のように隣へ腰を

下ろし、肩を抱く。

そして何か話しながら湯のみを渡してきた。


それを飲んでから記憶を失い、目が覚めると

病院のベッドの上だったという。




「農薬を飲んだらしいんです。

 見つかった場所は農具入れの小屋で、

 そこで倒れていたと」




それで自殺未遂と判断されたのだが、当人には

自殺する理由も何も無く、またこの事を話しても

信じてもらえないため、カウンセラーに診てもらう

事になった……という流れらしい。




「そうなると、ねぇ。

 自殺の再発防止をしようにも、

 そもそも当人に自殺する動機も

 何も無かったんですから」




もっと社交的になるか、恋人を作れば

両親も安心するのでは―――

と話すと、目を輝かせて、




「じゃあ、ある程度娘さんの好きにさせて

 あげなさいって、両親に言ってもらえますか

 って。

 全くもう、とは思いましたけど」




ただ、それで気が済むならと承諾。

両親も一も二も無く同意し、笑いをかみ殺しながら、

その少女は帰っていったという。




1つ、その少年が湯のみを渡す時に何を言ったか

気になったのだが、




「それはどうしても思い出せなかったって。

 でも、思い出せなくて良かったんじゃ

 ないんですかねえ」




彼女はそう言って話を締めくくった。






挿絵(By みてみん)

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